君とボクの二度目の冒険 〜病弱だった僕は、二度目の命で幼なじみと世界を旅する〜 作:屠龍
第四話 君と見たい外の世界
「今日から一緒に勉強するミレーヌだよ。みんな仲良くしてね」
先生に促されて、ミレーヌは元気よく頭を下げた。
その明るい声だけで、教室の空気が少しやわらぐ。
朝の光が窓から差し込み、木の机の上に細い影を落としていた。
ざわついていたクラスの視線が、ひとつ残らずミレーヌへ集まっていくのがわかった。
別の土地から来たばかりのミレーヌは、すぐにクラスの話題になった。
最初はどうなるか心配だったけれど、ミンとスグハが間に入ってくれたこともあって、女子たちとも思ったより早く打ち解けていた。
明るくて、よく笑って、知らないことにもすぐ興味を持つ。
そんなミレーヌに、みんな自然と引き寄せられていく。
教室のあちこちで小さな笑い声が起こるたび、僕まで少し誇らしい気持ちになった。
ただ、一人だけ面白くなさそうな顔をしている奴がいた。
「わからない所があったら何でも聞いてよ」
そう言って近づいてきたのは、クラス代表のリンだった。
成績優秀で顔もいいから、女子には人気がある。
でも僕はあいつが嫌いだった。
笑顔は爽やかなのに、いつも自分が他の人間より上だと思っているのが透けて見えるからだ。
リンの家は、この町でも指折りの金持ちだった。
田舎じゃ金を持っている家は、それだけで顔が利く。
教師たちも表向きは平等を装っているけれど、リンにはどこか遠慮があった。
実際、放課後になると先生がリンの家に家庭教師として呼ばれているのを、僕は何度も見ている。
あいつが教室で少しくらい嫌な顔をしても、誰も本気では咎めない。
そういうところも含めて、僕はリンが嫌いだった。
ミレーヌは僕とリンを見比べて、何かを察したらしい。
ここは穏便に、でもきっぱり断るのがいい。
僕がそう思った次の瞬間だった。
「ありがとう。でもボク、軽い男の子は嫌いなんだ」
教室が凍りついた。
今までこんなふうにはっきり拒絶されたことがなかったのだろう。
リンは一瞬だけ笑顔をなくした。
その横で、取り巻きの女子たちがミレーヌを睨みつける。
けれどミレーヌは、そんな視線を少しも気にした様子がなかった。
その日から、ミレーヌの机に落書きが増えた。
教科書が机の奥に押し込まれていたこともあった。
誰がやったのかなんて、わかりきっている。
けれど教師は見て見ぬふりをした。
気づいていないはずがないのに、教室の空気だけがわざとらしく静かだった。
「……ほんと子どもっぽい」
落書きを見たミレーヌは、呆れたみたいに肩をすくめただけだった。
怒るでもなく、泣くでもなく、まるで時間を無駄にしたくないみたいに。
でも僕は我慢できなかった。
昼休み、僕はリンの席まで行った。
取り巻きの女子と楽しそうに話していたリンが、ゆっくり顔を上げる。
「リン、いいかげんにしろよ」
「何だよ。僕が何かしたっていうのか?」
涼しい顔で言い返されて、僕は唇を噛む。
こいつは絶対に自分では手を汚さない。
だから余計に腹が立った。
教師に言ったところで、どうせ強くは出ない。
そう思ってしまうのが悔しかった。
学校からの帰り道、僕はミレーヌに言った。
「ミレーヌ。やっぱり先生に言おうよ」
「ああいうのって、ボクからすれば子どもっぽいじゃん。相手にするだけ損だよ」
「それはそうだけどさ……」
「それに、あんな連中に構ってる時間、もったいないし」
そう言ってミレーヌは、前を向いたまま笑った。
本当に気にしていないみたいで、逆に僕のほうが落ち着かなくなる。
「ボクはね。誰よりも強くなって、外の世界に行くのが夢なんだ」
その声は、冗談じゃなかった。
僕は思わず足を止めた。
「ミレーヌは、大人になったら外の世界に行くの?」
「うん。ボク、大人になったら冒険者になりたい」
そう言って笑うミレーヌは、いつもより少しだけ遠くを見ている気がした。
夕暮れの光が横顔を照らして、その瞳の先に本当にまだ見ぬ景色が広がっているみたいだった。
「ユキナは大人になったら何をするの?」
「僕の家は蔵元だから、跡を継がないと」
「そっか……」
少しだけ寂しそうに言ってから、ミレーヌはまた笑った。
「でもボク、ユキナと一緒に外の世界が見てみたいな」
胸の奥が熱くなった。
夢をまっすぐ口にできるミレーヌが眩しかった。
そして、その言葉がたまらなく嬉しかった。
……でも、それだけではすまない事件が起こった。