君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第四十二話 救出――絶望の中に灯るもの――
洞窟の入り口の方から物音が聞こえた。
視線を向けると、人影が見える。
狩りに出ていたゴブリンが戻ってきたのか――!?
そう思って武器を構え、囚われた人たちを守ろうとすると、洞窟へ入ってきたのは他の冒険者たちだった。
人数は四人。
戦士が二人、魔法使いと斥候らしき者が一人ずつ。
皆男性で熟練の冒険者に見えるが、瞳の色が濁っているように見える。
僕が違和感を感じたのもつかの間。
シグレさんが剣を抜いて身構えていた。
セシルさんも油断なく冒険者たちを警戒している。
「ああ、先を越されたか。心配しなくていい。俺たちも村から依頼を受けて、ここを見つけただけだ」
そう言って、ブレストプレートを身につけたリーダーらしき人物が、敵意がないことを示すように両手を上げた。
その様子を見て、シグレさんがわずかに剣を下ろす。
「ここのゴブリンの一部が狩りに出かけた。十匹で編成はリーダーらしき大型が一匹、参謀らしいシャーマンが一匹。あとの八匹はショートソードと弓で武装している」
シグレさんが説明すると、冒険者のリーダーが頷いた。
「そっちの方は任せろ。手ぶらで帰るのは癪だからな。村人たちを頼む」
そう言ってリーダーは仲間に配置を指示し始めた。
狩りに出ていたゴブリンたちを待ち伏せするつもりなのだろう。
手練れらしく、てきぱきと動き出す彼らを見て、僕が思わず安堵の息をついた時だった。
シグレさんが僕を見て、目だけで油断するなと伝えてくる。
よく見ると、冒険者のリーダーらしき男が、何かを測るような目でこちらを見ていた。
シグレさんとその男が視線をぶつけ合う。
やがて男は諦めたように肩をすくめ、僕たちと村人から距離を取った。
僕とミレーヌは何が何やらわからないまま、被害者たちを連れて帰途についた。
◆◆◆
ゴブリンの被害にあった村人たちの姿はあまりにも痛々しく、途中の川で身体を洗い、持っていた食料を分け与えることにした。
僕たちは火を起こし、一人ずつ布で身体を拭いてから火にあたってもらった。
パンと干し肉のスープという質素な食事だったけれど、それでもようやく少し落ち着いてくれたようだった。
震えていた女の子はミレーヌと話が出来るくらいに回復していた。
他の村人も洞窟を出られたことで安心したのかもしれない。
ミレーヌの周りに人の輪ができていた。
最初は火のそばにうずくまり、誰とも目を合わせようとしなかった人たちが、少しずつミレーヌの近くへ寄っていく。
ミレーヌは何か特別な事をするわけじゃない。
ただ隣に座り、手を握り、相手が落ち着くまで静かに声をかけているだけだ。
それなのに、不思議とその場の空気がやわらいでいく。
怯えきっていた女性が震える息を整え、泣き崩れていた少女も、いつの間にかミレーヌの肩にもたれて静かに涙を流していた。
男性たちの顔にも、張りつめた絶望だけではない色が戻り始めている。
折れた心の欠片を、ミレーヌが一つずつ拾い集めている。
そんなふうに、僕には見えた。
陽はすっかり落ちていたから、その夜は川から離れた場所で一晩過ごすことになった。
テントを張って村人たちを寝かせたあと、僕とミレーヌは川辺で見張りをしていたシグレさんに呼ばれた。
「ああいう時は油断するな」
「どうしてですか?」
僕が問い返すと、シグレさんは真剣な表情で言った。
「私たちの功績を横取りしてくるかもしれないからだ」
言われてみると、あの男は一瞬、剣の柄に手を伸ばしかけていた。
あれは気のせいではなかったのだ。
「でも、まさかそんな事は……」
「いや、よくある事だ。こちらが全員無傷だから諦めたようだがな」
「でも、そんな事をしたら村人が黙っていませんよ」
ミレーヌがそう言うと、シグレさんは首を振る。
「村人にとっては、生きて帰れればどちらが勝とうが関係ない。そういうものだ。人間は状況によって善にも悪にもなる。その事を忘れるな」
そう言って、僕とミレーヌの頭を撫でてくれた。
そこへ、被害者たちの様子を見ていたセシルさんも川辺へやって来た。
苦笑しながら話に加わる。
「あたいもシグレも、昔ひどい目にあった事があるからさ。同じクエストの報酬を持ち逃げされた」
しっかり者のセシルさんがそんな失敗をするなんて。
僕の考えていることを顔で読んだのか、セシルさんは困ったように頭の後ろをかいた。
「最終的には取り返したけどね。余分な手間がかかったのさ。あたい達だって、色々失敗してきたんだよ」
シグレさんもセシルさんも、僕とミレーヌにとっては大先輩だ。
その二人の失敗談には大いに興味があった。
けれど、今はさすがにそこまで聞ける空気ではない。
もっと親しくなれたら、いつか話してくれる日も来るかもしれない。
シグレさんは苦々しく、セシルさんは笑いながら。