君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第四十三話 僕に出来る事――それでも人は生きていく――
僕達は攫われた村人たちを護衛してカク村へと戻る。
森を抜けた時には、もう昼になっていた。
疲れ切り、傷を負った人たちの足では、朝のうちに村へ戻ることは出来なかったのだ。
彼らは自分たちが助かったことを喜びながらも、同時に不安を抱えているようだった。
特に女性たちは、ゴブリンによって深い傷を負っていた。
ミレーヌの魔法で必要な処置は済ませたとはいえ、心まで元通りになるわけじゃない。
もちろん、それは彼女たちのせいではない。
悪いのはゴブリンだ。
それでも、これからどんな思いで生きていくのだろうと考えると、胸が重くなった。
「お父さん!! お母さん!!」
僕より幼い少女が、家族に抱きつきながら大声で泣いている。
助かった喜びと、押し殺していた恐怖が一度にあふれ出したのだろう。
その再会を見て、僕も涙がこみ上げそうになった。
隣で僕の手を握ってくれているミレーヌも、同じように泣いていた。
「攫われた者たちを救っていただいて、感謝いたしております」
村長さんをはじめ、カク村の主だった人たちが僕達の手を取って礼を言ってくれる。
僕はこの世界で二度目の生を受けて、誰かのために尽くしたいと思っていたから、本来なら嬉しいはずだった。
嬉しいはずなのに、素直に喜べない。
それは、助かった人たちのこれからを考えてしまうからだ。
僕とミレーヌの表情が暗いのを見たシグレさんが、カク村にある食堂で昼食を取りながら話をしてくれた。
「今回攫われた娘たちは、しばらく修道院に預けられる事になるだろう」
「え!? どうしてですか!!」
僕は思わず椅子から立ち上がってしまった。
ガタンという音を立てて椅子が倒れる。
「落ち着けユキナ。別にそのまま修道女にされるわけではない。修道院で療養し、身も心も整えてから戻ってくるのだ。このまま村に留めても、本人たちも周囲もどう接していいかわからなくなる」
「でも、せっかく家族の元に戻れたのに」
「だからこそだ。今は休ませる必要がある。修道院はそういう者を預かり、治療し、落ち着いてから元の暮らしへ戻すための場所でもある。すぐに元通りになどなれん。時間が必要なのだ」
僕は言葉を失った。
助かれば終わりじゃない。
命が繋がったあとも、その人の苦しみは続いていくのだ。
「ユキナ。お前が気にするのはわかるが、これはもうお前一人でどうにか出来る事ではない。お前がゴブリン退治をしたから、この先同じような被害者が出るのを防げたのだ。よくやった」
シグレさんが僕を慰めてくれる。
その声は厳しくなく、ただ静かだった。
こういう言葉をかけられる人のことを、大人というのだろう。
「ありがとうございます」
「ユキナのおかげで多くの者が救われた。お前が全て背負う必要はない。他人を頼る事は恥ではないぞ」
そう言って僕の頭を優しく撫でてくれるシグレさんだ。
僕にミレーヌがいなかったら、シグレさんに惹かれていたかもしれない。
どうしてシグレさんには夫や恋人がいないのだろう。
こんなに強くて、気遣いもできる人なのにと思う。
今後の僕達の仕事は、残ったゴブリンの掃討だ。
攫われた人たちの分も、きっちり償わせなくてはならない。
幸い、先発した冒険者たちがあらかたゴブリンやオークを退治してくれているので、僕達の負担は少ないらしい。
「今夜はしっかり寝て、体力をつけておかないとな」
シグレさんが真面目に言うと、
「体力をつけておくんだよ。夜に無駄遣いしちゃ駄目だからね♪」
セシルさんにからかわれて、僕とミレーヌは頬を染めた。
夕食は豪華だった。
肉料理が多かったけれど、温かい料理を腹いっぱい食べられるだけでありがたい。
美味しい食事を頂きながら、今回の出来事を振り返る。
森を歩き、初めての冒険に胸を躍らせた。
けれど同時に、凄惨な現実も知った。
正面から戦うだけじゃない。
相手を眠らせて仕留めることもある。
冒険者は綺麗ごとだけでは務まらないのだ。
夕食の後、お風呂に入り、自室でベッドを整えてパジャマに着替えていると、部屋のドアがノックされた。
開けると、お風呂上がりでパジャマに着替えたミレーヌが立っていた。
「ユキナ……一緒に寝よう?」
あの夜以来、お互いの好意を隠すことはしなくなった。
前よりずっと、自然に寄り添えるようになっていた。
「もちろん。僕もミレーヌと一緒に寝たい」
そう言って、僕達は同じ部屋で眠ることにする。
お互い意識してしまうけれど、セシルさんにも念を押されたので、今夜は無茶はしない。
このクエストが終わるまで、体力はしっかり整えておかないと本当に危ないからだ。
だから今夜は、ベッドの中で手を繋ぎ、キスをするだけで我慢する。
「ミレーヌ」
「どうしたのユキナ?」
「僕は冒険者を続けられるのか、不安になってきた」
シグレさんとセシルさんの前では言えない弱音も、ミレーヌの前なら言える。
初めての経験が強烈すぎて、自信をなくしそうだった。
そんな僕を見て、ミレーヌは優しく微笑む。
そしてそっと抱きしめてくれた。
ミレーヌのぬくもりに包まれると、不思議なくらい安心した。
今の僕には、それだけで十分だった。
「ボクはユキナと一緒がいいな。一緒に乗り越えていこうよ」
「そうだね」
ベッドの中で、僕とミレーヌは抱きしめあう。
明日も朝早い。
すべては今回のクエストが終わってからだ。
僕達はそう思いながら、静かに眠りについた。