君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第四十四話 決意の帰還――それでも僕は救いたい――
翌朝、僕とミレーヌとシグレさんとセシルさんは、残ったゴブリンの掃討に向かうため村を出た。
前回通った森の獣道を抜け、その日の昼には例の洞窟へとたどり着く。
だが、洞窟の前に広がっていたのは、すでに終わった戦いの跡だった。
矢で射抜かれ、魔法で焼かれたゴブリンの死体があちこちに転がっている。
大斧を構えたまま倒れている大型のゴブリンは、集中して攻撃を受けたのだろう。
その隣には、剣で切り刻まれたシャーマンらしきゴブリンが息絶えていた。
入れ替わりにやって来た、あの油断ならない冒険者たちが掃討したに違いない。
あまりにも凄惨な現場に、僕は思わず顔をしかめた。
「もう終わったあとみたいですね」
「そうだな」
僕の呟きに、シグレさんが短く答える。
前回別れた冒険者たちが、このあたりの洞窟をしらみつぶしにしているのは明らかだった。
僕たちの依頼も、実質これで終わりだろう。
「ボク達、これからどうします?」
ミレーヌが死体から目を逸らしたままシグレさんに尋ねる。
憎しみとも、哀れみともつかない複雑な顔をしていた。
「念のため、他の洞窟も調べてから依頼終了でいいんじゃないの?」
「いや、それは駄目だ」
セシルさんの言葉に、シグレさんははっきり首を振った。
「あの冒険者達は、こちらの命を狙っていてもおかしくない。あちらは五人、しかも魔法使いがいる。まともにやっても分が悪い。ゴブリン退治の勢いに乗じて、銀貨や装備を奪うために襲ってきても不思議ではない。ここはさっさと引くべきだ」
その判断は正しいと僕も思った。
村人たちがいたから手を出さなかっただけかもしれない。
人間同士で争うなんて馬鹿馬鹿しい。
でも、経験豊富なシグレさんがそう言うなら、きっと現実にそういう事は起こるのだろう。
「僕もシグレさんに賛成です。これ以上は、あの人たちに任せたいです」
いくら冒険者だからって、殺し合いがしたいわけじゃない。
それに、人間を殺すのは出来れば避けたい。
「ボクもそう思います。人間同士で戦いたくはないです」
ミレーヌもすぐに頷いた。
「あたいも危険は避けたいね。今のうちに帰って報酬を貰うのが一番さ」
セシルさんも同意し、僕たちの方針は決まった。
そうと決まれば長居は無用だ。
僕たちは洞窟を後にし、そのままカク村へ引き返した。
「ゴブリンの掃討はほぼ終わったから、もう山に入っても大丈夫だとは思うが、念のため一週間くらいは森に入るのは控えたほうがいい」
村に戻ると、シグレさんが村長にそう言い渡した。
この辺りの村は薪や山菜を森に頼る部分も大きい。
だからこそ、一週間という区切りも現実的なのだろう。
◆◆◆
「ありがとうございました。何もありませんが、帰りの足しにでもしてくだされ」
そう言って村長さんが、貴重な食料を分けてくれた。
ちょうどゴブリンに攫われた女性たちが、荷馬車でフレーベルの修道院へ向かうところだという。
僕たちも、その荷馬車に便乗させてもらうことになった。
荷台に乗り込んだ女性たちの顔は、みな暗い。
当たり前だ。
故郷を離れることも、修道院へ行くことも、彼女たちが望んだわけではない。
ようやく助かったのに、その先にもまた長い時間が待っている。
「お姉ちゃん……わたし、またカク村に戻れるよね?」
荷馬車に揺られながら、僕たちより幼い少女がミレーヌにそう尋ねた。
ミレーヌがその子を優しく抱きしめると、少女は堪えていたものをこぼすように泣き出した。
それにつられるように、他の女性たちも静かにすすり泣く。
ミレーヌは一人ひとりの肩に手を置き、順番に抱きしめていった。
彼女たちの虚ろだった瞳に、ほんの少しだけ光が戻るのを僕は見た。
ミレーヌのぬくもりが、壊れかけた心をかすかにつなぎ止めているのかもしれない。
彼女たちが修道院で身も心も癒し、再び笑えるようになるまでどれくらいかかるのだろう。
もしかしたら、二度とカク村に戻れない人もいるかもしれない。
荷馬車の外には、収穫を待つ麦に似た作物が風に揺れていた。
鳥は楽しげに鳴き、子どもたちの笑い声が遠くに響く。
もうすぐ収穫祭の季節だ。
本当なら彼女たちも、村の中で笑いながらその準備をしていたはずなのに。
こんなにも世界は明るく、美しい。
なのに、それを見つめる彼女たちの瞳はまだ暗いままだった。
(許せない。絶対に許せない)
僕は荷馬車に揺られながら、拳を痛いほど握りしめていた。
もっと早ければ、こんな結末は避けられたのかもしれない。
そんなふうに思うのは傲慢だ。
わかっている。
それでも、そう思わずにはいられなかった。
山賊やゴブリンのような魔物の被害者は、きっとこれからも出る。
僕がどれだけ強くなっても、全部を救うことはできないだろう。
だけど、何もしないよりはいい。
昨夜、ミレーヌに吐いた弱音を思い出す。
――僕は冒険者を続けられるのか不安になってきた。
何を馬鹿な事を言ったんだろう。
僕はこんな人たちを、一人でも多く助けたい。
誰かを救える存在になりたい。
だから、強くなろう。
そう、心の底から思った。
荷馬車の中にはまだ重い空気が残っていた。
けれどその中で、僕の中にははっきりとしたものが生まれていた。
もう、前と同じ気持ちではいられない。
三日間の馬車旅の末、僕たちはフレーベル王国の首都フレーベルへ戻った。
けれど帰ってきた僕は、ここへ来た時の僕とはもう違っていた。