君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第四十五話 ゴブリンが蔓延る世界――青銅の証――
フレーベル国の首都フレーベルにある冒険者ギルド『黄金の獅子亭』。
そこには各地でゴブリンやオークの討伐を終えた冒険者たちが、次のクエストを求めて集まっていた。
受付で依頼を受ける者。
ギルド併設の酒場で飲み食いしながら情報交換をする者。
仲間内で話し合う者。
そして新たな仲間を探して声をかけ合う者。
皆それぞれ思い思いに過ごしているが、空気はどこか明るかった。
今回参加した冒険者の多くは初心者で、初めて冒険者らしい経験をしたのだろう。
もちろん初戦で命を落とした者もいた。
それでも、ギルドが提示した依頼の大半は達成されたらしい。
ゴブリン討伐、山賊退治、商人の護衛。
各地から完了報告が届いている。
僕たちが冒険者ギルドに到着したのは、そんな時だった。
分厚い木の扉を開けた瞬間、酒と焼いた肉の匂い、食器の触れ合う音、人々の笑い声が一気に押し寄せてくる。
村で見た痛々しい光景や、森の冷たい空気とはまるで違う。
同じ世界の中にあるのに、ここだけが別の場所みたいだった。
それでも、そのざわめきに包まれた瞬間、僕はようやく実感する。
ああ、自分たちは本当に生きて帰ってきたのだと。
馴染みの受付嬢、マリア・ラ・ロシェールさんのところへ向かう。
「ユキナ君、ミレーヌちゃん、お帰りなさい!!」
「ただいま戻りました」
「マリアさん、ただいま♪」
受付カウンターから身を乗り出し、僕とミレーヌの無事を喜んでくれるマリアさん。
そんな僕たちを、シグレさんとセシルさんが微笑ましそうに見ていた。
二人にとっても、マリアさんは気軽に話せる相手なのだろう。
「マリア嬢、今回のクエスト完了報告と報奨金の受け取りに来たのだが」
「もう準備してあるよ」
そう言ってマリアさんが、銀貨の入った袋と契約書を取り出した。
シグレさんが慣れた様子で契約書にサインし、マリアさんが印を押して魔法で手続きを終える。
その瞬間、僕の首にかけてある、丸の中に獅子が描かれたペンダントが淡く光った。
胸元にほのかな熱が広がり、僕は思わず息を呑む。
冷たい金属のはずなのに、今だけは生き物みたいに温かかった。
その光を見た瞬間、山賊との戦い、ゴブリンの洞窟、助けた村人たちの顔が一気に胸をよぎる。
怖かった事も、苦しかった事も、全部消えたわけじゃない。
でもそれでも、ここまで来られた。
自分がちゃんと前へ進めたのだと、その小さな光が教えてくれている気がした。
「これは何ですか?」
「銅級から青銅級に昇格した証よ。ユキナ君、ペンダントを貸して頂戴」
僕が差し出すと、マリアさんが印を結び、手をかざす。
すると銅製だったペンダントは青銅製へと変わった。
色味がほんの少し深くなり、手の中で前よりも頼もしく見える。
たったそれだけの違いなのに、不思議と重みまで変わったように感じた。
ただの飾りじゃない。
冒険者として、ひとつ先へ進んだ証なのだ。
「ユキナ君は今日から青銅級よ。これで青銅級の依頼を受けられるわ」
「やった!!」
「やったねユキナ。これでボクと同じクエストを受けることができるね」
今までギルドの決まりで、僕はミレーヌと同じ依頼を受けられなかった。
でも、これでやっと同じ青銅級だ。
訓練を始めた頃は、ミレーヌの背中を追いかけるだけで精一杯だった。
同じ場所に立ちたいと思っても、まだ遠いものだと感じていた。
それが今、ようやく肩を並べられるところまで来たのだと思うと、胸の奥が熱くなる。
僕とミレーヌは思わず抱き合って喜んだ。
ミレーヌの体温が、服越しにそのまま伝わってくる。
前ならこんなふうに人前で抱きしめるなんて出来なかっただろう。
けれど今は、嬉しいという気持ちのほうが先に立ってしまった。
同じクエストを受けられる。
同じ場所で戦って、同じ景色を見られる。
それがたまらなく嬉しかった。
「あらあら。ユキナ君とミレーヌちゃん、いつの間にそんなに仲良くなったのかしら」
「僕とミレーヌは同じ街出身ですから」
そう答えると、マリアさんはにこにこしながら首を傾げた。
「そう? それだけじゃない気がするわね」
その一言で、僕とミレーヌは一気に赤面した。
慌てて抱き合っていた身体を離す。
周りの視線まで急に気になってきて、僕は思わず咳払いをした。
隣を見るとミレーヌも耳まで真っ赤になっていて、でもどこか嬉しそうに笑っている。
そんな僕たちを、大人たちが微笑ましそうに見ていた。
からかわれているのに、不思議と嫌な気分はしなかった。
むしろ、ここまで来たのだと認めてもらえた気がして、少しだけ誇らしかった。