君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第四十六話 ゴブリンが蔓延る世界――強くなる理由――
「かんぱーい!!」
僕とミレーヌとシグレさんとセシルさんは、酒場で祝杯をあげた。
僕とミレーヌはアルコール度の低い甘い果実酒。
シグレさんとセシルさんは、それぞれ好みの強い酒を飲んでいる。
テーブルには、川魚の焼き物、魚介のスープ、ソーセージ、鶏肉の揚げ物、チーズやパンが並んでいた。
僕とミレーヌにとっては、初めて冒険者らしい依頼を果たした祝いでもある。
嬉しさも格別だった。
「ふむ。私への借金も、もう少しで完済だな」
「すみません」
そう詫びる僕とミレーヌに、シグレさんは気にするなと手を振る。
でも、やっぱり良い鎧を買って正解だった。
あの装備がなければ、僕は本当に死んでいたかもしれない。
「それで、ユキナとミレーヌはどうするのだ?」
「あたし達は鉄級の依頼が解禁になったから、そっちを受けるつもりだけど。一緒に来るかい?」
シグレさんとセシルさんは鉄級だ。
僕たちとは違う。
より危険で、より報酬の高い依頼を受けることができる。
でも今の僕たちには、まだ荷が重いだろう。
それに、僕にはやりたい事があった。
「お気持ちは嬉しいのですが、僕にはやりたい事があります」
「やりたい事って?」
セシルさんがからかうように笑う。
僕は少し息を整えてから答えた。
「僕は、ゴブリンを狩りたいと思います」
一瞬、三人が黙った。
それはそうだろう。
ゴブリンは銅級でも相手にする弱い魔物だ。
青銅級の僕がわざわざ追いかけるには、効率の悪い相手でもある。
「ユキナ。気持ちはわかるが、その考えは泥沼だぞ」
「どうしてですか?」
僕は思わず聞き返した。
荷馬車の中で見た人たちの顔が、まだ頭から離れない。
あんな犠牲者を、もう見たくなかった。
「ユキナは、ゴブリンの被害に遭う人を減らしたいんだね。ボクは賛成するよ」
ミレーヌがすぐに言ってくれる。
嬉しかった。
ミレーヌ自身の昇格が遅れるかもしれないのに、それでも僕に寄り添ってくれる。
「うーん、それは一度は考える事だけどね。あたいは反対かな」
セシルさんが空になった杯を指先で転がしながら言った。
「どうしてですか?」
「今のユキナとミレーヌじゃ、大したことが出来ないからさ」
言い方は軽いけれど、その目は真面目だった。
「ユキナとミレーヌは、自分たちだけでゴブリンを百匹殺せると思うか?」
シグレさんにそう言われると、僕は言葉に詰まった。
数匹ならともかく、百匹は無理だ。
少なくとも今すぐは、とても無理だろう。
「確かに僕にその力はありません。ですが、村の人たちを見殺しには出来ないです」
「その考え自体は間違っていない。だが、それならなおさら、お前はもっと上を目指すべきだ」
どういう意味だろう。
僕はシグレさんの言葉の続きを待った。
「ゴブリンは確かに村を脅かす。だが、村を襲う災厄はゴブリンだけじゃない。もっと強い魔物もいるし、もっと大きな被害を出すものもある。お前が本当に人を救いたいなら、弱い相手だけを追い続けて足を止めるべきではない」
「でも……」
「本来、村を守るのは王や貴族の役目だ。だが、現実にはどこも余裕がない。だから被害が出る。そこへ一人の冒険者が飛び込んで全部を埋めようとしても、限界がある」
シグレさんの声は静かだった。
僕を否定したいわけじゃない。
そうじゃなく、僕の見ているものをもっと広げようとしてくれているのだとわかった。
「小さな被害を見て怒るのは悪くない。だが、小だけを見て大を見失ってはいけない」
僕は黙り込んだ。
言っていることは、わかる。
頭では理解できる。
でも、あの泣いていた少女の顔を思い出すと、感情がすぐには納得してくれなかった。
そんな僕に、セシルさんが口を挟む。
「今のユキナが一度に相手できるゴブリンは、せいぜい五匹くらいだろ? 鉄級のあたいなら十匹は相手にできる。強くなれば、それだけ助けられる数も増えるんだよ」
その言葉は不思議と、すっと胸に入ってきた。
確かに、今の僕に出来ることは少ない。
ゴブリンだけを追いかけたところで、すぐに限界が来る。
でも、もっと強くなれば。
もっと多くを守れるようになれば。
今回、シグレさんとセシルさんが僕たちと組んでくれたのは、純粋な好意からだ。
装備の選び方も、旅の仕方も、戦い方も教えてくれた。
その恩人を、僕はさっき睨みつけてしまった。
自分の未熟さが恥ずかしい。
「ごめんなさい。僕の考えが足りませんでした」
「気にしなくていい。みんな一度は通る道だ」
そう言ってシグレさんが笑い、僕とミレーヌの頭を優しく撫でてくれる。
その手は暖かくて、少しだけ泣きそうになった。
「間違いを認められるなら、それでいい。あとは強くなれ」
「はい」
僕は深く頷いた。
ゴブリンに苦しめられる人を見た。
だから、ああいう人たちを救いたいと思った。
その気持ちは、間違っていない。
ただ、そのためにはもっと強くならなくてはいけないのだ。
シグレさんやセシルさんのように。
心も、体も。
酒場の喧騒の中で、僕は新しい青銅のペンダントをそっと握りしめた。
これで終わりじゃない。
ここから先、もっと強くなって、もっと多くを守れるようになるための始まりなのだ。