君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第四十九話 恋人とお洒落なワンピース――青空市場の一日――
カーテンから差し込む日差しで、僕は目を覚ました。
窓の外を見ると、美しい澄んだ青い空。
雲も少なく、よく晴れているようだ。
僕の隣には、愛しい恋人のミレーヌがすやすやと眠っている。
長い髪が少し乱れて枕に広がり、朝の光を受けてやわらかく輝いて見えた。
昨夜、僕とミレーヌは正式に恋人になった。
それからたくさんの事を話した。
これからの事。
不安な事。
それでも隣にいてほしいという気持ち。
そうしているうちに、僕たちはいつの間にか寄り添い合ったまま眠っていたのだ。
僕の腕に頭を預けて眠るミレーヌの顔は穏やかで、見ているだけで胸があたたかくなる。
美しく愛しい恋人。
まだ少年と少女と呼んでいい年齢の僕たちは、これからどんな経験をしていくのだろう。
このあどけない少女を悲しませたりしない。
そう思いながら見つめていると、ミレーヌがうっすらと目を開けた。
「おはようミレーヌ」
「うん。おはようユキナ」
そう言って僕の胸に頭を寄せてくるミレーヌが可愛らしくて、僕はその髪をそっと撫でていた。
昼近くになってから、僕たちは宿に併設された浴場で身体を洗い、さっぱりしてから一階の食堂で待ち合わせをした。
幸いというか、シグレさんとセシルさんには会わなかった。
もし会っていたら、昼近くまで一緒に寝ていたことをからかわれていたに違いない。
僕とミレーヌは、ベーコンと目玉焼きの昼食だけでは足りず、昼からステーキまで頼んでしまった。
昨日から色々ありすぎたせいか、やけにお腹が空いていたのだ。
ミレーヌも僕につられるようによく食べる。
皿がどんどん積み上がっていくのを見て、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「どうしたの?」
「ううん。ユキナがすごく美味しそうに食べてるから、可愛いなって思ってただけ」
前世では味気ない病院食ばかりだったから、今の僕は何を食べても美味しく感じる。
そんなふうに夢中で食べている姿を、ミレーヌは楽しそうに見ていた。
「ミレーヌ、これからどうしよう」
僕がそう尋ねると、ミレーヌは少し考えてから言った。
「せっかくだし、今日は街を歩いてみようよ。ボク、こんな大きな街で遊んだことない」
「いいね。それ」
よく考えたら、冒険者になるための勉強や依頼で忙しくて、首都フレーベルをゆっくり見て回ったことはなかった。
今日は休みだ。
こういう日くらい、遊びつくしてもいいだろう。
「じゃあ食べ終わったら着替えて出かけよう」
「うん♪ ボクも楽しみ」
こうして僕たちは街へと出かけることにした。
首都だけあって人通りは多く、露店の呼び声や荷馬車の音が絶えない。
焼き菓子の甘い匂いや香辛料の刺激的な香りが風に混じって漂ってきて、歩いているだけでも楽しかった。
人混みの中ではぐれないように自然と手を繋ぐと、ミレーヌが少しだけ指に力を込めて握り返してくる。
それだけの事なのに胸がどきりとして、僕は思わずミレーヌの横顔を見てしまった。
ミレーヌは何でもないふうを装っていたけれど、耳がほんのり赤くなっていて、僕は少しだけ嬉しくなった。
まず僕たちは青空市場に向かった。
そこには新鮮な野菜や果物、日用品、アクセサリー、服まで色々なものが並んでいた。
もちろん貴族御用達の高級店とは違うけれど、見ているだけでも楽しい。
僕もミレーヌもシャツとロングパンツに長衣という、いかにも田舎出身の簡素な格好だ。
色も地味で、ちょっと寂しい。
「わ、見てみてユキナ。ボク、こういうの着てみたい」
そう言ってミレーヌが指さしたのは、前をボタンで留める青いワンピースだった。
身体の線が出やすい作りで、スタイルのいいミレーヌが着たらきっと映えるだろう。
「おや、目が高いね。これはさる富豪の着ていたお古でね。手直しはしてあるが、まだまだ着られる逸品さ」
露店のおばさんが得意げに言う。
このワンピースも、地味な方とはいえ上等だった。
お古とはいえ、僕たちには安い買い物じゃない。
でも、今なら報酬もある。
何より、ミレーヌにすごく似合いそうだった。
「これに髪飾りがあれば完璧!!」
思わず力説すると、ミレーヌが苦笑しながら白い花飾りを合わせてみせてくれる。
白い花が緑の髪によく映えて、僕は本気で見惚れた。
「これにしよう、そうしよう、今すぐしよう!! ミレーヌに凄く似合ってるよ!!」
前のめりで手を握る僕に、ミレーヌは目をぱちくりさせながらも笑ってくれた。
そして露店のおばさんにお金を払い、店に併設された試着室で着替えてくる。
戻ってきたミレーヌを見た瞬間、僕は言葉を失った。
青いワンピースは、思っていた以上にミレーヌに似合っていた。
可愛らしいのに、大人びても見える。
白い花飾りまでつけると、さっきまで市場を歩いていた女の子とは別人みたいだった。
通りを歩く人までちらりとミレーヌに目を向けていて、僕は誇らしいような、少し落ち着かないような気持ちになる。
「そんなに気に入ったの? この服、ボクちょっと恥ずかしいんだけどね」
「恋人が可愛すぎて、惚れ直しました」
「ふふん♪ 今更ボクの可愛さに気づいたか~♪」
「うん!! 可愛すぎてもう死にそう!!」
「まだ死んじゃ駄目だよ。ユキナはボクとずっと一緒にいるんだからね」
そう言って腕を組んでくれるミレーヌ。
周りに見せつけるようにしているのは、気のせいじゃないと思う。
そういう僕も、ミレーヌに見惚れる男たちに、この子は僕の恋人だと胸を張りたかった。
僕もミレーヌほどじゃないけれど、藍色のローブを買った。
こちらは庶民向けの布だけれど、袖口と襟に刺繍が施されていて十分お洒落だ。
いつかはミレーヌにもっと良い服を買ってあげたい。
でも今日はまず、この姿で一緒に街を歩けるだけで十分幸せだった。