君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第五十一話 ハーフエルフの兄妹
第五十一話 ハーフエルフの兄妹
喫茶店で談笑したあと、僕たちは冒険者ギルドへやって来た。
今日は依頼を受けるつもりはなく、新しいクエストが出ていないか確認に来たのだ。
冒険者の生活は安定しない。
一週間休むつもりでいても、その間に条件のいい依頼を逃せば後で痛い目を見る。
そう思って顔を出してみると、ちょうどクエスト情報の張り替えをしているところだった。
受付嬢のマリアさんが掲示板に新しい紙を貼っている。
「マリアさん、こんにちは」
「ユキナ君、ミレーヌさん、いらっしゃい。熱心なのね。普通は冒険から帰ってきたら二、三日は酒場で飲んだくれるものよ」
そう言ってマリアさんがくすっと笑う。
僕とミレーヌは顔を見合わせた。
確かに、シグレさんやセシルさんのように休む時は休むのも大事なのだろう。
でも僕たちはまだ冒険者になったばかりで、何を逃して何を取るべきか、その感覚すら掴みきれていない。
「あら、ユキナ君、ミレーヌさん。手なんか繋いじゃって初々しいわね」
そう言われて初めて、僕たちが自然に手を繋いだままだったことに気づいた。
慌てて手を離すと、マリアさんが面白そうに笑う。
「ゴブリンの掃討はほぼ終わったけど、まだオークの小さな群れが残ってるらしいの。規模は大きくないから、青銅級でも対応できると思うわ」
そう言ってマリアさんが一枚の依頼書を見せてくれた。
まだ村が襲われたわけではなく、森に潜んでいるのが発見された段階らしい。
急を要する依頼ではないが、放置して良い話でもない。
「シグレさんとセシルさんは一緒じゃないの?」
「実は、正式にパーティに入らないかって誘われていて……まだ返事を迷ってるんです」
僕がそう説明すると、マリアさんは納得したように頷いた。
「なるほどね。あの二人には少し物足りない依頼かもしれないわね。四人で分けるには報酬も軽いし」
「期日には余裕があるんですよね?」
「ええ。今日明日でどうこうって話じゃないわ」
「どうしようかな……」
依頼書を見ながら考え込んでいると、不意に背後から声がした。
「まだ誰も受けていないなら、俺たちに譲ってくれないか」
振り返ると、そこに立っていたのは見たことがないくらい整った顔立ちの二人だった。
短い金髪の青年と、金髪をサイドポニーにした少女。
よく似た顔立ちで、おそろいの白いローブを身に着けている。
兄妹だろうか。
でも何より目を引いたのは、その耳だった。
人間より少し細く、先がわずかに尖っている。
ハーフエルフだ。
外見は僕たちより少し上くらいに見える。
兄のほうは端正という言葉が似合う顔立ちで、妹のほうは冷たい美しさをまとっていた。
どちらも、ただ立っているだけで周囲の空気が少し変わるような存在感がある。
思わず見つめてしまった僕に、兄のほうがわずかに眉を寄せた。
「ハーフエルフがそんなに珍しいか?」
口調に少し棘があった。
その一歩前に妹を庇うように立つ仕草で、警戒しているのがわかる。
ハーフエルフは珍しい。
それに、人間に対して警戒心が強い者が多いとも聞く。
差別や偏見の中で生きてきたなら、それも当然なのだろう。
僕が言葉に詰まっていると、ミレーヌが一歩前へ出た。
「ううん。ボクたち、とっても綺麗な人たちだなって思っただけ」
その言葉に、兄の目がさらに細くなる。
「……知らないだろうから教えてやる。俺たちは美しいと言われるのが好きじゃない」
「ごめん。でも、そう思ったのは本当だよ」
ミレーヌは少しも怯まなかった。
相手が冷たい態度を取っても、まっすぐに見返している。
こういうところは本当にすごいと思う。
兄の後ろで、妹のほうが小さく何かを囁いた。
声はほとんど聞こえなかったが、兄は一瞬だけ考えるように黙った。
それから、僕たちを見た。
「俺たちはどこのパーティにも入っていない。だが、人間を信用しているわけでもない」
はっきりした拒絶ではない。
でも、これまで何度も裏切られてきたのだろうという硬さが、その言葉にはあった。
僕がどう返すべきか迷っていると、またミレーヌが口を開く。
「それじゃあ、ボクたちと一緒に行かない? ボクはミレーヌ、こっちはユキナ。よろしくね」
ぐいぐい行くなあと、僕は内心で少し焦った。
でも、たぶん今の僕にはこの勢いは出せなかった。
相手の警戒心ごと飛び越えてしまうような、この真っ直ぐさはミレーヌの強さだ。
兄妹は一瞬顔を見合わせた。
それから兄のほうが口を開く。
「……いいだろう。ただし、報酬はきっちり頭割りだ。俺はクヌート。こっちは妹のフェリシアだ。呼び捨てでいい」
思ったよりもあっさり承諾されて、僕は少し驚いた。
すると、妹のフェリシアが静かな声で続ける。
「ただし、あくまでクエスト一回ごとの契約です。今後も続けるかどうかは、私と兄さまが決めます」
その言い方には、こちらに媚びる気配が一切なかった。
必要以上に馴れ合うつもりはない。
でも、利害が一致するなら組む。
そういう割り切りがはっきりしている。
「それでいいと思う」
僕がそう言うと、ミレーヌもすぐに頷いた。
「うん。お互い納得してるなら、そのほうが気楽だよね」
クヌートもフェリシアも、それ以上は何も言わなかった。
けれど、完全に拒絶しているわけでもないのだと、その沈黙でわかった。
白いローブの下から見える装備は軽く、杖も短い。
二人とも前衛ではなく、魔法を主に使うタイプだろう。
しかも、ただの見習いではない。
立ち方も視線の配り方も、かなり場慣れしている。
頼もしい。
そう思う反面、簡単に気を許せる相手でもなさそうだった。
でも、それでいいのかもしれない。
僕たちだって、誰とでもすぐ家族みたいになれるわけじゃない。
まずは一緒に一つ依頼をこなしてみる。
信頼はそのあとで築けばいい。
こうして僕たちに、新しい仲間が加わった。