君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第五十二話 パーティ結成中
ハーフエルフの兄妹と一旦別れた僕とミレーヌは、シグレさんとセシルさんがよく行くという酒場にやって来た。
まだ陽は落ち切っていなかったが、店の中はもう酔客でいっぱいだった。
木の椅子を軋ませながら酒を飲む者、大声で笑う者、隣の席と意気投合して肩を組んでいる者。
賑やかな空気の中で、カウンターに座るシグレさんだけは妙に落ち着いて見える。
「ユキナとミレーヌじゃないか。二人そろってどうしたんだ?」
そう言ってシグレさんは椅子を勧めてくれた。
僕とミレーヌが座ると、目の前には好物らしいアクラ酒と、つまみの鳥の唐揚げが並んでいる。
少し塩が強いのは酒に合わせているのだろう。
「実は今日、ギルドでハーフエルフの兄妹と出会ったんです」
「ハーフエルフの兄妹?」
シグレさんがわずかに目を細める。
「二人ともウィザードみたいで、それで……一回ごとの契約で、一緒に冒険に行く話になりました」
「そうなのか。それは運が良かったな」
シグレさんは素直にそう言った。
驚きはしているようだったが、否定はしない。
「ただし、それならなおさら確認が必要だな。私とセシルも一緒に組むつもりだと、ちゃんと伝えたのか?」
「あ……」
思わず言葉に詰まる。
そこまで頭が回っていなかった。
あの場で迷っていたら、クヌートとフェリシアは他の誰かと組むか、二人だけで行ってしまう気がして、まず契約を結ぶことしか考えられなかったのだ。
「組んだこと自体は悪くない。だが、私たちの存在を向こうがどう受け取るかは別問題だ。ハーフエルフは人間に良い感情を持っていない事が多い」
「すみません。勝手に決めてしまって」
「いや、仕方ないさ。先に動いたのは正解だ」
シグレさんはそう言って、気にするなというように軽く手を振った。
「ハーフエルフのウィザードなど、皆が欲しがる。先に声をかけたのは間違っていない」
そう言うと、シグレさんは席を立って酒場の主人のところへ向かった。
注文にしては少し長い。
何を話しているのだろうと思っていると、しばらくして手に銀貨の入った袋を二つ持って戻ってきた。
「これを先に渡してくれ」
「え……いいんですか?」
「いいも何もない。相手は信用で動くより、利益で動くと考えたほうが早い。私たちが組む価値のある相手だと示すなら、誠意は形で見せたほうがいい」
さすがに現実的だ。
僕だったら、ここまで割り切って考えられない。
「それに、ハーフエルフのウィザードと組めるなら安いものだ。私とセシルは前に出られるが、魔法ではほとんど役に立たん。そこを埋めてくれるなら、多少の出費はいくらでも取り返せる」
「二人とも鉄級でした」
「そうか」
シグレさんの表情が少しだけ変わった。
驚いたというより、期待が確信に変わった顔だった。
「それは頼もしいな」
そう言うと、酒場の主人からもう一袋受け取り、僕たちに渡してくる。
「一人に一袋ずつ渡してくれ。これでも足りないと言うなら、その時はまた考える。私は明日の昼、セシルと一緒にギルドへ行く。そこで正式に顔合わせとしよう」
そう言ってシグレさんは席を立った。
これ以上飲むと明日に響くからと、本当にそのまま帰るつもりらしい。
「お前たちも、今日はあまり遅くなるなよ」
それだけ言い残し、シグレさんは酒場を出ていった。
僕とミレーヌは銀貨袋を受け取ると、慌てて冒険者ギルドへ向かった。
◆◆◆
クヌートとフェリシアは、まだギルドの近くにいた。
銀貨の袋を差し出すと、クヌートは中身を確かめ、静かに頷いた。
「確かに受け取った。誠意は見せてもらったからな。余程相性が悪くない限り、一緒に組むことにしよう」
「ありがとうございます」
僕が頭を下げると、フェリシアが落ち着いた声で言った。
「では明日の昼にここで待ち合わせしましょう。他に用件はありますか?」
「いえ、特には」
「そうですか。ハーフエルフをしていると、余計な詮索をしてくる者が多いものですから」
クヌートが少しだけ口元を歪めた。
「憐れみや好奇心で近づいてくる連中とは、うまくいった試しがない。だが、お前たちはそうではなさそうだ」
その言い方はまだ硬い。
でも、完全に拒絶しているわけでもない。
それだけで十分だった。
「明日、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
その日は二人と別れ、僕とミレーヌも宿へ戻った。
明日に遅れるわけにはいかない。
だからその夜は、同じ部屋で静かにこれからの話をして、いつもより少し早めに眠りについた。
翌日、僕たちは昼近くに冒険者ギルドへ行き、約束通り依頼板の前で待った。
程なくしてクヌートとフェリシアも姿を見せる。
ちゃんと来てくれた事に、僕は少しだけ安心した。
「クヌート、フェリシア、こんにちは」
「こんにちは。相手を待たせないのは良いことだ」
「兄さまも私も、良い契約相手に巡り合えたと思っています」
フェリシアは相変わらず淡々としていたが、昨日よりは少しだけ空気が柔らかかった。
僕たち四人で依頼板を見上げる。
昨日マリアさんが貼っていたオーク退治の依頼は、すでに誰かに取られていた。
残っているのは、それより難しい依頼が多い。
「兄さま、これなどどうでしょう」
そう言ってフェリシアが指さしたのは、オーガ討伐の依頼だった。
オーガはゴブリンやオークよりもはるかに手強い魔物だ。
力も大きさも桁違いで、まともにぶつかれば命に関わる。
けれど、今のこの顔ぶれなら挑戦する価値はある。
そう思わせるだけの戦力が、ここには揃っていた。
「ユキナはどう思う? もちろん、シグレさん達と相談してからだけど、ボクはこれがいいと思う」
ミレーヌがそう言う。
僕も異論はなかった。
「依頼を受けるかどうかは、全員で決めたい。シグレさんとセシルさんが来てからにしよう」
僕がそう言うと、クヌートもフェリシアも頷いた。
新しい仲間。
まだ信頼しきったわけじゃない。
でも、少なくとも今は同じ依頼板を見上げて、同じ敵を倒そうとしている。
それだけで、少しだけ胸が高鳴った。