君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第五十四話 フェリシアと昼食
パーティが結成され、軽く雑談したあと、席を立とうとしたクヌートに
「兄さま、私はユキナとミレーヌと話がしたいです」
フェリシアがそう言うと、クヌートは少しだけ妹の顔を見たあと、静かに頷いた。
それはとても心配している慈愛に満ちた表情で、もともと美しいのもあって男の僕でもドキリとした。
本来クヌートはとてもやさしい人なのではないだろうか?
少なくともフェリシアをとても大切に思っているのは確かなようだ。
「わかった。私は色々と準備をしておくから、夕方までには部屋に戻るのだぞ」
「はい。わかりました」
そう言って、シグレさんとセシルさんは依頼受諾の手続きへ、クヌートはクエストの準備へ向かった。
喫茶店に残ったのは、僕とミレーヌとフェリシアの三人だけだった。
みんなが去ったあと、フェリシアが申し訳なさそうな顔をする。
「兄さまの事を悪く思わないでください。私を危険に晒したくないから、厳しい態度を取るんです。本当はとても優しい人なんです」
そう言って、綺麗なサイドポニーが揺れるくらいの小さなお辞儀をした。
「いえいえ、気にしないでください」
「ボクもユキナも気にしてませんから」
とはいえ、あんなに露骨に警戒されたのは初めてだったので、少し面食らっていたのは事実だ。
でも、フェリシアがこうしてわざわざ頭を下げるのを見て、少しだけ印象が変わる。
冷たく見えた兄妹も、ただ他人を遠ざけたいわけじゃないのだろう。
傷つかないように距離を取っているだけなのかもしれない。
「折角だし、ボク達と一緒にお昼ご飯を食べませんか?」
「はい、喜んで」
そう言って微笑んでくれるフェリシア。
兄のクヌートよりずっと柔らかい笑い方だった。
意外と社交的なのかもしれない。
僕とミレーヌは米に似た穀物を炊いたご飯に、卵焼きと白身魚の焼き物を。
フェリシアはハンバーグを注文した。
料理が運ばれてくるまでの間、フェリシアは背筋を伸ばしたまま静かに座っていた。
落ち着いて見えるけれど、どこか身体に力が入っている。
僕たちとどこまで打ち解けていいのか、まだ測っているようにも見えた。
そんな空気を変えたのは、やっぱりミレーヌだった。
「フェリシアはハンバーグ好きなの?」
何気ない調子の問いかけに、フェリシアが少しだけ目を丸くする。
もっと重たい話をされると思っていたのかもしれない。
「……好き、というより慣れているんです。兄さまと一緒にいると、こういう食事の方が多いので」
「そうなんだ。ボク、ハンバーグ好きだよ。たまに家で作ってもらってたの」
ミレーヌがそう言って笑うと、フェリシアの肩から少しだけ力が抜けたのがわかった。
張りつめていた表情が、ほんの少しだけやわらぐ。
「あなたは、思っていたより話しやすい人ですね」
「よく言われるよ。ボクは人と話すのが好きなんだ」
そう言ってミレーヌがくすっと笑うと、フェリシアもつられたように小さく笑った。
最初に会った時の冷たさが、その時だけ少し薄れた気がした。
やがて料理が運ばれてくる。
湯気を立てるハンバーグを前にしたフェリシアの顔を見て、僕は少し驚いてしまった。
エルフは果物や野菜を好み、肉はほとんど食べない。
だから、フェリシアが普通に肉料理を注文したのを意外に思ったのだ。
その顔に気づいたのか、フェリシアが微笑む。
「肉を食べるエルフを見るのは初めてですか?」
「あ、いえ。すみません」
「謝らなくていいですよ。ハーフエルフは、エルフと違って果物や野菜だけでは足りないのです。肉も食べないといけません」
フェリシアは穏やかに言った。
でも、その次の言葉は少しだけ冷たかった。
「だから、エルフの里では『肉食い』と呼ばれて蔑まれていました」
僕は思わず言葉を失う。
エルフの血を引いているのに、エルフとして受け入れてもらえない。
人間からも警戒され、エルフからも疎まれる。
ハーフエルフという立場の難しさが、その一言だけで十分伝わってきた。
ミレーヌも口元を引き結び、フェリシアを見つめている。
でも、かわいそうと軽々しく言わないのがミレーヌの良いところだ。
ただちゃんと聞いて、ちゃんと受け止めている。
その静けさが、かえって優しかった。
フェリシアは僕たちの反応を見ても、特に困った顔はしなかった。
たぶんこういう沈黙にも慣れているのだろう。
だからこそ、その慣れが少しだけ悲しい。
「それでも、兄さまがいたから耐えられました」
フェリシアはそう言って、小さく笑った。
その笑みはさっきまでよりもずっと柔らかい。
クヌートの厳しさは、きっとずっとそうやって妹を守ってきた結果なのだろう。
「クヌートさんとは双子なんですか?」
ミレーヌが興味深そうに聞く。
「はい。私たちは母が人間の町で孕まされ、森で生まれました」
その言い方は淡々としていた。
恥じてもいなければ、怒鳴るような激しさもない。
ただ、何度も自分に言い聞かせるうちに感情の表面が削れていったような響きだった。
僕は胸の奥が少しだけ苦しくなる。
「なんだか、すごく仲良しなんだね」
「はい。兄さまは不器用ですけど、私にはとても優しいんです」
フェリシアの表情が柔らかくなった。
その笑顔を見て、僕は少し安心した。
この人とは、ちゃんと仲良くなれる気がしたからだ。
ミレーヌも同じことを思ったのか、自然に笑みを返している。
「ボク達も、仲良くなれたら嬉しいな」
「私もです」
フェリシアはそう言って、少しだけはにかんだ。
最初に会った時の冷たさが嘘みたいに、今は優しい顔をしている。
ほんの少し前まで、僕たちはただの契約相手だった。
それが今は、同じ食卓を囲んで笑い合っている。
その変化が不思議で、でも嬉しかった。
クヌートと打ち解けるにはまだ時間がかかりそうだ。
でも、フェリシアとは今日この場で、一歩近づけた気がした。
新しい仲間との食事は、思っていたよりずっと穏やかな時間だった。