君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第五十六話 新しい仲間たちと共に――リーダーの役目――
翌日、出発準備を済ませた僕たち六人は、冒険者ギルドの受付前に集まった。
ここで、臨時とはいえパーティを結成したことをギルドに登録しておく必要がある。
登録しておかないと、万が一死者や重傷者が出た時に私闘扱いになることもあるらしい。
誰が同じ依頼に参加していたのか、最初にはっきりさせておくための手続きだ。
「このくらいの用心は当然だろう。私もフェリシアも、利益の為に私闘に巻き込まれた事があるからな」
クヌートが淡々と言う。
そういう事は本当に珍しくないのだろう。
シグレさんとセシルさんが僕とミレーヌを誘ってくれたのも、信頼できる仲間じゃないと安心して背中を預けられないからだ。
僕たちは誓約書や連絡先、普段拠点にしている宿などを記入し、受付嬢のマリアさんに提出した。
最後に、首から提げている獅子の刻まれたペンダント型の冒険者ギルド許可証へ、マリアさんが手をかざして魔法印を結ぶ。
淡い光が許可証の表面を走り、すぐに消えた。
それで登録は完了したらしい。
たったそれだけの事なのに、ただの寄せ集めだった僕たちが、本当に一つのパーティとして扱われるのだと思うと少し不思議な気持ちになる。
「パーティの登録はこれで完了ね。最後に、今回登録するパーティのリーダーを決めて頂戴」
マリアさんの言葉に、僕は自然とシグレさんを見た。
経験も実力も備えているシグレさんが、一番ふさわしいと思ったからだ。
けれど、シグレさんの口から出たのは予想外の言葉だった。
「今回のリーダーはユキナが良いと思う」
「え? えええ!? だって僕、このあいだギルド登録したばかりの新人ですよ!! そんなの無理ですよ」
思わず声が裏返る。
受付前にいた他の冒険者たちが何事かとこちらを見たが、そんな事を気にしている余裕はなかった。
リーダーなんて、もっと経験があって、人をまとめるのが上手くて、皆を安心させられるような人がなるものだ。
少なくとも、今の僕ではない。
「いや、ユキナでいい。私とセシルもだが、クヌートとフェリシアも、ユキナとミレーヌの人柄を見て結成されたパーティだ」
シグレさんは落ち着いた声でそう言った。
けれど、僕にはやっぱり不釣り合いに思えた。
経験もないし、年下だし、とても人を引っ張れるような人間には思えない。
それに僕は、誰かを引っ張るより、いつも誰かの背中を追いかけてきた側だ。
「俺もユキナでいいと思う」
クヌートがきっぱりと言った。
「シグレとセシルには悪いが、二人の事をまだ良く知らないのに背中は預けられない。ユキナはハーフエルフの俺とフェリシアを見下したりしなかった。それに俺もフェリシアもウィザードだ。いざという時は剣士がリーダーでないと困る」
確かに、魔法使いは前線で仲間を守りながら指揮を執るには向かないのだろう。
その点、剣士なら自分が盾にもなれる。
理屈としてはわかる。
でも、わかるのと納得できるのは別だった。
「私も兄さまと同意見です」
そこで、今まで静かに聞いていたフェリシアが口を開いた。
透き通るような声だったが、その言葉には迷いがなかった。
「ユキナは、打算だけで私たちに近づく人ではないと思います。まだ出会って日が浅いですし、全部を知った訳ではありません。けれど少なくとも、私たちを軽く扱わない人だという事はわかりました。信頼しようとする時の目が、とても誠実でした。私はそういう人になら従えます」
思わず息を呑んだ。
フェリシアがそこまで見ていてくれたとは思わなかったからだ。
昨日ようやく少し打ち解けられたばかりなのに、その短い時間の中で、僕の事をそんなふうに見てくれていたのか。
胸の奥が少しだけ熱くなる。
「あたいもユキナでいいと思うよ。あたいもシグレも、クヌート達をまだよく知らないしね。ユキナの経験不足はちゃんと補うからさ。やってみなよ」
そう言ってセシルさんが、ぽんと僕の背中を叩いた。
軽い調子のようでいて、その手は思ったよりずっと力強い。
まるで、逃げるなと言われているようだった。
そこでミレーヌが、少しだけ身を乗り出すようにして僕を見た。
緋色の瞳がまっすぐ僕を見つめている。
「ボクも、ユキナがいいと思う」
ミレーヌの声はいつも通り明るいのに、不思議とまっすぐ胸に届いた。
「ユキナは自分じゃ頼りないって思ってるかもしれないけど、ボクはずっと見てきたよ。苦しくても逃げなかったし、怖くても誰かを見捨てなかった。そういうユキナだから、みんなも任せたいって思ったんだと思う」
ミレーヌはそこで小さく笑った。
その笑顔は優しいのに、言葉は少しも揺らいでいなかった。
「大丈夫。ユキナが迷っても、ボクが隣で支えるから」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
誰より近くで僕を見てきたミレーヌがそう言ってくれるのなら、弱音ばかり吐いてはいられなかった。
いつかはやってみたいと思っていた。
皆を守れるようになりたい。
自分で考えて、自分で決めて、誰かの役に立てるようになりたい。
でもそれは、もっと先の話だと思っていた。
まだ準備が足りない。
まだ自信がない。
まだ早い。
そうやって先送りにしてきたものが、今いきなり目の前に置かれた気がした。
……そうだ。
一人で全部背負うわけじゃない。
シグレさんがいて、セシルさんがいて、クヌートとフェリシアがいて、ミレーヌがいる。
僕はまだ未熟だけど、皆が支えてくれるなら、やってみるしかない。
「……わかりました。僕で良ければ、やってみます」
そう口にした瞬間、もう後戻りはできないのだとわかった。
でも、不思議と恐怖だけではなかった。
怖い。
それでも、少しだけ嬉しい。
信じてもらえたことが、何より嬉しかった。
僕は深く息を吸って、マリアさんに渡された書類へ目を通した。
必要な箇所へ名前を書く。
その間に、シグレさんたち五人も順に署名をしていく。
紙の上を走る羽根ペンの音がやけに大きく聞こえた。
自分の名前を書き終えた瞬間、胸の中で何かが少しだけ変わった気がした。
頼りないままでも、もう逃げるわけにはいかない。
このパーティをまとめるのは僕なのだ。
上手くできるかはわからない。
失敗するかもしれない。
それでも、皆が僕を選んでくれた以上、その信頼から目を逸らしたくはなかった。
書類を受け取ったマリアさんが、にこりと笑う。
「これで正式登録は完了よ。頑張ってね、新米リーダーさん」
その言葉に顔が熱くなる。
まだ全然実感はない。
けれど、今の僕はもう昨日までの僕ではないのだろう。
こうして無事に、パーティ結成の儀式は終わった。
新しい仲間たちと共に進む最初の一歩は、思っていたよりもずっと重く、そして少しだけ誇らしいものだった。