君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第五十七話 オーガの気配
パーティ結成の手続きを終えたあと、僕たちは冒険者ギルドに併設された喫茶店で作戦会議を開くことにした。
「それでは、今回のクエストの確認を行います。今回は森でオーガを発見した村人からの依頼です」
僕は資料を広げながら、なるべく落ち着いた声で言った。
リーダーらしいことをしている。
そう思うと少しだけ気恥ずかしい。
でも、任された以上はやるしかない。
「オーガについて調べてみると、筋骨隆々で武器は素手や棍棒、その他人間が扱えるもの。知能は人間並みにあるので、ゴブリンの時のように罠をしかけるのは難しいでしょう」
そこで一度、手元の紙に目を落とす。
「それと、特筆すべきは、殺した人間の心臓を食らってその人間に化ける事ができるという点です」
冒険者ギルドの資料室で読み集めた内容を、できるだけ簡潔にまとめる。
たぶんこの場の全員が、このくらいの知識は持っているだろう。
それでも確認の意味はある。
自分にそう言い聞かせて話を続けると、クヌートが軽く手を上げた。
「いくつか補足するが、オーガの知能は人間並みなので、魔法を扱う個体もいるぞ」
「そうなんですか?」
「ああ。俺も実物は見た事がないが、ありえない話じゃない。人に化ける時、相手の知識や経験も学ぶらしいからな。何度も化ける事を繰り返せば、魔法使いの心臓を食らう機会もあるのだろう」
筋骨隆々で、しかも魔法まで使うかもしれない。
想像しただけで背筋が寒くなる。
「だからさあ」
セシルさんが椅子に浅く座り直しながら口を挟んだ。
「ゴブリンやオークと同じつもりで突っ込んだら痛い目みるって事だよね。力押しでいける相手じゃないってわけ」
「その通りだ」
クヌートが短く頷く。
「オーガの弱点は、人間に化けられる時間がほんの数時間だけだという事だ。あと、どうしても普段と違う行動に出る。日課の散歩をしなくなったり、夜に出歩くようになったりな」
「ただ今回は、森の中で発見されたオーガだけなので、化けている可能性は低いと思います」
フェリシアが静かに補足した。
兄の説明を受けるように話すその言い方は、クヌートを立てながらも場を整える響きがある。
「村で誰かに化けて騒ぎを起こした、という報告ではありませんから。今の時点で一番警戒すべきは、変身よりも単純な戦闘力かと」
「だねえ。二メートル超えの化け物が棍棒振り回してくるだけで十分嫌だし」
セシルさんが肩をすくめた。
「ボク、できれば一回も殴られたくないな……」
ミレーヌが小さく呟く。
その口調は柔らかいけれど、場の空気を少し軽くしようとしてくれているのがわかった。
クヌートの警戒を茶化さず、でも重くしすぎないようにしているのだろう。
「殴られたくないのは皆同じだ」
シグレさんがそこで初めて口を開いた。
「だからこそ、相手の特徴を把握しておく意味がある。ユキナ、続けてくれ」
短い言葉だったが、不思議と気持ちが落ち着いた。
全部一人で背負う必要はない。
会議を進めるのは僕でも、ちゃんと支えてくれる人たちがいる。
「はい」
僕は小さく頷いた。
でも、強敵なのは間違いない。
一対一では、今の僕では到底勝てない相手だ。
「ただ、不明なのは森でオーガが発見されただけという点だ。それが引っかかる」
クヌートが低い声で言った。
「どういう事ですか?」
「オーガは賢く狡猾だ。自分の身体が目立つ事を熟知しているのに、森でうろうろしているのはおかしい」
その指摘に、僕もはっとした。
確かにそうだ。
知能が人間並みなら、森を徘徊して人に見つかるのも妙だし、発見した人間を口封じしなかったのも不自然だ。
「わざと見つかるようにしてた、ってこと?」
ミレーヌが首を傾げる。
「可能性はある」
クヌートが答える。
「だが、目的はわからん」
「村を襲う気なら、もっと別の動き方をするはずだよねえ」
セシルさんが指先で卓をとんとんと叩いた。
「見つかったのに逃げない、殺さない、隠れもしない。なんか嫌な感じだ」
「罠の可能性も考えておいた方がいいな」
シグレさんが言う。
「ただ、考えすぎて動けなくなるのもまずい。村に被害が出る前に現地を見たい」
「兄さま、私もそう思います」
フェリシアが頷いた。
「情報が足りない以上、ここで推測だけ重ねても限界があります。森の地形や、発見された場所を実際に見た方が早いでしょう」
皆の意見が、少しずつ一つの方向へ集まっていく。
僕は資料の端を指で押さえながら、その流れを頭の中で整理した。
森の中で発見されたという不自然さ。
人間に見つかってもなお行動を変えなかった妙さ。
人に化ける可能性。
魔法を扱う個体がいてもおかしくないこと。
不気味な相手だ。
けれど、こちらにはクヌートとフェリシアがいる。
オーガの変身を見抜けるウィザードが二人いるというだけでも、どれだけ心強いかわからない。
「……不明な事が多すぎて、今は考えがまとまりません」
自分でそう口にすると、少しだけ情けない気もした。
リーダーなのに、全部を見通せているわけではない。
でも、わからないものをわからないままにしておくのも違う。
「だからこそ、現地へ行きたいです。村が襲われてからでは遅いですし、出発したいと思います」
一瞬、卓の上が静かになった。
けれどその沈黙は重いものではなく、確認のための静けさだった。
「異論はない」
最初に答えたのはクヌートだった。
「私もです」
フェリシアが続く。
「ボクも賛成。考えるより、見た方が早いもんね」
ミレーヌがそう言って僕に笑いかける。
「よし。それじゃ決まりだね。新米リーダー、初仕事ってわけだ」
セシルさんが口元を吊り上げた。
「気を抜くなよ、ユキナ。会議で決めるのは始まりにすぎない」
シグレさんのその一言に、僕は背筋を伸ばした。
「はい」
まだ何も掴めていない。
それでも、立ち止まっている時間はない。
今回の依頼は、ただ森でオーガを討伐するだけでは終わらない。
そんな予感が、どうしても胸の奥から離れなかった。