君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第七十話 オーガとの死闘
筋骨隆々というのが相応しい肉体と、禿げ上がった頭。
口には上向きに牙が生え、頭には角が突き出ている。
大型のショベルスコップを、まるで羽根でも持つように軽々と振るう姿。
オーガだ。
オーガの姿を目撃した村人たちは、悲鳴を上げて広場から逃げ出した。
誰かが転び、誰かがそれを引き起こす。さっきまで僕たちを疑っていた視線は、恐怖一色に塗り潰されていた。
僕はクヌートを庇って、剣でショベルスコップを受け止めた。
刃と鉄がぶつかった瞬間、腕の骨まで震えた。
ただの道具のはずなのに、大槌でも叩きつけられたみたいな重さだった。
そのまま返す一撃を食らい、僕は地面に叩きつけられる。
「ぐうっ、なんて馬鹿力だ!!」
背中から息が抜けた。
受け身を取ったつもりなのに、肺が潰されたみたいに呼吸が詰まる。
「おのれおのれおのれ!! あと少しだったものを!!」
オーガは怒りを露わにして襲い掛かってくる。
だが、その胸にセシルさんの矢が突き刺さった。
オーガが怯んだ隙を突いて、さらに二本の矢が命中する。
それでもオーガは倒れない。
僕がクヌートを守っている間に、ミレーヌとシグレさんも剣を抜いて助けに来てくれた。
「ユキナ下がって!! こいつはボクとシグレさんで防ぐ!!」
そう言って、ミレーヌがエストックを手にオーガへ突っ込んでいく。
ミレーヌの剣の腕は相当なものだ。
だけど相手は強敵だ。
あの怪力がミレーヌに当たったら。
そう考えた瞬間、僕は痛みも忘れて立ち上がろうとした。
その肩を、後ろからシグレさんに掴まれる。
「仲間を頼るのもリーダーの資質だぞ」
そう言って、シグレさんもロングソードを手にオーガへ向かっていった。
ミレーヌとシグレさんの二人がかりでも、オーガの動きは完全には止まらない。
振るわれるショベルスコップが風を裂くたび、広場の土が抉れた。
「ユキナ下がれ。正義を司る光の戦乙女。我が命令に従いかの敵を貫け」
クヌートが印を結ぶ。
その数は三つ。
「ヴァルキリージャベリン!!」
三人の光の戦乙女が現れ、槍を構えてオーガへ向かっていく。
光の槍が、オーガの背中に突き刺さった。
オーガが苦しみの咆哮を上げ、ショベルスコップを振り回す。
「くっ!! この化け物め!! まだ倒れないのか」
シグレさんがショベルスコップを弾き、返す刃でオーガの厚い胸板を切り裂く。
ミレーヌのエストックも、的確にオーガの急所を狙って突き刺さっていく。
それでも、まだ倒れない。
「しつこい!! いい加減倒れろおおおおっ!!」
ミレーヌがエストックを両手で構え、渾身の力でオーガの胸を突き刺す。
だが、オーガは倒れなかった。
このままではまずい。
僕が立ち上がって駆け寄ろうとした時、ロングソードが炎に包まれた。
振り向くと、フェリシアが僕に向かって印を結んでいる。
「ユキナさん!! お願いします!!」
身体が軽い。
さらにブレストプレートメイルに風の精霊の加護、エア・アーマーが付与された。
風の精霊に守られた僕は、炎のロングソードを手にオーガへ向かう。
「ミレーヌ!!」
僕はミレーヌを捕らえようと振るわれたショベルスコップを受け止めた。
衝撃で腕が痺れる。
それでも、今度は弾かれない。
「ユキナ気を付けて!! こいつ滅茶苦茶強いよ!!」
「わかってる!! ミレーヌは一旦下がって!!」
ミレーヌは僕の後ろで立ち上がり、治癒魔法で自分の傷を癒している。
オーガの攻撃を防いでいたシグレさんも、一旦下がって体勢を整えていた。
かなりの傷を負っているオーガは、身体中から血を流しながらショベルスコップを振り上げる。
「ゴアアアアアっ!!」
「うおおおおおっ!!」
炎のロングソードとショベルスコップが交錯した。
次の瞬間、焼けた刃がその柄を叩き切る。
そのまま、僕はオーガの胸にロングソードを突き刺した。
オーガの身体が、魔法の炎に包まれる。
「グオオオオオッ!!」
オーガは柄の断ち切られたショベルスコップを僕に投げつけた。
だが、風の精霊に守られたブレストプレートメイルがそれを弾き飛ばす。
怒り狂うオーガが、丸太のような腕を振るった。
僕の首を掴もうとする巨大な手が迫る。
「ユキナァァァッ!!」
その腕を、ミレーヌがエストックで突き刺した。
さらに刃を捻り上げると、オーガの腕が宙に舞う。
オーガが痛みに腕を押さえた瞬間を、僕とミレーヌは見逃さなかった。
「はああああっ!!」
「くたばれぇぇぇ!!」
ミレーヌのエストックが、オーガの胸を背中まで貫く。
同時に、僕のロングソードがオーガの首を刎ねた。
首元から血を噴きながら、オーガの巨体が倒れる。
僕は、オーガの重みによろけたミレーヌの肩を受け止めた。
「やったね、ユキナ」
「ああ、やっと倒した」
僕とミレーヌは互いの身体を支え合いながら、地面に倒れたオーガの巨体を見つめる。
その首は魔法の炎で焼かれていた。
だが、苦しそうに呻いている。
オーガは、まだ生きていた。
「何故だ……何故、我が策略が破れたのだ」
「途中までは上手くいっていたよ。でも、僕と僕の仲間がそれに勝っただけさ」
悔しそうに呻くオーガに、僕は応える。
僕一人じゃない。
シグレさん、セシルさん、クヌート、フェリシア。
そして、ミレーヌがいてくれた。
だからオーガの策略を暴き、村を救う事ができた。
「ふふふ……これで勝ったと思うなよ」
負け惜しみにも聞こえる呟き。
けれど、その声には妙な確信があった。
「見よ。我はあの方の策略の一翼にすぎん」
オーガが見つめる先。
そこには、何かが燃える黒煙が激しく立ち上っていた。
あれは、ルクス城の方角。
「貴様らは全員、我らの糧となるのだ」
そう言い残して、オーガの首は焼け崩れた。