君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第七十七話 手引きした者

 第七十七話 手引きした者

 

 「侯爵閣下に、ご報告したい事があります」

 

 僕がそう言うと、ルクス侯爵ティニーは小さく頷いた。

 

 幼い顔に、領主としての表情が戻る。

 カチュアさんも、すぐに姿勢を正した。

 

 「申してみなさい」

 

 ティニー侯爵の声はまだ幼かった。

 けれど、その言葉を聞いた瞬間、応接室の空気がわずかに引き締まった。

 

 僕は一歩前に出る。

 

 目の前にいるのは、どう見ても僕より年下の女の子だ。

 だけど彼女の背後には、燃えるルクス城があり、避難できずに震えている民がいる。

 この小さな肩に、そのすべてが乗っているのだと思うと、軽々しく話すことはできなかった。

 

 カチュアさんはティニー侯爵の半歩後ろに控え、僕達をじっと見ている。

 青騎士団の騎士達も、扉の近くで静かに待機していた。

 剣を抜いているわけではない。

 けれど、僕達が不審な動きをすれば、すぐに動ける距離だった。

 

 ミレーヌが、僕の隣で小さく息を呑む。

 クヌートも珍しく余計なことを言わず、腕を組んだまま黙っていた。

 

 僕は胸の内で言葉を整理し、できるだけ簡潔に話すことにした。

 

 「私たちはホレ村という村で、オーガ退治を行いました」

 

 僕は、ホレ村で起きたことを順に話し始めた。

 

 ホレ村で流行り病が広がっていたこと。

 オーガがわざと村人に姿を見せ、森に入れないようにしていたこと。

 薪が足りず、病死した者たちが土葬されるしかなかったこと。

 

 そして、村人に化けたオーガが墓掘り人夫として潜み、死体をゴブリンの食料にしようとしていたこと。

 

 話しているうちに、部屋の空気が少しずつ重くなっていくのが分かった。

 

 ティニー侯爵は、最初こそ驚いたように目を見開いた。

 けれど途中からは、黙って僕の話を聞いていた。

 

 その目は、子供のものではなかった。

 

 領地で起きている惨劇を受け止めようとする、領主の目だった。

 

 「つまり、今回の城攻めで主力を務めているゴブリンは、計略で陥れた村々の死体を食べて数を増したということね」

 

 ティニー侯爵は、すぐに核心へたどり着いた。

 

 その理解の速さに、僕は少し驚いた。

 幼い見た目に反して、彼女はただ守られているだけの子供ではない。

 領主として、今起きている惨劇を必死に受け止めようとしている。

 

 それでも、彼女の指先は膝の上で強く握られていた。

 怖くないはずがない。

 けれど、その怖さを僕達に見せまいとしているのだ。

 

 「はい。少なくとも、ホレ村はそのために狙われていたと思います」

 

 「それで、あれだけの大軍が押し寄せたということね」

 

 ティニー侯爵は顎に手を当て、さらに言葉を続ける。

 

 「城内で発生した同士討ちに呼応して、ゴブリンは攻めてきました。なら、兵士に化けたオーガ、あるいはそれに類する魔物が城門を開け、ゴブリンの大軍を城内へ引き入れた可能性がある」

 

 「はい。私はそう考えます」

 

 カチュアさんの表情が険しくなる。

 

 青騎士団の者たちも、無言のまま視線を交わしていた。

 

 ルクス城は外から破られたのではない。

 内側から崩されたのだ。

 

 ティニー侯爵はしばらく黙り込んだ。

 その沈黙は、一分ほど続いただろうか。

 

 幼い指が、ドレスの布をぎゅっと握っている。

 けれど彼女は泣かなかった。

 

 「では、その手引きをした者を探し、打ち取れば、戦況が変わるかもしれないのですね」

 

 「可能性はあります」

 

 僕は頷いた。

 

 やはり、戦況はかなり悪いのだろう。

 

 僕の見たところ、第七砦から第四砦まではほぼ陥落している。

 上へ行くほど防備は固くなるとはいえ、残っているのは第三砦、第二砦、そしてこの本城くらいだ。

 

 ここが陥落すれば、逃げ場はない。

 

 相手が人間なら、降伏という選択肢もあるかもしれない。

 けれど、相手はゴブリンを主力とした妖魔の群れだ。

 

 抵抗をやめれば、捕らえられた者たちがどんな扱いを受けるか分からない。

 殺されるだけで済むとも限らない。

 

 死ぬまで抵抗するしかないのだ。

 

 そもそも完全な奇襲だったからこそ、彼女達は逃げる間もなくここへ集まっている。

 

 僕達なら、最悪の場合、クヌートとフェリシアの魔法で燃え落ちる城から脱出できるかもしれない。

 でも、ティニー侯爵やカチュアさん達を連れて逃げることはできない。

 

 だからといって、見捨てる気はなかった。

 

 そんな気持ちなら、最初からここには来ていない。

 

 僕はティニー侯爵をまっすぐ見た。

 

 「私たちに、その手引きをした相手を探す手伝いをさせてもらえませんか?」

 

 僕がそう言うと、ティニー侯爵とカチュアさんが驚いた顔で僕を見つめた。

 

 てっきり、報酬だけ受け取って逃げると思われていたのかもしれない。

 

 それでも、僕達はここで引く気はない。

 

 ティニー侯爵は、僕の目を真剣に見つめていた。

 信じていいのか。

 この冒険者たちに、一縷の望みを託していいのか。

 

 そんな迷いが、その幼い顔に浮かんでいるように見えた。

 

 やがて、彼女は静かに頷いた。

 

 「分かりました。それでは、貴方たちに頼らせてもらいましょう」

 

 「ありがとうございます!!」

 

 僕は深く頭を下げた。

 

 それから、周りのみんなに目配せする。

 

 ミレーヌは迷わず頷いてくれた。

 フェリシアも小さく微笑む。

 シグレさんは、どこか誇らしげに僕を見ていた。

 

 セシルさんとクヌートは、僕の持つ金貨入りの革袋の重さに満足しているようだった。

 

 「みんな、ありがとう」

 

 僕がそう言うと、ミレーヌが嬉しそうに笑った。

 

 「ユキナが決めたなら、ボクは一緒に行くよ」

 

 「私も、できることをします」

 

 フェリシアが静かに続く。

 

 「まあ、報酬分は働かないとねえ」

 

 セシルさんが笑い、クヌートも肩をすくめた。

 

 「追加報酬は忘れるなよ」

 

 「わかってるよ」

 

 僕は苦笑する。

 

 みんな立場も考えも違う。

 それでも、僕の決定に従ってくれる。

 

 僕はそのことに感謝して、みんなへ笑みを浮かべた。

 

 ティニー侯爵は僕達のやり取りを見て、ほんの少しだけ表情を和らげた。

 

 けれど次の瞬間、遠くで大きな鐘の音が鳴った。

 

 カチュアさんが扉の外へ目を向ける。

 

 城内のざわめきが、一段大きくなった。

 

 手引きした者は、まだこの城のどこかにいる。

 そして、ゴブリンの群れは今も城を食い破ろうとしている。

 

 僕達に残された時間は、もう多くないのかもしれない。

 

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