君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第七十九話 戦場に取り残された子供達

 第七十九話 戦場に取り残された子供達

 

 僕達とカチュアさんの七人は応接室を出て、ルクス城本城の裏口から外へ出た。

 

 表門には、逃げ場を失った避難民が集まっている。

 今、城門を開ければ、我先に中へ入ろうとして大混乱になるだろう。

 

 その混乱に紛れて、避難民に化けた魔物が入り込む可能性もある。

 

 まだ第一砦と第二砦は持ちこたえている。

 けれど、避難民の不安は限界に近かった。

 

 誰もが、燃えている第三砦を見つめている。

 

 あそこが落ちれば、今以上の混乱がここに押し寄せる。

 急がなくてはいけない。

 

 ルクスは高い城壁に囲まれた城塞都市だ。

 本来なら、大通りには露店が並び、食べ物や生活雑貨を買い求める人々で賑わっていたのだろう。

 

 表門に集まる避難民たちも、質素ながら清潔な服を着ている。

 髭を整えた男や、髪を結った女の姿もある。

 

 ついこの間まで、ここは平和で豊かな都市だったのだ。

 

 それが今は、最後の頼みである本城に人々が押し寄せ、誰もが怯えた顔で震えている。

 

 この人たちを見捨てられない。

 

 僕はそう思いながら、黒幕の手がかりを探すことにした。

 

 とはいえ、何の手がかりもないまま探すのは難しい。

 まずは街のことを知る必要がある。

 

 情報を集めるなら酒場がいい。

 そう考えて近くの酒場に入ったが、中はひどく荒れていた。

 

 倒れた椅子。

 割れた杯。

 こじ開けられた酒樽。

 

 床には酒と泥が混じったような臭いが漂い、壁には乱暴に叩きつけられたらしい椅子の跡が残っている。

 棚にあった食料も、ほとんど持ち去られていた。

 

 略奪の跡だけが残り、人の姿はない。

 

 ここで得られる情報はなさそうだと思った時、奥の机の陰から小さな息遣いが聞こえた。

 

 ゴブリンかと思い、僕は剣に手をかける。

 けれど、襲ってくる気配はない。

 

 ゆっくりと警戒しながら近づくと、何人かの子供がそこに隠れていた。

 

 親とはぐれたのか、逃げ遅れたのか。

 子供達は、不安そうな顔でこちらを見つめている。

 

 身体は略奪された酒場の埃や木くずで汚れ、髪は白くなっていた。

 元は上質だったのだろう服も、今は破れて埃だらけだった。

 

 この子達に話を聞こう。

 

 そう思った時、一人の女の子が泣きながら駆け寄ってきた。

 

 「お兄ちゃんたち冒険者でしょ? お願い助けてよ」

 

 女の子は手を震わせながら、ミレーヌに抱きついた。

 

 今にも大声で泣き出しそうな女の子を、ミレーヌは優しく抱きしめる。

 そして、背中をゆっくり撫でてあげた。

 

 「どうしたの? 何があったのか、お姉ちゃんにお話できる?」

 

 ミレーヌの声は柔らかかった。

 

 不思議な安心感がある。

 どんなに怖い場所でも、ミレーヌがそばにいるだけで、少しだけ息ができるようになる。

 

 まるで、暗い場所に小さな灯りがともるみたいだった。

 

 「お母さんがさらわれたの!! お父さんもゴブリンに連れていかれたんだ!! 私、隠れるのに必死で何も出来なかったの」

 

 両親が連れ去られるのを、目の前で見たのだろう。

 女の子は泣くのを我慢しようとして、何度も唇を震わせていた。

 

 その声につられたのか、酒場に隠れていた子供達が一斉に出てくる。

 そして、ミレーヌの周りに集まった。

 

 「大丈夫。大丈夫だよ。ゴブリンなんか、ボク達がすぐやっつけるからね」

 

 泣きじゃくる少女を抱きしめながら、ミレーヌが頭を撫でる。

 他の子達にも声をかけながら、ミレーヌは僕を見上げた。

 

 僕は頷き、ゴブリンが人々を連れ去った跡を探す。

 

 カチュアさんが、酒場の割れた窓から外を見た。

 

 「この辺りは富裕層の区画だ。近くに大きな教会がある。避難先として人が集まりやすい場所でもある」

 

 教会。

 

 人が集まる場所なら、ゴブリンが狙う理由もある。

 それに、連れ去った人を一時的に集めるにも都合がいい。

 

 まだ第三砦が落ちていないのに、ここまでゴブリンが来ている。

 おそらく、次の砦を攻略するために先行させられた部隊だろう。

 

 だが、ゴブリンは複雑な命令を守るのが苦手だ。

 命令よりも目先の略奪に走った可能性が高い。

 

 黒幕の計画は厄介だ。

 けれど、その手足であるゴブリンには粗がある。

 

 そこに、まだ付け入る隙があるはずだ。

 

 「ユキナ。この子は、お母さんと一緒に買い物に出かけていたところを、突然現れたゴブリンに襲われたみたいだよ。お父さんも助けようとしたけど、殴り倒されて、そのまま連れていかれてしまったみたい」

 

 「問題は、どこに連れていかれたかということだけど」

 

 僕がスカウトのセシルさんに振り向くと、セシルさんはもう調査を始めていた。

 

 床に落ちた木片。

 倒れた机の脚についた傷。

 何かを引きずったような跡。

 

 それらは、酒場の外へ続いていた。

 

 セシルさんは床に片膝をつき、指先で埃の流れを確かめる。

 引きずられた跡は一つではない。

 複数の人間が、抵抗しながら無理やり連れて行かれたのだろう。

 

 セシルさんが目を細め、その先に見える大きな教会を指さす。

 

 「あたいの見たところ、捕まってからまだそんなに時間は経ってないね。急げば間に合うと思うよ」

 

 「わかりました。みんな、行くよ」

 

 早く行かなければ、連れ去られた人達がどんな目に遭うか分からない。

 

 あの教会に、何かがある。

 

 「お父さんとお母さんは、ボク達が必ず取り戻すからね。みんなはここで、ボク達が帰ってくるまで隠れていて」

 

 ミレーヌはそう言って、子供達に笑みを見せた。

 一人ずつ優しく抱きしめ、安心させるように背中を撫でていく。

 

 さっきまで泣き出しそうだった子供達は、倒れた机や椅子の陰へ戻っていった。

 

 僕の恋人は、本当に人を安心させる力がある。

 

 そう思いながら、僕は剣の柄を握った。

 

 今度こそ、間に合わせる。

 

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