君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第八十一話 勇者ミレーヌ

第八十一話 勇者ミレーヌ

 

 教会の扉は、内側から固く閉ざされていた。

 間違いなく何かがここにいるはずだ。

 

 僕が扉をこじあけようとした時だ。

 クヌートが叫ぶ。

 

 「ユキナ、そこを離れろ」

 

 「ファイアボール!!」

 

 僕が離れた途端、クヌートとフェリシアが同時に魔法を放つ。

 

 複数の火球が合わさり、巨大な炎の塊となって教会の扉を直撃した。

 扉そのものは神聖魔法で守られていたのか、完全には砕けない。

 

 けれど、内側のかんぬきごと、そこにいた何かを吹き飛ばした。

 

 僕達は一気に礼拝堂へ踏み込む。

 

 扉の周りには、焼け焦げて絶命したゴブリンと、かんぬきの破片が散らばっている。

 神聖なはずの教会の祭壇には、多数のゴブリンがたむろしていた。

 

 祭壇の周りには、連れてこられた人々が転がされていた。

 

 攫われた男性達は殴られ、床に倒されている。

 女性達は衣服を乱され、恐怖に震えていた。

 

 まだ最悪の事態には至っていない。

 

 間に合った。

 

 そう分かった瞬間、胸の奥で怒りが燃え上がった。

 

 「その人達から離れろ!!」

 

 僕とミレーヌ、シグレさん、カチュアさんが一斉に剣を抜いて突入する。

 

 突然のことに、ゴブリン達は慌てて武器を取った。

 だが、隊列も何もない。

 混乱したまま、ばらばらに襲いかかってくる。

 

 だが、祭壇近くにいた一匹だけは違った。

 倒れている女性の髪を掴み、盾にするように引き寄せようとする。

 それを見た瞬間、ミレーヌの瞳が鋭くなった。

 

 僕は正面のゴブリンを斬り伏せる。

 ミレーヌのエストックが、人質を取ろうとしたゴブリンの手首を正確に貫いた。

シグレさんのロングソードが重く振るわれ、カチュアさんの剣が青い軌跡を描く。

 

 脇から迫るゴブリンは、セシルさんの矢が的確に射抜いた。

 

 「ハードロック!!」

 

 フェリシアが開け放たれた扉に魔法をかける。

 

 扉が勢いよく閉まり、外から追ってきた人々が叩く音が響いた。

 魔法で閉じられた扉は、そう簡単には破れない。

 

 「ストーンサーバント!!」

 

 クヌートとフェリシアが床に転がっていた石に魔法をかける。

 石のゴーレムが次々と生まれ、ゴブリン達に襲いかかった。

 

 礼拝堂の中は混乱に包まれる。

 

 叫び声。

 剣の音。

 石の従者が床を走る音。

 

 次第にゴブリンの数は減っていき、最後の一匹が倒れた時、礼拝堂には荒い息だけが残った。

 

 攫われた人々は、まだ怯えていた。

 

 助かったと分かっても、身体が震えている。

 殴られた者。

 腕を押さえてうずくまる者。

 泣き声を殺そうとしている者。

 

 「ボク達が助けに来ました。もう大丈夫です」

 

 ミレーヌがそう言った。

 

 その声は、不思議なくらい静かに礼拝堂へ広がった。

 

 さっきまで血と煙と恐怖で満ちていた空気が、ほんの少しだけ澄んだように感じた。

 泣き声も、呻き声も、扉を叩く音さえも遠ざかっていく。

 まるで礼拝堂そのものが、ミレーヌの声に耳を傾けているみたいだった。

 

 次の瞬間、ミレーヌの足元から淡い緑色の光が広がる。

 

 「え……?」

 

 ミレーヌ自身が驚いたように目を見開いた。

 

 光は彼女の身体を包み、やがて背中に羽根のような形を作った。

 天使の羽根にも似た、柔らかな光。

 

 それは炎のように激しくはなく、月明かりのように冷たくもなかった。

 春の森に差し込む朝日のように、優しく、暖かく、触れる者を拒まない光だった。

 

 神々しい光に包まれたミレーヌは、何が起こったのかわからない様子で僕たちを見回した。

 けれど、その姿は確かに美しかった。

 戦場の真ん中にいるはずなのに、彼女の周りだけは、誰も傷つけることのできない聖域のように見えた。

 

 その光が、傷ついた人々の身体を包んでいく。

 

 震えていた人達の呼吸が、少しずつ落ち着いていく。

 打撲や骨折の痛みに呻いていた者達も、安らかな表情で眠りに落ちた。

 

 僕は息をすることも忘れて、ミレーヌを見ていた。

 

 いつも隣で笑っていた幼馴染。

 僕が守りたいと思っていた恋人。

 

 その彼女が今、誰かを守る光そのものになっている。

 

 胸の奥が熱くなる。

 誇らしいのに、どこか遠くへ行ってしまいそうで怖い。

 それでも目を逸らせなかった。

 

 僕の知っているミレーヌが、僕の知らない光をまとってそこに立っていた。

 

 「あ、あれ? みんなどうなったの?」

 

 ミレーヌ自身が一番驚いているようで、きょろきょろと周りを見回す。

 

 その時、カチュアさんが慌てたように片膝をついた。

 右手を胸に当て、深く頭を垂れる。

 青騎士として鍛えられた彼女の顔から、戦場の緊張が消えていた。

 そこにあったのは、恐怖ではない。

 幼い頃から聞かされてきた伝説を、目の前にした者の畏敬だった。

 

 「そのお力は、伝説の勇者様のお力です」

 

 「ボクが勇者様!?」

 

 「邪悪を祓い、闇を照らし、人々を導く光。まさか、本当に実在されるとは……」

 

 ミレーヌも、僕達も、突然のことに言葉を失った。

 

 けれど、扉を叩く音は激しさを増している。

 

 「俺とフェリシアの魔法も、そろそろ打ち止めだ。尖塔に登るなら先に行け。ここで食い止める」

 

 「ここは兄様と私が時間を稼ぎます!! 急いでください!!」

 

 クヌートとフェリシアの顔には、疲労が濃く出ていた。

 これ以上、大きな魔法を連発するのは難しいのだろう。

 

 「わかった。僕達が尖塔にたどり着くまで任せたよ」

 

 「尖塔は狭く、二人が限度でしょう。私もここに残ります」

 

 カチュアさんが剣を構える。

 

 「そういう事なら、私とセシルも残るしかないな。ユキナ、ミレーヌ。頼むぞ」

 

 シグレさんが頷き、セシルさんも弓を構えた。

 

 「出来るだけ早くしてね」

 

 外の住人達はまだ扉を叩いている。

 

 このまま破られれば、操られた人々と戦わなければならなくなる。

 そうなれば、こちらも無傷では済まない。

 

 急がなくてはいけない。

 

 「わかった。行くよ、ミレーヌ!!」

 

 「行こう、ユキナ」

 

 ミレーヌはまだ戸惑っていた。

 けれど、その瞳にはもう迷いはなかった。

 

 「みんな、黒幕はボクとユキナがぱぱっとやっつけちゃうから、死なないでね」

 

 そう言って、ミレーヌはいつものように笑った。

 

 さっきまで神々しい光をまとっていたのに、その笑顔はいつものミレーヌだった。

 それがなぜか、僕にはひどく嬉しかった。

 

 その笑顔に、少しだけ勇気をもらう。

 

 僕とミレーヌは仲間達に背中を預け、尖塔へと続く階段を駆け上がっていった。

 

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