君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第九十四話 これからも共に
ルクス城の戦いが終わってから一週間後。
僕達は首都フレーベルに戻り、冒険者ギルド『黄金の獅子亭』の一階酒場に集まっていた。
ティニー嬢とカチュアさんには最後まで引き止められたが、いつまでもルクス城の客人として甘えているわけにはいかない。
だから僕達は、惜しまれながらルクス城を後にした。
ティニー嬢の推薦状により、僕達は全員鋼級へ格上げされた。
さらに、ルクス侯爵家からは一生遊んで暮らせるほどの報酬まで貰っている。
つまり、もう危険な旅を続けなくても生きていけるのだ。
だから今日は、これからのことを話し合う必要があった。
「まずは、お互いの無事と功績に乾杯しましょう」
僕がそう音頭を取る。
昼間だというのに、テーブルの上には豪勢な料理が並んでいた。
豚の丸焼き。
前世でアイスバインと呼ばれていた料理に似た、豚の塩ゆで。
大きな魚を丸ごと揚げた料理。
貴重な生牡蠣などの海産物。
さらに、輸入品の香辛料を贅沢に使った肉料理まである。
冒険者ギルド一階の酒場とは思えないご馳走だった。
周りの冒険者達が羨ましそうにこちらを見ていたが、本当の功績を話すわけにはいかない。
ミレーヌの素性は、まだ明かせないのだから。
杯を合わせ、料理に手をつけたあと、僕はみんなを見回した。
「これから、みんなどうします? 僕はミレーヌと旅を続けます」
僕がそう言うと、ミレーヌがとても嬉しそうに笑ってくれた。
その笑顔を一番近くで見られるのなら、一緒に行かない理由なんてない。
「ボクは、使命って何かまだよくわからないけど」
ミレーヌが少しだけ照れくさそうに言う。
「でも、ボクのことを必要としてくれる人達がいるなら、頑張ろうと思う」
まだ勇者として何をすればいいのかは分からない。
それは、旅の中で見つければいい。
「あたいも、二人と一緒に旅を続けるよ」
セシルさんが、豚のあばら骨を口に咥えながら言った。
いつもなら軽口に聞こえるはずなのに、その目には珍しく真面目な色があった。
「今まであたいは、自分のことだけを考えて生きてきた……って言いたいところだけどさ。実際は、自分のことすら真面目に考えてこなかったんだよ」
セシルさんは、手にしていた骨を皿へ置いた。
「ミレーヌの勇者の光で、あたいの中にあった黒い闇が消えちまった。でも、このまま旅をやめたら、また元に戻る気がするんだ」
セシルさんは、自分の胸に手を当てる。
「あたいはもう、闇に囚われる生き方はしたくない。自分が何になりたいのか、旅の中で見つけたい」
いつも軽口で場を明るくしてくれる人だからこそ、その言葉は重く聞こえた。
「わかりました。セシルさんは、僕達と旅を続けるんですね」
「ごめんな。この礼は必ずするよ。何なら身体で払ってもいいぜ。あたいも、ミレーヌが溺れるユキナの男を堪能したいと思ってたところさ」
そう言って僕を抱き寄せようとするセシルさんの手を、シグレさんがぴしゃりとはたいた。
「馬鹿者。せっかくいい雰囲気だったのに、自分から壊してどうする」
「痛い痛い。冗談だって」
「冗談にしても質が悪い」
シグレさんは呆れたようにため息をついた。
「私も旅を続けよう。ミレーヌにユキナが必要なように、セシルには多分、私が必要だろう」
「やだ、この剣士カッコイイ!! シグレ、あたいと結婚して!!」
「ああ、はいはい。分かった分かった」
シグレさんは慣れた様子で受け流す。
「セシルは見ての通りの性格だからな。保護者として、私が見張っている」
セシルさんは口ではふざけている。
けれど、シグレさんの言葉が嬉しいのか、少しだけ目元を緩めていた。
「兄様はどうしますか?」
フェリシアが、そっとクヌートを見る。
クヌートは料理に伸ばしていた手を止め、少し考えるように目を伏せた。
「正直に言えば、旅を続ける理由はもうない。金はあるし、フェリシアを連れて静かな町で暮らすこともできる」
その言葉に、フェリシアの肩がわずかに揺れた。
「でも、ルクス城で思ったんだ。俺達ハーフエルフでも、誰かを守れる。誰かに必要とされる場所が、この世界にもあるのかもしれないってな」
フェリシアが目を見開く。
「兄様……」
「俺はまだ、人間もエルフも好きになったわけじゃない。簡単に許せるわけでもない」
クヌートはそう言ってから、僕達を見た。
「だが、お前達と一緒にいれば、フェリシアが胸を張って生きられる場所を見つけられる気がする。だから、俺も旅を続ける」
フェリシアの瞳に、涙が浮かんだ。
「私も……兄様と一緒に行きます。皆さんと一緒に、もっと色々な場所を見てみたいです」
そう言うフェリシアの声は、少し震えていた。
「ルクス城で、私を淑女として扱ってくれたこと。兵士の方々が、私の魔法に感謝してくれたこと。あれを、私は忘れたくありません」
フェリシアは胸元に手を当てる。
「怖いこともあると思います。でも、私も誰かの役に立てるなら、旅を続けたいです」
クヌートは何も言わず、妹の頭に軽く手を置いた。
乱暴な仕草ではなかった。
どこか照れくさそうで、それでも優しい手つきだった。
「決まりですね」
僕が言うと、みんながこちらを見る。
ミレーヌ。
セシルさん。
シグレさん。
クヌート。
フェリシア。
全員が、頷いてくれた。
「じゃあ、改めて乾杯しましょう」
僕は杯を持ち上げる。
「これからも、共に」
「これからも、共に!」
杯が触れ合い、澄んだ音が鳴った。
僕達の旅は、まだ終わらない。
勇者として目覚めたミレーヌの行く先に、何が待っているのかは分からない。
でも、隣には僕がいる。
そして、頼れる仲間達もいる。
この笑顔を守るために。
この笑顔が照らす人達を、少しでも増やすために。
僕達は、これからも共に歩いていく。