君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第九十七話 急転

第九十七話 急転

 

 僕がバージと子供達から離れて、再び楽団の演奏を聞きに噴水へ向かう。

 

 この演奏を聞いたら、次は何をしようかな。

 そんなことを考えていた時だった。

 

 広場の一角が、何か騒がしい。

 

 遠目から見ると、数人の新聞売りが広場の人々に紙を配っている。

 

 「何か起こったのかな?」

 

 「ボク達も行ってみよう」

 

 噴水の近くで楽団の演奏を聞いていた僕達は、楽団員の足元に置かれた帽子へ数枚のルクス銀貨を入れた。

 ルクス侯領で作られている、純度の高い銀貨だ。

 

 それから、広場で騒いでいる人達の方へ向かう。

 

 新聞売りが配っている紙を受け取ると、そこには大きな文字でこう書かれていた。

 

 『シャムド男爵家の船がまた沈没。海の魔物に襲われたのか!? 死者行方不明者百名!! 生存者は巨大な闇を目撃!!』

 

 広場にいた人達は、みんな紙に書かれた死者・行方不明者の名簿を確認していた。

 

 取引のあった知人を亡くしたのか、隣で泣き出す店主もいる。

 襲われたのが商船だったため、市場の人達は一様に暗い顔をしていた。

 

 人命だけではない。

 商品の損失も深刻なのだろう。

 

 フレーベル国の船は、香辛料などを貿易に頼っている。

 船の損失は、商人達にとって死活問題だった。

 

 ただ、僕とミレーヌの目を引いたのは、別の言葉だった。

 

 海の魔物。

 そして、巨大な闇。

 

 「ユキナ、これって」

 

 「うん。さっきの曲にあった、真の闇かもしれない」

 

 僕とミレーヌは頷き合って、配られている紙に書かれた文を読む。

 けれど、詳しいことは載っていなかった。

 

 新聞売りの配る紙は、売るために大げさな見出しをつけることも多い。

 けれど、死者と行方不明者の名簿まで載っている以上、完全な作り話とも思えなかった。

 

 「ミレーヌ、冒険者ギルドに行ってみよう」

 

 「え、でもボク達のデートはまだ始まったばかりだよ」

 

 ミレーヌの声は、責めるというより、少し寂しそうだった。

 

 彼女だって、困っている人を放っておける性格ではない。

 それでも、今日のために着てくれた青いワンピースの裾が、朝の風に小さく揺れているのを見ると、胸が少し痛んだ。

 

 確かにそうだと思い、僕は足を止める。

 

 今日は、久しぶりに二人でゆっくり過ごす日だった。

 朝市を歩いて、絵を描いてもらって、楽団の演奏を聞いて。

 まだ行きたい場所も、食べたいものもあった。

 

 でも、海の魔物ということなら、冒険者ギルドに行けば何か情報が集まっているかもしれない。

 

 デートを優先させるべきか。

 それとも、今すぐ動くべきか。

 

 迷った。

 

 けれど、百人もの犠牲者が出ている。

 

 僕はこの世界で、人々のために生きると決めたじゃないか。

 

 そう思い直し、僕はミレーヌの手を取った。

 

 「ユキナ?」

 

 「ごめん、ミレーヌ。今日は冒険者ギルドに行きたい。デートの続きは明日にしよう」

 

 本当は、もっとミレーヌと遊びたかった。

 

 けれど、百人も犠牲者が出ている魔物の被害を、放っておくことはできない。

 

 ミレーヌも迷ったようだった。

 けれど、僕の意志が固いことを理解したのか、小さくため息をついた。

 

 「もし何も情報がなかったら、ユキナの奢りで今夜はたくさん御馳走してよね」

 

 妥協してくれたミレーヌの行動は素早かった。

 

 僕と一緒に宿屋への道を走る。

 普段と違う靴と服に少し戸惑っているようだったけれど、元々ミレーヌは足が速い。

 

 僕達は全力で宿に戻ると、お互いの鎧など、いつもの冒険者姿に着替えた。

 

 そして、そのまま冒険者ギルドへ向かう。

 

 ◆◆◆

 

 冒険者ギルド『黄金の獅子亭』。

 

 ギルドの依頼掲示板の前で依頼書を眺めていると、ひときわ高額の報奨金が出るクエストが新しく張り出されていた。

 

 シャムド男爵家からの依頼だ。

 

 内容は、商船に同乗し、航海中に魔物に襲われた時、船を守って戦うこと。

 

 任務期間は、往復で六十日。

 各港町でも冒険者を募集しているらしい。

 

 募集条件は鉄級以上。

 

 海賊相手なら青銅級でも足りるはずだ。

 それが鉄級以上ということは、相手はかなり危険な魔物なのだろう。

 

 僕とミレーヌがその依頼を見ていると、受付嬢のマリアさんが手招きした。

 

 「マリアさんがボク達を呼んでるね」

 

 「何だろうね?」

 

 僕とミレーヌがマリアさんのところへ行くと、彼女は普段鍵がかけられている部屋の扉を開けた。

 

 中へ入るよう、目で促される。

 

 何か分からないけれど、入った方がよさそうだった。

 

 僕達が部屋に入ると、マリアさんは扉を閉め、ロックという鍵かけの魔法をかけた。

 そして、部屋にあるソファを勧める。

 

 何がどうなっているのか分からないまま、僕達はソファに座った。

 

 マリアさんは外に聞こえないように、小さな声で話し出す。

 

 「あの依頼、あんまりお勧めしないわよ」

 

 先ほどまでの軽い調子とは違う。

 その目は、真剣だった。

 

 「船の護衛って一言で言っても、海のモンスターは巨大で強いから、並みの冒険者じゃ歯が立たないの。あなた達二人は鋼級だから募集要件は満たしているけど、船の上って逃げ場がないからね。船主がどんな無理難題を言ってくるかも分からないわ」

 

 余程、難易度の高い依頼らしい。

 

 マリアさんは僕とミレーヌの担当だし、何かと可愛がってくれている。

 本当は、こういう情報を個別に流すのはよくないのかもしれない。

 

 それでも、彼女は教えてくれているのだ。

 

 「別にあなた達、借金しているわけじゃないんでしょう? それなら、こんな危険な依頼を受けなくてもいいんじゃない?」

 

 「でも、百人も犠牲者が出ている事件を放ってはおけないです」

 

 僕は依頼書を見つめる。

 

 「僕は鋼級だから、依頼を受ける資格はあるでしょう?」

 

 僕とミレーヌは鋼級冒険者だ。

 冒険者ギルドでも上位に入る精鋭として扱われている。

 

 ここで受けないと、鋼級になった意味がないのではないか。

 

 いや、これはうぬぼれ過ぎだろうか。

 

 けれど、鉄級冒険者だけでは厳しい相手なのだろう。

 船に乗せられる護衛の数には限りがある。

 なら、鋼級の僕達が乗れば、生き残れる人が増えるかもしれない。

 

 そう考えた瞬間、僕の中で答えはほとんど決まっていた。

 

 「確かに、あの依頼は鉄級以上の冒険者なら受けることは可能だわ。でも、危険が大きすぎるわよ」

 

 「この依頼を受けます。それで、いつ出発ですか? 出来れば早いうちがいいんですけど……」

 

 僕は決意を固めると、マリアさんに尋ねた。

 

 すると、彼女は少し困ったような顔をする。

 

 「受けるなら止められないけど、本当にいいの? 命を落とすかもしれないのよ。私も出来るだけのサポートはするけどね」

 

 そこで、マリアさんは少しだけ目を細めた。

 

 「でもさ、恋人の意見は聞かなくてもいいの?」

 

 「あ……」

 

 その一言で、僕はようやく気づいた。

 

 人を助けることばかり考えていた。

 でも、その依頼に向かうのは僕一人ではない。

 

 ミレーヌも一緒に命を懸けるのだ。

 

 なのに僕は、彼女に相談する前に、もう答えを決めていた。

 

 僕は、恐る恐るミレーヌの方を見る。

 

 ミレーヌは、少し怒った様子でむくれていた。

 怒っているというより、寂しそうにも見えた。

 

 きっと、僕が勝手に話を進めたことが嫌だったのだろう。

 

 僕とミレーヌの顔を見比べて、マリアさんが小さく息を吐く。

 

 「このクエストは三日後だから、二人で相談して決めなさい。ミレーヌちゃん、不安や不満は恋人にちゃんと伝えるのよ。頑張ってね」

 

 そう言って、マリアさんはミレーヌに小さく声援を送った。

 

 僕とミレーヌは冒険者ギルドを出た。

 街中に借りている宿へ戻る途中、喫茶店で話し合うことにする。

 

 その間、ずっとミレーヌは何も喋ってくれなかった。

 

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