特筆することもなく、神崎たちは百里に帰還することが出来た。
ドラッグシュートが減速を手助けし、T-2は誘導路を進んでエプロンへと戻ってくる。そこで待っている整備士たちに後を任せ、中里と神崎は庶務室へと歩く。
「やっぱり小型でいいから、移動用の車ほしいな」
「そう、ですね」
そんな会話にもならないような言葉を交わす。
庶務室に戻ると、事務官の1士が律儀に座って待っていた。
「おかえりなさい」
「あれ、まだ帰ってなかったんですか?」
「えぇ。自分の仕事が残ってますから。そのカメラ、お預かりします」
「あ、はい」
神崎は言われるがままカメラを渡す。1士がカメラからマイクロSDカードを抜き、それをノートパソコンに差し込む。
そのまま撮影した動画や静画を確認し始めた。
「どの動画を公開しますか?」
「公開するって……。それは僕の仕事ではなくて……?」
「ただの映像を公開するわけにはいきませんからね。自分が編集して公開出来るようにします」
そういって編集ソフトを立ち上げる。
「とりあえず、なんか戦闘しているっぽいこの映像を編集しますね」
「はぁ、よろしくお願いします……」
その映像は、敵集団を壊滅に追いやった時のものだ。つまり一番最後に撮影したものである。
その映像を編集ソフトに突っ込み、編集を始める。まずはT-2のコックピット内部にモザイクをかけていく。それをカメラが動くごとにモザイクの位置を変えていく。地味で大変な作業である。
数秒間のモザイク処理をするだけで、すでに編集時間が30分を超えている。
映像はキャノピーの向こうの敵機を捉える。その時、第3飛行隊が敵機に対して攻撃を加える瞬間だった。
「このくらいの爆発で、しかも流血などの残酷描写などないですから、モザイクなどの処理は不要ですかね」
そういって一気に映像を飛ばす。
こうして約1分ほどの映像の編集が終わる。かかった編集時間は1時間弱だ。
「中尉、確認お願いします」
「おう」
そういって編集が施された映像を、中里がじっくり確認する。
「……まぁ大丈夫だろうよ」
「ありがとうございます。それじゃあこれで決裁回しますね」
「おう、頼むわ」
1士と中里で話が完結してしまった。
神崎は思わず中里に聞く。
「あ、あの、自分の仕事は……?」
「そりゃあ、1士の決裁に責任持つことだろうよ。まぁたまにお前からネットに情報発信をする事もあるだろうがな」
そういって中里は自分の席に戻り、パソコンを開く。
「おい1士。今のデータこっちに寄こせ」
「分かりました」
今度は中里が軽く仕事を始める。
「中尉は何を……?」
「防対本にデータを送る。こっちは無編集のデータでも問題ないからな」
神崎は、この日に複数回聞いた単語が気になった。
「中尉、質問してもいいですか?」
「なんだ?」
「中尉は首相官邸の関係者と繋がっていたりするのですか……?」
「どうしてそう思った?」
「今日の会話で、官邸に設置されている防衛対策本部の関係者しか知り得ないような情報をいくつか聞いたからです」
「確かにな。だが少々推察が足りない。それでは俺の本性を知ることはできないな」
そういってタイピングを終える。
「さて、メールを送信して……。今日の業務は終了……。ん?」
何か気になるメールでも飛んできたのか、マウスをカチカチと鳴らして確認する。
「ほう……、彼の国はこう来たか……」
中里が何か興味深そうに画面を眺める。
「……何か面白い画像でも流れてきましたか?」
「まぁまぁ面白い話だ。どうもアメリカ空軍は博物館で動態保存している航空機を順次再就役させていくらしい」
「……え? なんでそんな話になっているんですか?」
「話はそれだけじゃあない。民間のレシプロ機を徴用し始めているらしい。これらを武装させて影と交戦させるとのことだ」
「それは……正直正気を疑います」
「アメリカじゃ、影の物量はなかなかの物らしい。あのアメリカが苦戦しているんだ、民間も本気になるだろうよ」
「はぁ……」
「それに、すでに既存の航空機を改造し始めているらしい。あのA-10にガンポッドを増設させて、継戦能力を向上させようともしているそうだ」
そういって中里はクククと笑う。その情報の何が楽しいのかよく分からないが、とにかく世の中は大変な方向に動いていることだけは分かった神崎であった。