影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第11話 敵を知る

 それから1週間が経過した5月2日。幸運なことに、この1週間の間影による強襲及び領空侵犯は行われなかった。

 しかし、他国の危機的な報道は毎日のように入ってくる。メキシコでは連日のように空爆が行われ、人口の1割の死傷者を出したという。アメリカ西海岸地域にも影が押し寄せ、米海軍と米空軍、さらに州兵も総動員して対処に当たっているという。さらにオーストラリアやニュージーランドでは、国際航路の民間コンテナ船に対しても攻撃がされたという速報が入ってきており、すでに世界経済が大混乱に陥っている。

 しかし悪いニュースばかりではない。日本では撃墜した影の残骸の回収に成功した。アメリカはさらに器用なことをしており、エンジン部を破壊して機体のほぼ全てを鹵獲したという。

 とにかく、影のことを知らなければ人類に明日はない。そんな緊張感が世界中に流れだしていた。

 そんな中、百里の防対本専従航空広報室では、中里が今後の方針を話していた。

 

「我が国も官民問わずレシプロ機を徴用することになった」

「もうそんな話が出ているんですか……」

「まぁ、防衛出動が出ている上に、緊急事態宣言が発令されている状況だからな。本来ならそこまでの法的根拠は存在しないのだろうが、国家存亡の危機とも言える場面だ。これも致し方ないのだろう」

「そうですか……」

「そのほかにも徴用されるものがある。レシプロ機を運用する人員だ。航空機があっても、それを運用する人間がいないのなら本末転倒だろう」

「それもそうですね」

「というわけで、民間から広く募集するつもりだ。特に民間航空会社のパイロットは、飛ばすだけなら経験豊富だからな」

 

 そういって中里はどこからともなく煙草を取り出し、ライターで火をつける。が、ガスが足りないのかなかなか火がつかない。

 

「中尉、ここ禁煙ですよ」

 

 神崎はやんわりと中里に注意する。中里はチッと舌打ちして煙草をしまった。

 

「あと、民間の人員補充で、百里にも3人ほど来ることになっている」

「もうパイロットが決まっているんですか?」

「あぁ。全日本航空高等学校金沢から女子生徒3人が来る」

「ブフォァ……! 高校生ですか……!?」

「そうだ。何か悪いか?」

「悪いも何も、未成年じゃないですか! せめてアマチュアのレシプロ機操縦経験者じゃないと、空中格闘戦なんて出来ませんよ!」

「それがどうも、彼女たちから志願してきたそうだ」

「そんな馬鹿な……」

「空自としては、未成年でもアマチュアでもベテランのパイロットでもいい。今は戦力の即時拡充が最優先だ。戦闘に関しては現場で直接感じ取ってもらうほかない」

「んな無茶苦茶な……」

「それは影の連中に言ってくれ。少なくとも国のせいじゃないしな」

 

 中里は他人事のように言う。

 神崎は、何も出来ない自分に苛立ち、小さな溜息を吐くほかなかった。

 その翌日。ゴールデンウィーク後半の連休が始まったが、世の中はどんよりとした空気に包まれていた。

 それに反比例するように、正義感に駆られた行動力のある国民が国会前に集結し、反戦デモを行っている。

 

『政府は戦争するなー!』

「「政府は戦争をするなー!」」

『総理は責任を取って辞めろー!』

「「総理は責任を取って辞めろー!」」

 

 どちらかと言えば、この非常事態を利用して内閣を退陣に追い込みたいだけだろう。しかし、この非常事態故にその狂った主張もまかり通ってしまう。

 もちろんこの主張をしているのは、いつぞやの暴力革命を夢見た高齢者か、軍事のことを知らない中年か、関係者に無理やり連れてこられた少数の若者だけである。

 それでも大きな声を上げ続けていれば、その内容がどんなにとち狂った虚偽の発言でも真実になってしまう。そんなプロパガンダは、メディアの影響力が増すごとに大きくなってきた歴史がある。

 

「ったく、面倒なことをさせるなよ……」

 

 連休中も当然のように庶務室にいる中里が、テレビのチャンネルを回しながらぼやく。影に関する広報をする人間としては、聞くに堪えない間違いが多くあるものだ。

 そんな中、とあるニュース番組がアメリカ軍のある動画を紹介した。それは、退役寸前のA-10と退役済みのF-4が共同で影と交戦している動画であった。F-4には追加装備のガンポッドが複数装備されている様子が見える。そしてA-10であるが、こちらにもF-4と同様のガンポッドが装備されていた。ペンタゴンからの公式発表によると、この短期間で余っていたF-4のガンポッドを改造し、A-10でも使用出来るようにしたとのこと。これにより混成編成が可能となり、影に対して強力かつ効果的な防衛策を講じることができたらしい。

 

「我が国もこのくらいのことをしてほしいものだがなぁ」

 

 中里は足を机の上に放り出し、その番組を見ていた。

 神崎としては、仕事をしてほしいのだが、上の階級には強く出ることは出来ない。トホホと肩を落として、仕事に励むほかなかった。

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