一夜明け、庶務室に集まる新参者3人。その顔はかなり眠そうであった。
「うーん……。中里さーん、眠いですよー……」
「ちゃんと寝なかった浜口先輩が悪いんですよ。ふわぁ……」
「みんなねむねむだぁ……」
3人は眠い目をこすりながら仮職場に出勤してくる。
「一応君たちは自衛隊の一員だからな。規則的な生活も行うことも当然の義務だ」
「だからって、同じ部屋の人が布団をひっくり返すのはビックリしますよー……」
「今回の台風は優しいほうだぞ。とにかく、ここの生活習慣に慣れてもらうほかないな」
軽くあしらう中里を見て、神崎は彼女たちに思わず同情してしまった。
ここで中里は一つ咳を入れる。
「さて、昨日君たちの実力を評価させてもらった。その上で、現状の整理と今後の話をさせてもらう」
真面目な顔で話を始める中里の雰囲気を察して、3人は背を伸ばして耳を傾ける。
「現在、アメリカを中心として各国が国籍不明勢力━━通称影に対抗しようとしている。特にアメリカは、官民問わずに攻撃機能を有することが出来る航空機を全て徴用し、攻撃能力を付与させる作戦に出ている。我が国もそれを参考にすべく、現在防対本の総力を以て準備にあたっているわけで、すでに君たちが乗る航空機も決まっている状態だ」
「もうそんなに話が進んでいるんですか?」
思わず神崎が聞いてしまう。
「そうだ。乗る航空機が決まったということで、その機体の性能を最大限引き出せるように、民間企業も動き出している」
話も、行動も、何もかも早い。
「現状、我々人類は影に空を支配されているということになる。つまり、それだけ人類の活動範囲を狭められるということだ。それで一番の影響を受けるのは、物流になる。石油タンカー、コンテナ船、ばら積み船などが止まれば、我が国は1年も経たずに滅亡するだろう」
その言葉は、かなり重かった。
「しかし影は数が多い。今の戦闘機を使って影を攻略するには、費用対効果の面で非常に悪い。空対空ミサイルでレシプロ機を落とすなんてコストが掛かりすぎているからな。そこで君たちに乗ってもらいたい機体が大まかに決まったというわけだ」
そこまでの話を聞いて、神崎はなんとなく嫌な予感を覚える。
「中尉……。まさかと思いますが、彼女たちに乗ってもらう機体って……」
「そうだな。簡単に言えば、第二次大戦期のレシプロ機に乗ってもらう」
それを聞いて、神崎は思わず天を仰いだ。一方、浜口と岡井はピンと来ていないようで、加藤はなんとなく理解したようだ。
「つまり、コストの掛かるミサイルより機銃を使って墜としていけば、コストも大幅にカット出来る。それだけ継戦能力が上がるというわけですね?」
「その通り。さすが自衛官の娘だな」
加藤の推察に、中里が指をさす。
「というわけで、君たちにはこれから、先の大戦で使われていたレシプロ機での空中戦闘の訓練を受けてもらう。正直時間がないから、かなり巻きで訓練するぞ」
そのように言う中里を後目に、加藤が手を上げる。
「一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「加藤特専少尉、質問を許可する」
「いくら継戦能力に優れているからといって、わざわざ敵と同じ航空機に乗るのはリスクが高いのではないでしょうか? それなら、今の戦闘機の機銃を増やすなどの対応で問題ないと思います」
「鋭い質問だ。確かにその通りではあるが、今から新規のガンポッドを開発する余裕はない。なら、前時代的なシステムを採用している航空機を
説得する中里の目は真剣そのものだ。この結論に至るまで、多くの人間が狂気に飲まれたのだとすれば、やはり戦争は悪なのだろう。
「納得はしないだろうが、今はとにかくこの戦争を終わらせるのが先だ。そのために、君たちは訓練を受ける必要がある」
「要するにー? アタシたちがバババーンって影? をたくさん墜とせばいいんだよね?」
空気を一切読まない浜口が、自身の解釈を述べる。
「その通りだ。よく理解出来ているな」
「えへへー。それほどでもー!」
もはや能天気と言われてもおかしくはない浜口。
加藤は少し険しい表情をするが、それでも納得するしかなかった。
「ミズキちゃん、大丈夫だよぉ。うちらが頑張れば、みんなハッピーなんだよ~」
岡井がふわふわな説得をする。
「……大丈夫です、ナーちゃん先輩。状況は理解していますから」
加藤が顔を上げる。
「中里中尉。訓練のほう、よろしくお願いします」
「承った。では訓練する部屋に行こう」
中里に連れられて、彼女たちは庶務室の近くにある会議室に入る。中は机と椅子が片付けられており、そこに三つのシートと大型モニター、そして数人の自衛官の姿があった。
「君たちにはこれから、オンラインゲームである”Integration War”で事実上の中等訓練を受けてもらう。このゲームは、第一次大戦から現代に至るほぼ全ての航空機、戦車、艦艇をプレイ出来る。これをフライトシミュレーションとして活用するわけだな」
「中尉……。これで訓練するんですか?」
神崎が不安そうに聞く。
「何を言っているんだ。アメリカ陸軍が一時期、このゲームを使った訓練を行っていたほどだぞ。まさに折り紙付きだ」
中里が説明している間に、3人はもうシートに座ってゲームの操作方法を教わっていた。
「心配するな。この訓練は実機が届くまでの繋ぎみたいなもんだ。それに、戦争に適合する意識を持ってもらうことも目的の一つだ」
「そうですか……」
そんな心配をしながらも、神崎は持っていたデジカメで彼女たちのことを撮影するのだった。