影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第16話 一日の終わり

 その日、夕方までゲームを使った操縦の訓練を行った3人。それでもT-7を操縦出来るほどの熟練度を持っている3人は、ゲーム内のレシプロ機━━ゼロ戦で無抵抗の敵性ボットを墜とせる程度には上達していた。

 

「よし、今日の訓練はこの辺りにしよう」

 

 中里が腕時計を見ながら3人に声をかける。時間を見れば、17時前である。

 

「うーん、疲れたー!」

 

 浜口が背中を伸ばしながら、シートから降りる。それでも元気が有り余っているように見えるあたり、さすが若者と言った具合だろう。

 加藤と岡井もシートから降り、中里の前に立つ。

 

「本日は以上だ。あとは夕食、風呂、その後に自由時間になる。今晩からの生活については、同室の指導してくれる隊員の指示に従うように」

「はーい」

「はい」

「はぁい」

「では解散」

 

 直後、会議室の扉が開き、一人の女性隊員が入ってくる。

 

「それじゃあ新米少女たち、これから自衛隊での生活を教えるからついてきてねー」

 

 先ほど話していた、同室の指導員だろう。その女性隊員に案内されるように、3人は会議室を出ていった。

 

「さて、俺たちは残業といこうじゃないか」

「何かすることありました?」

「バカ。なんで写真を撮っていたんだよ。広報の写真としてSNSに投稿するんだろ? 2000(フタマルマルマル)までに、昨日と今日の撮影した写真からいい感じの画像4枚選んで投稿文の稟議回せよ?」

「わ、分かりました……」

 

 中里からの圧力もあり、神崎はそそくさと庶務室に戻る。そして撮影した写真をパソコンに取り込んだうえで軽く編集し、投稿文を考えるのだった。19時40分に投稿の書式が完成し、そのまま決裁に回す。30分後には所属課の課長から決裁を貰えた。

 

「投稿するか……」

 

 すでに食堂は閉まっていたので、売店で手頃なパンを買ってきた神崎。それを食べ終えてから、SNSに投稿しようとした。

 国籍不明勢力に関する情報を発信するために作られたSNSアカウント。全世界ユーザー10億人を超える「エクストラ」という短文投稿サイトだ。ちなみにこのアカウントは防対本で作成管理しており、神崎たちは「あくまでも借りている」という建前で運用している。

 すでにこのアカウントでは10個ほどの投稿がなされており、影の特徴や政府の動き、先日神崎が撮影した映像も投稿されている。

 そこに、神崎の手によって新しい投稿がされようとした。

 投稿の文章を打ち込んでいると、庶務室の扉がノックされる。

 

「どちらさん?」

 

 庶務室に私物の雑誌を持ち込んでいた中里が、声をかける。

 

「こんばんは。加藤以下3名です」

「おう、とりあえず入れ」

「失礼します」

 

 そういって加藤を先頭に、浜口、岡井が入ってくる。

 

「こんな夜遅くにどうした?」

「昨日、中尉が話していた私たちの部隊名の話です」

「明日にしようかなって思ったんだけどー、我慢できなくて来ちゃったー!」

「み~んなで一緒に決めたんだよね~」

「あぁ、そんな話をしてたっけな。それで? なんて名前にしたんだ?」

 

 加藤がタブレットを取り出して、手書きのメモ帳アプリを開く。そして画面をこちらに向けた。

 そこには、筆で書かれたような達筆な文字が記されていた。

 

「梅香隊。それが私たちの部隊名です」

「梅の香りか。これはまた雅な部隊名だな。確か、梅の花言葉には高潔や忍耐という言葉があるんだっけか」

「はい。そこから不屈の精神という言葉を見出しました。絶対に屈することなく戦い抜く。そういう意味も込めました」

「いいじゃないか」

 

 そういった中里は、神崎の方を見る。

 

「神崎。さっきの稟議のヤツ、もう投稿したか?」

「いえ、まだですが……」

「この梅香隊の名前も入れろ」

「えぇっ。そしたら決裁取り直しじゃないですか」

「いいよ、俺の責任で投稿の文章を変えて、梅香隊の文字をねじ込め」

「無茶苦茶だ……」

 

 そんなことを言いつつも、神崎は投稿文を見直して部隊名を無理やり文章に入れ込んだ。

 

「じゃあ、投稿しちゃいますよ?」

「頼む」

 

 そして投稿ボタンを押した。

 

「投稿……しました」

「分かった。今日はもう上がっていいぞ」

(いつもとは少し雰囲気が違う。なんか急に出来る上官みたいな空気を出してきて、正直不穏だ……)

 

 そんなことを思いつつも、神崎はパソコンの電源を落とす。

 

「そんじゃ、君たちも宿舎に戻って、今日は寝なさい。夜更かしは明日の朝に響くぞ」

「はーい!」

「それでは、失礼します」

「おやすみなさ~い……」

 

 そういって3人は庶務室を出る。

 

「さて。俺も今日の用事を済ませて部屋に戻るとするか」

「では、自分はここで失礼させてもらいます」

「おう、お疲れ」

 

 神崎は庶務室を出て、自分の部屋へと戻る。

 

(今日もなんだかんだ色々あったなぁ……)

 

 首を回しながら帰路に着く神崎。それでも、心のどこかには充足感があった。

 

(さて、明日も頑張りますか)

 

 そういって気合を入れ直すのだった。

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