その日、夕方までゲームを使った操縦の訓練を行った3人。それでもT-7を操縦出来るほどの熟練度を持っている3人は、ゲーム内のレシプロ機━━ゼロ戦で無抵抗の敵性ボットを墜とせる程度には上達していた。
「よし、今日の訓練はこの辺りにしよう」
中里が腕時計を見ながら3人に声をかける。時間を見れば、17時前である。
「うーん、疲れたー!」
浜口が背中を伸ばしながら、シートから降りる。それでも元気が有り余っているように見えるあたり、さすが若者と言った具合だろう。
加藤と岡井もシートから降り、中里の前に立つ。
「本日は以上だ。あとは夕食、風呂、その後に自由時間になる。今晩からの生活については、同室の指導してくれる隊員の指示に従うように」
「はーい」
「はい」
「はぁい」
「では解散」
直後、会議室の扉が開き、一人の女性隊員が入ってくる。
「それじゃあ新米少女たち、これから自衛隊での生活を教えるからついてきてねー」
先ほど話していた、同室の指導員だろう。その女性隊員に案内されるように、3人は会議室を出ていった。
「さて、俺たちは残業といこうじゃないか」
「何かすることありました?」
「バカ。なんで写真を撮っていたんだよ。広報の写真としてSNSに投稿するんだろ?
「わ、分かりました……」
中里からの圧力もあり、神崎はそそくさと庶務室に戻る。そして撮影した写真をパソコンに取り込んだうえで軽く編集し、投稿文を考えるのだった。19時40分に投稿の書式が完成し、そのまま決裁に回す。30分後には所属課の課長から決裁を貰えた。
「投稿するか……」
すでに食堂は閉まっていたので、売店で手頃なパンを買ってきた神崎。それを食べ終えてから、SNSに投稿しようとした。
国籍不明勢力に関する情報を発信するために作られたSNSアカウント。全世界ユーザー10億人を超える「エクストラ」という短文投稿サイトだ。ちなみにこのアカウントは防対本で作成管理しており、神崎たちは「あくまでも借りている」という建前で運用している。
すでにこのアカウントでは10個ほどの投稿がなされており、影の特徴や政府の動き、先日神崎が撮影した映像も投稿されている。
そこに、神崎の手によって新しい投稿がされようとした。
投稿の文章を打ち込んでいると、庶務室の扉がノックされる。
「どちらさん?」
庶務室に私物の雑誌を持ち込んでいた中里が、声をかける。
「こんばんは。加藤以下3名です」
「おう、とりあえず入れ」
「失礼します」
そういって加藤を先頭に、浜口、岡井が入ってくる。
「こんな夜遅くにどうした?」
「昨日、中尉が話していた私たちの部隊名の話です」
「明日にしようかなって思ったんだけどー、我慢できなくて来ちゃったー!」
「み~んなで一緒に決めたんだよね~」
「あぁ、そんな話をしてたっけな。それで? なんて名前にしたんだ?」
加藤がタブレットを取り出して、手書きのメモ帳アプリを開く。そして画面をこちらに向けた。
そこには、筆で書かれたような達筆な文字が記されていた。
「梅香隊。それが私たちの部隊名です」
「梅の香りか。これはまた雅な部隊名だな。確か、梅の花言葉には高潔や忍耐という言葉があるんだっけか」
「はい。そこから不屈の精神という言葉を見出しました。絶対に屈することなく戦い抜く。そういう意味も込めました」
「いいじゃないか」
そういった中里は、神崎の方を見る。
「神崎。さっきの稟議のヤツ、もう投稿したか?」
「いえ、まだですが……」
「この梅香隊の名前も入れろ」
「えぇっ。そしたら決裁取り直しじゃないですか」
「いいよ、俺の責任で投稿の文章を変えて、梅香隊の文字をねじ込め」
「無茶苦茶だ……」
そんなことを言いつつも、神崎は投稿文を見直して部隊名を無理やり文章に入れ込んだ。
「じゃあ、投稿しちゃいますよ?」
「頼む」
そして投稿ボタンを押した。
「投稿……しました」
「分かった。今日はもう上がっていいぞ」
(いつもとは少し雰囲気が違う。なんか急に出来る上官みたいな空気を出してきて、正直不穏だ……)
そんなことを思いつつも、神崎はパソコンの電源を落とす。
「そんじゃ、君たちも宿舎に戻って、今日は寝なさい。夜更かしは明日の朝に響くぞ」
「はーい!」
「それでは、失礼します」
「おやすみなさ~い……」
そういって3人は庶務室を出る。
「さて。俺も今日の用事を済ませて部屋に戻るとするか」
「では、自分はここで失礼させてもらいます」
「おう、お疲れ」
神崎は庶務室を出て、自分の部屋へと戻る。
(今日もなんだかんだ色々あったなぁ……)
首を回しながら帰路に着く神崎。それでも、心のどこかには充足感があった。
(さて、明日も頑張りますか)
そういって気合を入れ直すのだった。