影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第17話 やっと届いた

 それからしばらく日々が過ぎ、5月14日となる。現在の戦時下態勢に入っている自衛隊には休日の概念が半壊しており、16時間勤務したら16時間休暇という暫定的なローテーションで動いていた。

 そんな中、梅香隊の3人と広報室の神崎たちは、平時の勤務形態を維持している。まずは梅香隊の生活リズムと服務規則を、自衛隊のそれに合わせるための訓練として捉えているのだ。

 この日は第1回中間評価試験として、3人で総当たりのドッグファイトを行う。まだ実際に乗る機体も来ていない状態だが、それだけ状況は切羽詰まっていると言える。

 

「ナーちゃん先輩! 覚悟ー!」

「うふふ~。アンリちゃん、そんなのじゃ駄目だよ~?」

 

 浜口は勢いよく岡井へ突撃し、岡井はそれを日本機特有の機動性で回避する。そのまま揉み合いのような状態で空中戦を繰り広げていった。

 最終的に岡井の繊細なスロットルレバー操作によって、背後を取られた浜口の負けであった。

 

「次は岡井と加藤だ」

「浜口先輩のような戦闘はしませんから」

「よろしくね、ミズキちゃん」

 

 バトルが始まる。

 加藤は高度を下げつつ邂逅した岡井に対して、やや下方からの突き上げで攻撃を行う。岡井は加藤に側面を見せるようにロールし、そのまま旋回していった。岡井の後ろを追いかけるように加藤は飛んでいたが、一度位置エネルギーを運動エネルギーに変換してしまった加藤は、だんだん岡井から引きはがされていく。結果、運動エネルギーをそこそこ保持していた岡井が若干優勢の状態で攻撃を行い、加藤は左翼を破壊されてしまった。

 

「さすが岡井だ。二人の先輩として見本となる戦い方をしていたぞ」

「それほどでも~」

 

 ふわふわな言動の裏で、後輩二人との経験の差を見せつけていた。

 

「それじゃあ最後、加藤と浜口」

 

 シートに座り、バトル開始。

 真っ先に岡井が加藤にヘッドオンで攻撃する。スポーン位置は同高度なので、これが一番早い攻撃だ。しかも岡井は、1キロ以上も離れた場所から射撃を開始する。

 

「おりゃー!」

「浜口先輩、まじか」

 

 とにかく攻撃一番の浜口の射撃を、加藤は巧みな操縦桿さばきで回避する。直後、加藤はフラップを軽く下ろして旋回性能を向上させ、簡単に浜口の後ろに張り付く。そしてそのまま胴体と主翼を破損させて墜落させる。加藤の勝利だ。

 

「うにゃー! 二人に負けたー!」

「戦闘経験のないパイロットならありがちなことだ。今後の訓練に役立てるといい」

「ナーちゃん先輩は、私と浜口に先輩に圧勝でしたね」

「それほどでもないよ~」

 

 そんな話をしていると、基地司令の秘書である准空尉がやってくる。

 

「皆さんお揃いですね? 第7格納庫のほうまで来てください」

 

 3人は不思議そうな顔をして、准空尉の後ろをついていく。神崎と中里ももちろん一緒だ。

 

「何かあったんですかね?」

「多分アレが届いたんだろうよ」

 

 神崎の質問に、中里が何かをほのめかすように答えた。

 

(今の状況で、届くと嬉しいものが第7格納庫にある……。となると……)

 

 答えは一つだろう。

 第7格納庫に到着すると、それはあった。

 

「梅香隊のお三方に乗っていただく、レシプロ戦闘機です」

 

 そこには、種類の異なるレシプロ機が3機あった。

 

「手前から順番に、零式艦上戦闘機、一式戦闘機『隼』、三式戦闘機『飛燕』です」

「おぉー!」

「これが、私たちが乗る機体……」

「おっきい~」

 

 3人は機体に近づき、その様子をじっくりと見る。

 

「これ、ちゃんと飛べるんですよね?」

 

 ふと気になった神崎が中里に聞く。

 

「テストフライトまで終わらせてるんだ。ちゃんと飛ぶに決まってるだろ。だが、現場は悲鳴を上げながら24時間体制で復元と修理を行っていたそうだ」

 

 その様子をありありと思い浮かべることが出来るだろう。

 

「しかし、その甲斐あってか機体性能は当時と比べて向上したと言われている。何せ現代技術を駆使して新造したようなものだからな。機体にジュラルミンだけでなく炭素繊維複合材料を使用し、軽量だけでなく生存性能も向上。エンジンはオクタン価の高い燃料が使えるし、何より自動車産業で培った技術が利用出来る。さすがに星型エンジンを作るのは大変だったようだが、三式戦闘機は現代の技術でさらに向上を得られたようだ。武装に関しては全て換装させ、M2ブローニングを主兵装とした戦闘能力向上を目指した。ゼロ戦は機首に7.62ミリ機関銃を2挺、翼内にM2を2挺。一式戦闘機は機首にM2を2挺。三式戦闘機は胴体と翼内にM2を合計4挺。使いやすく、かつ補給のしやすさを目標にしていたからな。こうして現代に大戦期のレシプロ機が蘇ったわけだ」

 

 中里の早口かつディープな解説。神崎は真剣に聞こうと思ったのだが、途中からついていくことが難しくなった。

 

「とにかく、性能は向上した。後は梅香隊の3人がどうやって自分のものにするか、ってところだ」

 

 中里はメモ帳を取り出して、何かを書きこむ。

 

「先ほどの中間評価試験での戦闘やT-7での操縦の癖を見て、彼女たちには相性の良い航空機を割り当てるべきだ」

 

 そういって中里は、梅香隊の3人に近づく。

 

「加藤、浜口、岡井。君たちに乗ってもらう航空機をここで発表する」

 

 それを聞いた3人は、ビシッと背筋を伸ばす。

 

「まず加藤。君は堅実かつ模範的な操縦をしている。よって一式戦闘機『隼』を搭乗機とする」

「はい」

 

 加藤は綺麗な敬礼をする。

 

「次に浜口。君は速度と攻撃力を活かした戦闘を好む傾向がある。よって三式戦闘機『飛燕』を搭乗機とする」

「はーい!」

 

 浜口は右手を上げて笑顔で返事をする。

 

「最後に岡井。旋回を利用した柔軟な戦闘が出来る。よって零式艦上戦闘機を搭乗機とする」

「はぁい」

 

 岡井は相変わらずぽわぽわとした返事をする。

 

「明日からはシミュレーターと実機を用いた訓練を行っていく。分かったな?」

「はい」

「はい!」

「はぁい」

 

 3人の返事を聞いた中里は、神崎のほうを振り返る。

 

「神崎、デジカメ持ってきてるよな?」

「え、はい」

「記念撮影だ。梅香隊の本格始動記念だよ」

「……分かりました」

 

 神崎は少し口角が上がる。

 

(この人、なんだかんだで優しいんだな)

 

 そんなことを思いながら、神崎は梅香隊のパイロットたちと機体を写真に収める。そしてその日の夜に、この写真をSNSにアップするのだった。

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