すぐさまフライトスーツに身を包む梅香隊の3人。神崎と中里も耐Gスーツに着替え終わった。
「しかし、こうして見ても、君たちのフライトスーツはかなり軽装だな」
梅香隊のフライトスーツは、遠目から見れば制服にも体操着にも見える。戦時中のような防寒対策はほとんどなく、全身に張り巡らされたベルトとヘルメットがよく目立っている。
「アタシもそー思う! これじゃあグライダーに乗ってた時と大して変わらないよ?」
「私としては、少し安全面に不安が残ります」
「ふわふわならよかったのにね~」
「書類に目を通しただけだが、君たちの機体には戦時中になかった空調機や無線などが積んであるらしい。その分重量は増えたそうだが、さして問題ではないだろう」
(本当にそうだろうか……)
戦時に使われていた材料や武器や装備が置き換えられ、大規模な改造を受けたようなものである。当時の使用感とは異なる部分もあるだろう。
「着替え終わったな? 格納庫に移動するぞ」
そういって庶務室を出る。すでに横のエプロンからは第3飛行隊のF-2が滑走路から飛び立っていた。
「やっぱ移動用の車ほしいな。5人で乗れるくらいの……、バンみたいなヤツだな。今度基地司令に頼んでみるか……」
中里は相変わらず移動用の車の購入を検討している。
(そのバンの運転手は、おそらく僕だろうな……)
そういって誰かに聞かれないように、小さく溜息を吐く。
第7格納庫に到着した時には、第3航空隊はバックアップのF-2を残して全て出払っていた。
「滑走路は空いたか?」
中里は整備員の一人に聞く。
「はい。先ほど6機がスクランブルで上がったと管制塔から連絡が来ました」
「分かった。すぐに上がるぞ! エンジン始動準備!」
その言葉で、整備員は一斉に航空機に群がる。T-2はすぐにエンジンが動き始めるが、梅香隊の機体ではそうはいかない。
まずエンジンの近くにあるイナーシャを、整備員が回す。その間にパイロットはエンジン始動のために色々とすることがあるのだが……。
「これ……。練習機で使われてたのとほぼ同じだ……」
加藤がすぐに気が付く。当然の話だが、コックピットに収められている機材まで全て当時のままにする理由はない。現代の技術で合理化できるところは徹底して刷新されている。
そのうちイナーシャが一定の回転速度に達する。そうすれば、パイロットに合図してエンジン始動に至る。エンジンも新造なので、軽やかに動く。
『あーあー、マイクチェック。梅香隊、聞こえるか?』
無線機━━とはいっても、そんな大げさなものではない━━で中里が梅香隊に問いかける。ヘッドセットを内蔵しているヘルメットのおかげで意思疎通も簡単だ。
『聞こえます』
『ばっちり~』
『問題ないよー!』
3人から返事が返ってくる。
『それじゃあエプロンに出るぞ。岡井から順番でな。俺たちT-2は最後だ』
『は~い。岡井ケイナ、出ま~す』
のんびりとした声と共に、ゼロ戦の主脚に置かれていた輪止めを整備員が引っ張る。ゼロ戦が前進を始めた。
それに続いて三式戦闘機、一式戦闘機も同じようにして動き出す。最後にT-2が動いた。
誘導路を進んで、滑走路の端まで移動する。
そこで一度停止した。
『管制塔、離陸の許可を求める』
『4機の離陸を許可する』
離陸の許可が出たところで、先頭にいた岡井から無線が入る。
『離陸しまぁす』
岡井がスロットルレバーを前に押し倒せば、ゼロ戦のエンジンが唸りを上げる。そしてゆっくりと、やがてかなりの速度になっていく。
後ろで並んで待機していた浜口と加藤は、岡井が離れていったのを確認すると、スロットルレバーを押し込む。
『浜口アンリ、いきまーす!』
『加藤ミズキ、出ます!』
岡井と同じように、浜口と加藤も機体を進める。
その時になれば、岡井は地面から離れて空中を飛んでいた。やがて浜口と加藤も宙に浮く。
やがて3機の機影は小さくなっていった。
『よし。神崎、行くぞ』
「はい」
そしてT-2も離陸する。今回はレシプロ機の速度に合わせるために、アフターバーナーを点火せずに離陸した。
それでもレシプロ機の3機に比べればかなり早い。スロットルレバーを絞り、エアブレーキを展開し、フラップを浅めに出してどうにか速度が合うレベルだ。
『やはりレシプロ機は遅いな。こっちが今にも墜落しそうだ』
『えー? 中里さん、それアタシたちに文句言ってるー?』
『埋めようのない機体の性能差ってヤツだ。気にしなくていい』
そんなことを言いながら、中里はレーダーを見て現在位置と目的地を確認する。
『さて、君たちの機体にはおそらくレーダーは搭載されていないだろう。つまり地図すらない状態だ。本当ならこの地図を読む訓練もしたかったのだが、この緊急事態だ。致し方ない。よって、俺の指示のもと飛行するように。ここから5時方向に進んでいくぞ』
中里の指示により、混成4機は犬吠埼を目指して飛行する。
飛行すること約10分。目の前の空に黒い機影がいくつも見える。その周りでF-2が高速で動き回っているのが見えるだろう。
『見えてきたな。影だ』
『だいぶ少なくない?』
『それだけ墜とされたんでしょう』
『うちらの出番がなくて良かった~』
『そんじゃ、この辺りから遊覧飛行でも楽しむとするか』
そう決めたときである。中里はレーダーに異変を感じた。
『ん……? 1機こっちに来ているようだな』
その直後、第3飛行隊から通信が入る。
『そこにいるのは梅香少女隊か!? 今すぐ逃げろ! 残っている国籍不明機がそちらに向かっている!』
「なっ……!?」
神崎は仰天する。それはつまり、自分たちに危険が迫っていることを意味していたからだ。