翌日。梅香隊の特別休暇が終わり、3人は訓練に戻る。
「さて、休暇はたっぷり堪能したか?」
「はい! すっごくスッキリしました!」
「ふわふわに囲まれて最高だった〜」
「リフレッシュできました」
昨日神崎へ相談しに来た加藤は、あの悩みを引きずっていないようだ。神崎は安堵する。
「さて、今日も訓練を行うぞ。とは言っても、戦闘機に乗るわけではない。今日は座学だ」
「ざがく?」
「授業といったほうが分かりやすいか。指導教官による、地図の読み方と現在地の割り出し方に関する授業だ。学校のほうでも少しやったと思うが、小難しい内容が続く。心して勉強するんだぞ」
「はい」
「はーい!」
「はぁい」
そういって3人は指導教官に連れられて、庶務室を出ていく。
一気に庶務室が静かになった。
「そんじゃ、俺らも仕事をするかな」
そういって中里は事務椅子にドカッと座り、机の上に足を乗っける。そしてそのまま、支給されたタブレットを操作する。
(本当に仕事してるのか怪しいんだよな……)
神崎は心の中で愚痴をこぼすのだった。
しばらくして、中里が口を開く。
「神崎。お前、今の世界情勢とか分かってるか?」
「あ、はい。ニュースは一通り眺めていますが……」
「ふーん。足りないな」
「はい?」
「お前、市ヶ谷からの機密3までのメールは読めるよな?」
「えぇ……、そうですけど……」
「にしては解像度低いよ。そんなんで梅香隊の広報が勤まるのか?」
「どういうことですか……」
「曲がりなりにも、自衛官として機密情報に触れられる機会があるのに、ニュースからしか情報を得られていない時点で三流だって話だよ」
(最初からそう言ってくれ……。僕にならどんな罵倒をしてもいいみたいな認識をしてるんじゃないよ……)
神崎はうんざりしながらも、それを顔に出さないように努力する。
「幹部自衛官向けの世界情勢をまとめた資料がここにある。お前も前線に出ている自衛官だから、これを読んでおけ」
そういってタブレットを操作し、何かを送信する。メールでファイルが送られてきた。
「幹部向けの資料を、自分が読んでもいいんですか?」
「情報自体は機密になってない、オープンなものだ。別に問題ないだろ」
相変わらずいい加減なところがある中里だ。
正直やることもないので、資料に目を通す。
『南米諸国が一致団結し結成された南米大陸連合だが、国籍不明勢力の圧倒的物量により連合空軍は壊滅状態に陥る。残る連合海軍と連合陸軍は総力を以て対抗していると思われるが、最新の情報が入ってこないため詮索は打ち止めとする』
「要するに、南米は陥落して孤立したってことか……」
「そんな感じだ」
神崎の感想に、中里が答える。
神崎は先を読み進める。
『米国と豪州はもともと保有していた軍事力を使い、国籍不明勢力と拮抗していると思われる。また、輸送機や民間の航空機を流用し、対戦闘機仕様に機銃を増設し改造を行った機体を前線に送り込んでいる。いわゆるCOIN機と言われる機体を大量動員していることで、制空権を維持している』
「はぁ、土地が広い国の考えることだなぁ」
「それだけじゃない。民間にある技術力も、国力の一部と言えるだろう」
さらに神崎は読み進める。
『結果的ではあるが、我が国が一番被害が少ないと言えるだろう。理由の一つに、国籍不明勢力の航空機が拠点としていると思われる人工島の存在がある。3000メートル級の滑走路を有するこの島は、現段階で太平洋上に13ある。それぞれ独立して動いていると考えられ、現在もスペースエクストラ社が打ち上げた地球観測用人工衛星で現在も監視されている。この人工島の半分以上が北米大陸と南米大陸に接近し、米国を中心に猛威を振るっている。対して我が国には、犬吠埼の沖合400キロメートルの所に一つのみである。将来的にはこの人工島を攻略することが、日本の興亡を左右すると言っても過言ではない』
「なるほど……。結果として日本は助かっているのか……」
「ま、ここからの展開次第だろうがな」
神崎は資料を読み進める。今度は影についての詳報が載っていた。
『国籍不明勢力の機体は、物理的には通常の鋼材と大きな差異はない。しかし、未知の製法で作られていると推測される。その理由は、この鋼材に可視光を照射したときに顕著な熱エネルギーや微弱な電気の発生が確認されているからである。米国では機体そのものを鹵獲しており、その内部構造を調べた際に大量の生体物質を確認したとの報告も上がっている。今後も注視すべき事案である』
資料を斜め読みすると、こんな感じのことが書かれていた。
「はぁ……。まだ分からないことが多いですね……」
「分からないことを分かるように説明するのも、広報の仕事だよ」
中里からの高圧的な言葉が飛んでくる。神崎は正直うんざりしていた。
それでも、影の正体に半歩だけでも近づいたことは値千金の成果である。今後も注目していこうと神崎は思うのであった。