影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第24話 世論が傾く

 日本時間5月24日の午後。世の中のあらゆる情報媒体では、人工島「バーナード」の沈没について玉石混交の意見が飛び交っていた。

 とあるテレビのワイドニュースでは、軍事アナリストをゲストに迎えた解説を行っている。とある配信者は陰謀論を絡めたデマを発信する。とあるSNSユーザーたちは総理大臣のアカウントに対して過激なリプを飛ばしている。

 とにかく、少なくとも日本という国の中では平和的に言論の暴力が跳梁跋扈していた。

 その様子を、神崎は黙って眺める。自衛隊の中の人が運用している以上、間違った情報を放置してはおけない。しかし、ここでデマに対抗してネットで意見を述べようならば、アンチの思うがままになり、デマが何十倍にもなって拡散することになる。ここは、信頼のおける情報源から正しい情報が何度も繰り返し情報発信を行うのを眺めているしかない。

 しかし、世論は次第に嫌な方向へと動いていく。

 

『謎の島は破壊できる。ならば全て破壊しよう!』

『我々は何も見なかった。何も起こらなかった』

 

 そういったどこか楽観的で破滅的な思想がネットを中心に蔓延るようになったのだ。

 

『現在のところ、国籍不明勢力はこの謎の人工島を拠点としていることが明らかになりつつあります。つまり、ここを攻撃すれば、国籍不明勢力は我が国に接近することはなくなるのです』

『実際、アメリカ軍の行動の後、カルフォルニア州の近くに存在した人工島は沈没しました。この一連の軍事行動がどのように作用したのかは分かりませんが、我々の技術力と()の技術力はそこまで離れていないと言えるでしょう』

『ならば破壊してしまうのが一番! 元凶を叩けば、それ以上は何も恐れる必要はありませんから!』

 

 そういう論調を展開するWeTuveの配信を、私用のスマホで見ている神崎。情報収集のつもりが、つい見入ってしまった。

 

「世の中も大変なことになっているな」

 

 椅子にふんぞり返っている中里が、窓の外を見ながらそんなことを言う。

 

「だいぶ楽観的ですね。こっちはこっちで面倒なんですよ?」

 

 そういって神崎は支給されたパソコンを見る。そこには防対本が運用しているSNSのアカウントが表示されていて、毎秒何かしらのコメントが飛んできている。

 バズったのではない。炎上しているのである。この事態を予見できなかった防対本の職務怠慢の指摘。まだ成人になっていない高校生を戦争に巻きこんでいるといった暴言。ただの悪ふざけでコメントする人々。そういったものが重なって、炎上という形で表れている。

 

「あー、そんなの真に受けてる時点でお前は三流なんだよ。そんな炎上なんぞ無視だ無視。俺たちは俺たちなりに職務を遂行しているんだ」

 

 半分ふてくされるように言う中里。しかし彼の言う通り、炎上していたりネガティブな話題を見ないようにするのは、精神衛生の観点からも良いことである。

 今コメントを投稿すれば、火に油を注ぐ状況であることは明らかである。神崎は無言のままSNSからログアウトした。

 

「しかし、こうなると連中の島も調査する必要が出てくるな。防対本はやること多くて大変だなぁ」

「そんな呑気に言っている場合ですか……」

「俺たちは組織の名前に専従なんて付いているが、やってることはただの写真撮影だ。それ以外のことは上にぶん投げるしかないんだよ」

「そうですか」

 

 神崎はあまり興味がなさそうに言う。

 すると、庶務室の前の廊下から誰かがやってくる音が聞こえる。声から察するに、梅香隊の3人だろう。

 

「中里さーん! ただいま戻りましたー!」

 

 そういって浜口を先頭にして、3人が入ってくる。

 

「おう、お疲れさん」

「中里中尉。訓練終了後に話があると聞きましたが、なんでしょうか?」

「あぁ、その件だな」

 

 そういって中里は椅子から立ち上がる。

 

「知ってるかどうかは知らないが、君たちと同じように民間から引き抜かれて訓練を行っている仲間が日本中にいる。彼ら彼女らは、まだ訓練を受けている最中で、君たちのように実際に使われていた戦闘機に乗って敵を倒したりはしていない。つまり君たちが経験的にも先輩であると言えるだろう。彼ら彼女らもやがては君たちに合流し、国籍不明勢力に対抗出来る混成航空部隊が発足するはずだ。それまで、君たちの能力を最大限に引き出せるように我々も努力する。頼んだぞ、梅香隊の諸君」

「はいっ」

「はーい!」

「はぁい」

 

 中里からの訓示と、いつものように返事を返す3人であった。

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