翌日の5月25日。梅香隊は午前の訓練を終え、昼食をとっていた。神崎たちも、席は違えど久々に食堂で昼食を食べる。今日のメニューは、誰しもが好きであろうカレーである。
「神崎、お前そんな少なくていいのか?」
神崎の近くに座った中里が、神崎のカレーの量を見てそんなことを言う。
「いいんですよ。自分は動くほうの人間じゃないので」
「何言ってるんだ。自衛官は動く方の人間だろうよ。そんなんじゃすぐ体が細くなっちまうぞ。梅香隊の彼女らを見習え」
そういって中里は顎でその方向を指す。そこには2人前はあるだろう山盛りカレーを頬張る浜口の姿があった。加藤と岡井も、神崎より多めのカレーを食べている。
「あれは代謝のいい若い人間の特権ですよ。前も言いましたけど、自分アラサーですからね?」
「そんなん、普通の訓練をこなせば一瞬で解消するだろ」
「それすらほとんどないのが
そんな愚痴みたいなことを言いながら神崎はカレーを食べる。
「ずいぶんと反抗的だな? 神崎お前、俺との階級の差を忘れたのか?」
「曹長が中尉に反抗なんかしませんよ」
そんな話をしている時だった。
基地中に警報が鳴り響く。ホットスクランブルだ。昼食中の自衛官が一斉に食べるのを止めて、ダッシュで食堂を出る。
続けて放送が入った。
『梅香隊、出撃準備。繰り返す。梅香隊、出撃準備』
それを聞いた3人は、一瞬ポカンとする。
そんな彼女らの後ろに、いつの間にか中里が立っていた。
「君たち、出撃準備だ。カレーはここに置いてすぐに格納庫に行くぞ」
「うわっ! 中里さん!?」
「お昼食べてたのに~」
「仕方ないですよ。敵はいつ来るか分かりませんから」
そんな加藤はいつの間にかカレーを食べ終えて、席を立とうとしていた。
「お、加藤。もう出られるのか?」
「はい」
「ま、空飛んでる時に食べすぎで吐かないように注意しろよな」
「は……、え?」
「そら、行くぞ!」
中里に背中を押されるように、梅香隊の3人は格納庫へと走る。
梅香隊は、整備された戦闘機に乗り込む。中里と神崎も一緒だ。
そして第3飛行隊が飛んでいくのを確認して、梅香隊とT-2が滑走路に誘導される。
その第3飛行隊の離陸する様子を見ていた加藤が口を開く。
『今日の第3航空隊、飛んでいった数が少ないですね』
『お、良く気づいたな。今整備中の機体があるんだが、それが第3飛行隊の半数もある。つまりそれだけ前線の戦力が欠けているということだ。そこを君たちが補完するという寸法だ』
『うちらが補完するの~?』
『アタシたち普通に戦力として数えられてるじゃん!』
『それだけ私たちの存在を重要視しているということでしょう』
『ま、そういうことになるな』
管制塔から許可を貰い、梅香隊とT-2は百里基地を離陸した。
『今日は加藤特専少尉に道中の案内をしてもらおう。これまでの訓練を思い出してしっかりとやってくれ』
『はい』
そういって一式戦闘機が先頭に移動して、そのまま茨城県の上空を南下していく。
そんな時、先に向かっていた第3飛行隊から情報が入ってくる。
『敵に戦闘機なし。全て爆撃機のみで構成されている。防御用の機銃による攻撃が厄介だ。梅香隊は注意されたし』
どうやら面倒なことになっているらしい。
『相手は爆撃機ってことは、かなり上空にいるってこと?』
浜口がそのように解釈する。
『確かにそうだな。実際こっちのレーダーには上空3000メートルのところに機影が複数見えている』
『今のうちらの高度が1000メートルだから~?』
『すぐにでも上昇しないと厳しいかと思われます』
『そうだな。早速上昇していこう』
そういって梅香隊は上昇を始める。
やがて目の前に爆撃機数機が飛んでいるのを目視できる距離まで来た。
『爆撃機だぁ。おっきいねぇ~』
『あの感じだと、機体全体に機銃が装備されているハリネズミのような爆撃機だな』
「近づいたら機銃掃射で攻撃されるってことですね……」
『でもそんなの関係ないよ!』
浜口がそのように言う。そしてそのまま出力を最大にして、梅香隊の隊列から離れて先行する。
『おい、浜口。勝手に隊列を離れるな。死ぬぞ』
『えー、死にはしないよ!』
そういって突き上げるような機動で爆撃機に接近する。爆撃機も三式戦闘機に気が付いたようで、すぐに防衛のための射撃を行ってくる。
しかし、浜口は強く避ける素振りを見せずに射撃を行う。的確にエンジン部分と主翼の付け根に射撃し、あっという間に1機を撃墜した。
遅れて、残りの爆撃機を狙っていく加藤と岡井だが、当然のことながら爆撃機から防衛射撃がなされる。加藤と岡井はそれを回避しながら爆撃機の周辺を回り、適宜射撃を行っていく。
爆撃機は巨大な機体ゆえに、簡単に回避することはできない。その点では戦闘機は身軽で簡単に旋回でき、効率的に爆撃機に攻撃できる。
敵の機銃による防御は非常に厄介だが、サルベージした上に新造したエンジンによって起動性は向上していることもあり、特に苦戦することなく爆撃機を全て撃墜することができた。
「今回も何事もなくてよかった」
『……果たしてそうだろうか』
神崎の言葉に、中里は含みのある言い方をする。神崎はよく分からず、そのまま聞き逃したのだった。