先日の一件により、浜口は少々大人しくなったようにも見える。以降のシミュレーターを使用した訓練では、被ダメージが大幅に減少していた。その分戦闘のスタイルは様変わりするようになったものの、その辺は時間と経験が解決してくれるだろう。
「今はいい傾向だな」
「今は……ですか」
「人間の感情は簡単に操れても、心の奥底に存在している信条なんて簡単には変えられない。今の浜口はその感情と同じようなもんだ」
シミュレーターで戦闘をしている浜口の様子を見ながら、中里はそんなことを呟く。
その顔は、願わくば彼女らがこれ以上戦争に巻き込まれないことを祈っている。そんな顔であった。
この日の訓練も終わり、庶務室で神崎と中里が残業をしている。その時、中里の支給スマホに電話が届いた。
「はい、中里です」
しばらく何かを聞く。そして会話も少なく電話を切った。
「中尉、何かありました?」
「あぁ、あまり良くない情報だ。例の千葉県沖にいる人工島が移動しているとの情報が入った。しかも日本の方向にだ」
「……かなりヤバいのでは?」
「多分ヤバい」
直後、再び中里の支給スマホが鳴る。
「はい、中里です。……足立空将補の耳にもお入りになりましたか。……大臣から? ……承知しました。梅香隊の訓練も兼ねて、偵察任務に入ります。では、失礼します」
そして電話を切る。
「足立空将補からの命令だ。早期警戒機と共に、この人工島への偵察を行えとのことだ」
「今の話を聞く限りでは、梅香隊の3人が護衛につくような感じでしたが?」
「その通りだ。彼女たちの訓練には持ってこいだろう」
「危険ではありませんか?」
「その危険にも慣れてもらわないと、今後の戦闘についてくることは出来ないだろうよ」
まっとうな話である。しかし、教育課程から見ればまだまだひよっこの3人を、いきなり敵勢力圏に突入させるのはなかなか酷な話だ。これも戦時下という特殊な時期の問題なのだろう。
結局、その命令は正式に下されることになった。
「えっ!? 私たちが偵察任務に!?」
「そうだ。厳密には偵察を行う早期警戒機の護衛だが、君たちも経験が必要なはず。そのための足がかりとして、この任務をこなしてほしい」
「それはいいんですけど~。うちらだけじゃ不安です~」
「安心していい。俺も一緒についていく。敵の本拠地に接近できるいい機会だからな、ここで敵の情報をゲットする」
「それってソウキケイカイキ? の仕事なんじゃないのー?」
「それもそうだがな。早期警戒機の撮影したものは問答無用で機密情報扱いになっちまうんだ。その点、俺ら広報室が撮影した画像や映像は、機密情報の一歩手前である機密相当扱いになる。機密情報を公表する際の必要な事務作業も半分以下で使用することができるんだ。そこが利点と言えるだろう。それに、俺たちの撮影機材は市販のデジカメだぞ? 機密情報になるほうが大げさだ」
そんな風に説得する中里。梅香隊の3人は上手く丸め込まれたようだ。
(そういやこれ、僕にちゃっかり偵察任務を押し付けられてないか?)
神崎はそのことを察したのと同時に、中里の方を見る。中里は知らんぷりのままだ。
(あぁ……。これ問答無用で連れていかれるパターンだな……。そもそも中尉からの命令には逆らえないし……)
神崎は自分の不運を受け入れざるを得なかった。
翌日には正式に護衛任務の命令が下り、さらにその翌日が偵察決行日となった。
6月2日。天候は晴れ。南からの風が少しある。
そんな中、梅香隊とT-2が滑走路の端で待機していた。
『そろそろ護衛対象が接近してくるはずだが……』
中里が上空を見渡していると、管制塔から連絡が入る。
『こちら管制塔。入間基地より離陸したE-2Cを捕捉した。ただちに離陸し、千葉県上空で合流せよ』
『了解。お嬢ちゃんたち、離陸の時間だ』
『了解っ』
『りょーかい!』
『はぁい』
そういって3機はスムーズに上空へと上がる。それを追いかけるように、T-2も上がった。
そのまま南下していると、前方に特徴的な機影をした航空機を発見する。
E-2Cである。早期警戒機として航空自衛隊に導入され、かなり息が長い。
『こちらE-2C、コールサインおおとり。君たちが噂の梅香隊か?』
『はい。加藤です』
『はっはっは。こういう時はコールサインで呼び合うのがしきたりってモンだ。教えてもらってないのかい?』
そういや教えてないな、と神崎は思いながら、中里の発言に耳を傾ける。
『そーだったな。教えてなかったわ。こちらコールサインミドル。今から彼女たちにコールサインをつけるからちょっと待っててくれ』
『了解。素敵な名前を考えてくれ』
『えー!? アタシたちで決めちゃダメなのー!?』
浜口が異議を唱える。
『まぁまぁ。そうだな、梅って入っているから単純にプラム1、プラム2、プラム3って呼ぶのはどうだ?』
『悪くありませんが……』
『なんかかわいい~』
そんな呑気な話が続いていた時である。
『おおとりからミドルへ。前方に島が見えてきた。海図にはない未知の島だ』
その通信が入ってくると、梅香隊に緊張が走った。