眼下に広がる海を見渡す。すると、水平線の近くにポツンと黒い何かが見えるだろう。
それが、国籍不明勢力の人工島である。
『今回の任務は、この人工島「ルーマン」の情報収集になる』
『ルーマン?』
おおとりからの通信に、中里が反応する。
『この人工島につけられた名前だよ。どうも地球に近い恒星の名前から拝借しているらしい』
『ほぉー。そんな呑気なことをする人間もいたもんだ』
『このルーマンは、人工衛星を用いた事前の調査では特に異常な存在は発見されていない。そこが怪しいところでもあるんだけどね』
おおとりの通信士がそのように説明する。
「異常な存在って、どのレベルのことを言ってるんですかね?」
神崎はおおとりに聞く。
『地上部分にはハンガーのようなものが2個。3000メートル級の滑走路が2本。港のようなものが付随している感じだ』
『うん……?』
それを聞いて、中里は唸る。
「中尉、何かありました?」
『いや、3000メートル級の滑走路を持っていて、かつ大量の爆撃機と戦闘機を寄こしてきた元凶なのに、ずいぶんと貧相な地上施設しかないのかと思ってな』
『確かに、対空装備の一つもないんですね』
加藤が同調する意見を言う。
『でもそれだけやりやすいってことじゃないのー?』
浜口がそのような見解を示す。
『でも~、兵器が存在するなら~、それなりに守る必要もあるよね~?』
岡井が一般論を述べる。
『ま、その辺も含めての偵察任務だからな』
中里がそのように総括する。
ルーマンまでの距離はだいぶ近くなってきた。それだけ日本本土にルーマンが接近してきていることでもある。
『これより我々は情報収集を開始する。護衛を頼むよ』
早速おおとりが情報収集を始める。その間、梅香隊はおおとりの護衛を行う。
『なんか暇ー』
護衛開始で10分もしないうちに、浜口が飽き始めていた。
『まぁ、そう言うな。護衛とは単純なように見えて奥深い任務だ。特に、周辺の異常な状態を発見するのは大事だ』
中里が解説をしながら、機体を細かく操縦する。それにより、神崎がルーマンを撮影しやすい状態になる。それを使って、神崎はカメラにルーマンの様子や梅香隊の撮影をしていく。
そんな時だった。加藤が何かに気が付く。
『あれ? 今何か光ったような……』
『光った?』
中里と神崎は人工島の方を見る。直後、おおとりから通信が入ってきた。
『ブレイク! ブレイク!』
その瞬間、キャノピーのすぐそばを風切り音がなる。銃撃だ。
「た、対空砲!?」
『クソっ! どっからだ!?』
『中里中尉! 人工島から発砲を確認!』
加藤がそのように報告する。すぐに確認すると、先ほどまで何もなかった地上部分に対空砲が生えていた。
「はぁ!? そんなのありか!?」
神崎は叫び、中里はすぐに操縦桿を倒す。 それを倒した方向は、人工島のほうであった。
「ちょ、中尉!?」
『神崎! アレの撮影をしていくぞ!』
「はぁ!?」
『中里さん、危険だよー!』
『だがチャンスでもある。俺が思うに、敵は第二次大戦の装備しか持っていない。そこに超音速機のこの機体が接近すれば、簡単には撃墜されないだろう』
「憶測でしかないですよ!」
『いーや! 俺の今までの経験が大丈夫だと言ってる! 梅香隊は護衛対象と共に現空域を離脱。撤退しろ!』
『しかし……!』
加藤が反論しようとした時、おおとりから通信が入る。
『梅香隊の諸君、我々の仕事はあらかた終わった。このまま帰投する。ミドルは我々以上の情報を持ち帰ってくることに注力してくれ』
『了解。そういうことだから、3人はそのまま反転して帰投しろ』
そして返事も聞かずに、中里はアフターバーナーを点火してルーマンに接近していく。
「中尉! 自分の意見も聞いてもらえると非常に助かるのですが!」
神崎は叫ぶ。
『知らん。お前はこの機体の付属品みたいなもんだ。壊れるまでこき使ってやるからな』
「そんなぁ!」
『おら、接近してきたぞ! 高解像度で撮影しろ!』
「~っ!」
神崎は心の中で自分の不遇を呪いながら、カメラを外に向ける。
T-2はすでにルーマンの外縁部にだいぶ接近していた。神崎は人工島の様子を映像で記録する。
神崎の目には、対空砲がいくつも自生してこちらを狙っているように見える。しかしその対空砲の全てにおいて、扱っているような人間らしき存在は見当たらなかった。
さらに、戦闘機も配備されているはずなのだが、それが滑走路に出てくる様子もない。
『神崎ィ! 撮影できたか!?』
「多分できました!」
『このまま離脱するッ!』
全速力で旋回している状態から、まっすぐ日本に戻れる方向へと向き直る。機体を海面ギリギリまで降下させて、対空砲の射線に入らないようにすることも忘れていない。
そしてあっという間に5キロ以上もの距離を取る。
「ぶはぁ!」
アフターバーナーによる殺人的な加速には何度か遭遇しているが、今回ばかりは胃の中の物をぶちまけるくらい酷かった。神崎の尊厳は守られたのである。
『中里中尉、無事ですか!?』
通信から加藤の声が聞こえてくる。
『あぁ、無事だ』
『良かったー』
『ヒヤヒヤしました~』
通信が聞こえる中、神崎はあることを思う。
(僕のことは心配してくれないのね……)
不憫な思いをする神崎であった。