影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第33話 ダメそう

 ロッカー室に幽閉されていた岡井を連れて、加藤と浜口は庶務室をあとにする。

 その時になれば、中里は電話を終えて窓の外を見ていた。

 

「中尉、今後の梅香隊はどうするんですか?」

「梅香隊の監督は俺の管轄になるが、結成や解散に関しては防対本が優先権を持っている。俺が進言したとしても、参考程度にしか聞かないだろうな」

「つまり、中尉でもどうしようもないってことですか?」

「まぁな」

 

 神崎は少し苦い顔をした。

 

「あいつらは民間人から徴用された中では一番の実戦経験を持っている。スズメの涙程度だがな。それでも、戦力の増強という点では貴重な存在だ。俺としても、梅香隊が解散するのは名残惜しい。何としてでも現在の状況を維持出来るようにかけあうつもりだ」

「僕からも、お願いします」

 

 こうして、梅香隊の存続が最優先事項となった。

 日付は変わり、翌日。訓練内容が変更となり、いつものシミュレーターを使った訓練を行う。

 

「ナーちゃん先輩、大丈夫ですか?」

「うん……」

 

 加藤が岡井に声をかける。その岡井の返事は元気がなかった。目は虚ろで、よく見れば手が小さく震えている。

 

「ありゃ離脱症状が出ているな……」

 

 岡井の様子を見て、中里が断定する。

 

「離脱症状、ですか?」

「依存性のある薬物を定期的に接種していた人間が、それを断つことで発症する体の不調のことだ。カフェインやアルコール、ニコチンでも起きうる症状だ。彼女の場合、少なくとも年単位で薬を飲んでいたことで、体が薬のある状態に適応した。だがそれが断たれた今、こうして症状が出ているというわけだ」

 

 神崎の疑問に、中里が解説する。

 

「自衛隊の場合、身体に異常をきたしていない人間を採用したい。だから、こういう人間は本来なら面接の段階で弾かれる。しかしこの情勢下ではそれもうまく機能しなかったというわけだ」

 

 中里の説明中に、梅香隊はシートに座ってシミュレーター──という名のゲーム──を開始する。

 加藤と浜口はいつものような調子で、淡々と訓練をこなしていく。その一方で、岡井は離陸直後から危なっかしい飛行を行っていた。

 

「岡井さんの操縦、明らかにフラフラですね」

「離脱症状にはめまいや頭痛が伴うことが多い。今の岡井をゼロ戦に載せたら、間違いなく勝手に墜落するだろう」

 

 その直後、岡井は傾いた機体を修正することなく操縦桿を不用意に倒したことで、機体のバランスを崩してフラットスピンに陥った。

 

「あわわわ……」

 

 岡井は何とかして機体を立て直すべく、操縦桿やスロットルレバーをいじるが、その努力もむなしく地面に激突した。

 

「岡井少尉、墜落判定」

 

 訓練教官が手元の資料に何かを書き込む。画面上にはゲームオーバーが表示されていた。

 

「訓練内容を変更して正解だったな」

 

 中里は一つ溜息を入れ、岡井の所に行く。

 岡井はシートから降りて、水を飲んでいた。

 

「岡井特専少尉」

 

 中里は岡井に声をかける。

 

「はい、中尉さん」

「これは上官としての命令だ。今日は宿舎に戻って休め。そして今日から3日は、飯とトイレと風呂以外はベッドの上で過ごすこと」

「……はい」

 

 岡井も思う所はあるようで、中里の指示に素直に従う。

 

「いつもの岡井さんとは打って変わって、ずいぶんとおとなしい性格になってますね」

「そりゃカフェイン中毒やアルコール中毒になってる人間の禁断症状に似たようなもんだからな。違うのは、向精神薬を使っているかどうかだけだ」

 

 岡井が部屋から出ていくのを見送る神崎と中里。

 そんな時、中里の支給スマホに電話がかかってくる。

 

「はい、中里です。あぁ戸田さん、お疲れ様です。……あぁ、そうですか。それはよかった。ではすぐに百里に来るよう、手配をお願いします。はい、では失礼します」

 

 そして電話を切る。

 

「どうやら岡井のことを診てくれる精神科医が見つかったようだ。あとは岡井の既往歴を調べるだけだが……。これは本人の了承を得るほかない」

「強制は出来ませんからね……」

「それは私たちに任せてもらえませんか?」

 

 そこに訓練の休憩に入った加藤と浜口がいた。

 

「既往歴というのは、個人情報保護法に抵触する可能性があるが、大丈夫か?」

「いつまでもナーちゃん先輩の辛い姿を見たくないの!」

「私たちはチームです。一緒に乗り越えられるなら、協力は惜しみません」

「そうか……」

 

 そういって中里は姿勢を正して二人に命令する。

 

「加藤特専少尉、浜口特専少尉に命令する。岡井特専少尉に既往歴を自分に渡してもらうように説得せよ。その後の事務処理は自分が行う」

「はいっ!」

「はーい!」

 

 あとは彼女らに望みを託すだけである。

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