7月8日。岡井が服薬を再開してから5日が経過した。
「お騒がせしました~」
庶務室でいつもの岡井が、中里と神崎に頭を下げる。
「おう、元気になってよかった」
「本当、よかったです」
岡井の後ろで、加藤と浜口も安堵している様子だった。
「それじゃ、訓練の方を再開していくぞ」
まずは感覚を取り戻すために、シミュレーターでの訓練を行っていく。
みっちり4時間の
「えー、正直に言うと、悪いニュースが1個入ってきている。それは、豪州近くにいた人工島の『ラランド』が北上を始めたことだ。まっすぐ進めば、1週間以内に硫黄島に最接近するだろう」
「一大事だー!」
浜口が手を頭にやって叫ぶ。
「そうだな、一大事だ。しかし悪い話ばかりでもない。先日米軍が示してくれたように、この人工島は破壊することが出来る」
「あの映像はいろいろと衝撃でしたね……」
思い出されるのは、米軍という圧倒的な火力と物量を有した軍隊による、一方的な蹂躙の映像だろう。
「だが我が国には、米国のような戦略爆撃機は保有していないし、島を占領する大規模な空挺隊と海兵隊もない。あるのは爆装出来る戦闘機に、第一空挺団と水陸機動団だ。規模としては米軍の1パーセントくらいだろう」
「それで人工島を破壊出来るんでしょうか?」
加藤が質問する。
「防対本の見解では不可能だとされている。そもそも航空自衛隊が保有する全ての戦闘機に可能な限りの爆弾を搭載して出撃したところで、2,3機のB-52にしか相当しない。空自の力では不可能だ」
「そんな~」
岡井が悲しそうに言う。
「ですが、それは空自のみに限った話ですよね?」
神崎が鋭い指摘をする。
「神崎、どういうことか言ってみろ」
「つまり空自だけでなく、陸自、海自が保有するミサイルなどで全力攻撃を行えば、人工島の破壊は可能ではないか、ということです」
「ふむ、その通りだ。先ほどの防対本の見解は、空自のみの話である。三自衛隊による統合された攻撃を行えば、人工島は破壊出来る可能性が高い、と防対本は睨んでいる」
「しかし、そんなことをすれば国防そのものが崩壊する可能性がありませんか?」
今度は加藤からの指摘である。
「正解だ。そもそもそんなことをするのは国家が滅亡する時くらいだろう。ということで、結局のところ少数の戦力でなんとかしないといけない」
「結局どうするんですか?」
「そこで防対本からこのような作戦が提示された」
中里はタブレットから大型液晶テレビを通して作戦概要を映し出す。
「まずは全国に散らばっている徴用した民間人を百里に集める。それぞれのパイロットは自分の機体を持っているからな。それらと空自の戦闘機を一斉に人工島のルーマンに差し向ける。ルーマンに接近して、対空砲などを機銃で破壊。無力化させる。そこにに別動隊の第一空挺団と水陸機動団が上陸し、島を占拠するというものだ」
「だいぶ無理がありませんか?」
神崎がバッサリと切り捨てる。
「無茶は承知だろう。今聞いてもらった通り、この作戦で我が国は敵の領土を手に入れることを目的としている。そうすれば、敵の無力化と情報入手で一石二鳥というわけだ。米国本土からの協力が得られない以上、我が国は独自の戦略でこの危機を乗り切るほかない」
「そんなの出来るわけないよー!」
これまた浜口が頭をかきむしりながら絶叫する。
「出来る出来ないではなく、やるしかないんだ。防対本も防衛省も、果てには総理自身もそのように考えているかもしれない」
その言葉に、部屋の中がシンと静まり返る。
「正直、民間人である君たち梅香隊を、困難が極まっているこの作戦に参加させたくはない。それでも、この作戦を遂行しなければ国家存亡の危機と言ってもよいくらい、切羽詰まった状況でもある。こんな無茶な作戦に参加してくれるか?」
中里が梅香隊の3人に尋ねる。
「正直怖いですが、これが父が果たそうとした仕事なら、ちゃんと向き合う必要があると思います」
「アタシは怖いものはないけど、悲しいってことは分かる。だから悲しいことを減らせる努力をしたい!」
「うちも~、一度は捨てかけた命だから~、ちゃんと恩返しくらいしたいな~」
加藤、浜口、岡井が、それぞれの思いを語る。
「……分かった」
中里はタブレットを置いて、背筋を伸ばす。
「加藤特専少尉」
「はいっ」
「浜口特専少尉」
「はい!」
「岡井特専少尉」
「は~い」
3人は順番に立ち上がる。
「国籍不明勢力が保有する移動式人工島の確保を目的とした三自衛隊統合作戦、通称
「「「了解!」」」
そういって3人は挙手での敬礼をする。
室内で帽子を脱いでいるため、本当は会釈による答礼が正解なのだが、民間人である3人はそんなことは知らない。もしかしたら座学で教えられたかもしれないが、とにかく中里はとやかく言うことはなかった。