影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第36話 説明を受ける

 7月10日。日本全国で訓練を積んでいた民間出身の戦闘機乗りが、百里基地と入間基地に続々と集結していた。

 百里基地の方には、主に東日本と北日本にある基地で訓練していた民間の戦闘機が集結する。

 

「全国から来ているとはいえ、民間の戦闘機は梅香隊含めて10機ですか……」

 

 第7格納庫からエプロンに駐機する民間戦闘機の様子を見て、神崎はそのように感想を述べる。

 

「致し方ないだろう。そもそも日本には改造できる民間航空機が少ないんだ。これが最大戦力と言っても過言ではない」

 

 中里は視線をタブレットから外さずに、神崎の言葉に淡々と答える。

 翌日に決行される田子作戦が本当に人工島に対して有効なのか疑問に思う神崎。しかし、自分一人の脳で考えるよりも、高学歴の官僚が複数人で考え抜いた作戦のほうが秀でていることは明らかなので、神崎は考えるのをやめた。

 その代わりに神崎は、民間戦闘機が集合している様子をデジカメで撮影する。

 

「撮影するのはいいが、パイロットの個人情報が判明するような物は写すなよ?」

「分かってます」

 

 そんな話をしていると、遠くの方からジェット機の音が聞こえてくる。三沢基地からやってきた第301飛行隊のF-35戦闘機だ。

 通常通りに滑走路へと降りてくるF-35戦闘機群。そのまま管制塔近くのエプロンに駐機する。

 

「これで百里基地から出発する全戦力が集結したか……」

 

 そう呟きながら、神崎はF-35戦闘機群も撮影する。

 その日の夜。大会議室に民間パイロットたちと第301飛行隊のパイロットたちが集められた。

 

「うぅー、なんか緊張するー……」

 

 珍しく浜口の元気がない。どうやら本職の自衛官に囲まれていることでプレッシャーを感じているのだろう。

 

「大丈夫ですか? 浜口先輩」

 

 そんな浜口を加藤は心配そうに見る。

 

「うふふ~。大丈夫だよ、アンリちゃ~ん。私たちは最近まで学生だったんだよ? 自衛隊の人と比べたら~、赤ちゃんみたいなものよ~。自衛隊の人たちはきっと冷たい目で見てるわ~」

 

 ゆるふわな発言の中に、毒があるような発言をする岡井。先日の出来事以来、自信満々に自信をなくすような発言をするようになった。それに慣れていない加藤と浜口は、苦笑いで返事するしかなかった。

 神崎と中里は、そんな彼女たちの横で時間が来るまでかしこまった状態でいる。

 

(この緊張感、航空学生になる時の面接以来だな……)

 

 しかし、今はその時とは違う。実戦前のブリーフィングにいる。それが神崎の心臓を高鳴らせていた。

 

「足立司令、入られます!」

 

 部屋に足立空将補が入ってくる。その瞬間、自衛官たちは一斉に立ち上がる。それに遅れて民間パイロットたちが立ち上がった。

 

「敬礼ッ!」

 

 その場にいる全員が会釈する。

 

「直れッ! 着席ッ!」

 

 その言葉に従い、全員が座る。

 

「あー、楽にして聞いてくれ。すでに君たちは田子作戦のことは聞いているだろう。本来ならここにいる全員で少しばかり訓練をしてから作戦を決行したかったのだが、制服組がせかしてくるのでな。民間人もいる中、無茶を言ってくるものだ。しかし、現在は国家存亡の危機だ。それも彼らは分かっているのだろう。そういうわけで、我々第2飛行作戦群の作戦目標を伝える」

 

 そういって後ろにあったモニターに作戦概要図が表示される。指示棒を持って、足立空将補が説明を始めた。

 

「第2飛行作戦群は、目標である人工島『ルーマン』の対空兵器の破壊を主任務とする。防対本専従航空広報室の航空偵察によって、この島には先の大戦で使われた対空砲が装備されていると考えられる。この程度であれば、民間戦闘機の機銃でも十分破壊可能だ。そのため、まずは空自戦闘機による空爆、そののちに民間戦闘機による機銃掃射を敢行する。対空砲が片付けば、我々の任務は終了だ。そこからは第1飛行作戦群と海上作戦群の任務になる。彼らの任務は第1空挺団と水陸機動団を『ルーマン』に上陸させること。それが完了次第、状況は終了となる。田子作戦の概要は以上だ。何か質問がある者は?」

 

 足立空将補が全員を見渡す。すると、一人の自衛官が手を上げる。

 

「発言を許可する」

「今回の作戦、民間人の入る余地はないと思われますが?」

「うむ。もっともな質問だな。もちろん空自戦闘機だけで敵対空砲を破壊出来るのが望ましい。しかしそうとも限らないのがこの田子作戦だ。空自(我が方)の残弾がなくなったときに、新しい対空砲を発見したら? もしかしたら敵航空機が出撃してくるかもしれない。民間人(彼ら)はそういった時のための、いわゆるバックアップや予備みたいなものだ」

「しかし、つい数ヶ月前まで民間人だったんですよ? あまりにも荷が重すぎではないでしょうか?」

「気持ちは分かる。しかし、圧倒的な物量を寄越してくる敵に対して、どのような対抗手段を講じることが出来るのか。行きつく先は、国民を総動員しての戦時体制というわけだ」

「それは先の大戦の話ではありませんかっ。今は怜和ですよっ?」

 

 自衛官の語尾が強くなる。

 

「国民を守るための我々が全滅してしまっては、誰が国民を守るのか。防対本はそれを検討したが、結果として民間人の徴用という形になった。自分の身は自分で守る、ということだ。何も矛盾はしていないだろう」

「ですが……!」

「私だって民間人を戦闘で殉職させたくはない。しかし、これは既存の国家の枠組みを超えた、未知との戦争なのだ。そのことは十分理解してほしい」

 

 足立空将補からそのように言われ、自衛官は悔しそうに席に座った。

 

「他に質問はないか? ないなら事前のブリーフィングを終了する。田子作戦の決行は明朝。今日はゆっくり寝るように、以上」

「起立ッ! 敬礼ッ!」

 

 全員が立ち上がり、足立空将補に会釈する。

 田子作戦開始のカウントダウンが始まる。

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