影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第4話 本部

 4月23日の夜。首相官邸では、官邸連絡室から官邸及び防衛省共同対策室の改組を経て、国籍不明勢力防衛対策本部が設置された。官邸と防衛省が主体となり、今後の事態に備える形だ。

 首相官邸の会議室の一室を丸ごと対策本部に割り当て、各省庁から人を参集させた状態だ。

 

「それでは、現状の確認と今後の対策について、簡単にミーティングを行いたいと思います」

 

 内閣府の参事官である瀬田課長が、会議の始まりを知らせる。会議室の隅に即席の打ち合わせスペースを作っての会議だ。参加者は内閣府、防衛省と統合幕僚監部、外務省の事務官や参事である。

 

「まずは被害についてです。本日午前7時48分頃、国籍不明勢力の第一波が日本国領空を侵犯し、千葉県沿岸に空爆と思われる攻撃、及び民間航空機に対する射撃を行いました。その後、第二波による攻撃を航空自衛隊の戦闘機が食い止め、以降は国籍不明勢力の攻撃は行われていません」

 

 瀬田課長は淡々と事実を述べる。

 

「現在は海上自衛隊が、小笠原諸島を中心に哨戒任務に当たっていると認識していますが、大丈夫ですか? 防衛省」

「はい、問題ありません」

 

 防衛省参事官の北野係長が答える。

 

「被害の報告ですが、大日本航空の旅客機2機と中国国営の航空機1機が射撃の被害に遭い、うち中国国営の航空機が銚子沖に墜落しました。現在、海上保安庁を中心に救助活動を行っています」

「正直、民間人に死傷者が出てしまったことは、痛恨の極みです。直前まで目標を設定せずに初動対応を行っていなかった我々の責任です」

 

 そう悔しそうに言うのは、統合幕僚監部に所属する原口中佐だ。

 

「まぁ、確かにその通りですね。今回の件で、中国が手引きしていることではないことが分かりましたし、逆に中国の反感を買う状況になってしまいましたからね」

 

 外務省の江原課長補佐が、悩ましそうに意見を述べる。

 

「まぁ、起こってしまったことをいつまでも悔やむのはよくありません。それよりも今後の話をしていかないといけません」

 

 瀬田課長が話を戻す。

 

「では現状の整理です。我が国に攻撃をしてきた国籍不明勢力と同様の事件が、環太平洋地域で同時多発的に発生しています。江原さん、説明を願います」

「はい。現在国籍不明勢力から攻撃を受けているのは、米国、チリ、メキシコ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、そして我が国になります。情報を統合すると、どの国家でも機体が黒い航空機に遭遇しているとのことなので、これが国籍不明勢力の特徴であると踏んでいます。実際の写真がこれです」

 

 そういってテーブルに紙を出す。そこにはいくつかの画像が並んでおり、どの画像にも黒で塗られたレシプロ機が写っている。

 

「黒い機体もそうですが、国籍マークが描かれる部分には一直線の白色が存在しています。これも特徴の一つですね」

 

 江原課長補佐が補足する。

 

「これを一目見た時から思っていましたが、どれも第二次世界大戦期の航空機に酷似していますね」

 

 原口中佐が口を挟む。

 

「問題なのは、ここまで世界中で大騒ぎさせてしまった国籍不明勢力が、未だ誰の仕業なのかがはっきりとしていない点ですね」

 

 瀬田課長が問題点を指摘するように言う。

 

「そのあたりを含めて、防衛省が音頭を取って対処していく所存です」

 

 北野係長が答える。

 

「さて、現状を把握したので、今後の方針を軽く決めていきましょう。まずは、国籍不明勢力に対して武力攻撃をするかどうかですが……」

「それはもう決まったようなものですよ。すでに米国は徹底抗戦する構えです。防衛省さんでもその情報は聞いているでしょう?」

「えぇ」

「外務省の立場としては、今後とも米国と歩調を合わせて国籍不明勢力と徹底抗戦していただきたい所存です」

「しかし、国民がそれを許すかどうかが問題です」

 

 江原課長補佐の力説に、瀬田課長が口を挟む。

 

「この国は長らく反戦を訴えてきました。最近は憲法9条の内容も変わろうとしていますが、多くの国民は戦争を望んではいないでしょう」

「それはその通りです。しかし、明確に攻撃を受けたのも事実。先の大戦から1世紀が経とうとしている中で、いつまでも反戦を訴え続けるのは不可能だと思いますよ」

「えぇ、分かっています。そのことは総理や国務大臣の皆さんに丸投げして、我々はこれに対処するべきなのですから」

 

 日本が歩んできた歴史を一旦切り離し、今は目の前の脅威に立ち向かう。それが防衛対策本部の仕事だ。

 

「防衛対策本部の方針は、積極的防衛行動から反攻作戦という、防衛力の徹底にいたします」

 

 防衛対策本部の方針が決まった。

 あとはこの方針に従って、防衛作戦を立案していくことだ。

 

「ところで国籍不明勢力って名前、なんか長いですし言いにくいですよね。名前でもつけますか?」

 

 江原課長補佐がぼやく。

 

「でしたら……。影、というのはどうでしょう? まるで世界に対する影のような存在と、見た目がそのように見えるからですが」

「いいんじゃないですか? この勢力のコードネームは『影』ってことにしましょう」

 

 会議室の隅で、敵性勢力の名前が決まった。

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