影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第48話 新天地へ移動

 8月9日。10時前だが梅香隊は庶務室に集合していた。

 

「よし、集まったな? 荷造りは問題ないか?」

「大丈夫です」

「バッチリー!」

「まとめるの大変だったよね〜」

 

 3人の反応を見るに、問題ないようだ。

 

「それじゃあ荷物は、そこの1士に預けてくれ。彼が乗るU-4多用途支援機に乗せて運搬する」

 

 いつも事務員として庶務室に生息している1士に、荷物が預けられる。

 

「さて、そろそろブリーフィングでもしよう」

 

 そういって紙1枚を全員に渡す。

 

「今回の目標は山部島。移動が目的のフライトだ。現在山部島は伊豆大島の近くに浮かんでいる。百里基地を飛び立ったあとは、海岸線に沿って南下する。直線の移動では市街地の上を飛ぶことになるからな。そして、移動のついでに習熟度試験も行う。梅香隊の3人で、交代で先導するんだ。これで、地図の読み方や移動の計算が出来るかテストする」

「できるかなー……」

「心配するな浜口。君たちはなんだかんだ言って今までやってこれたじゃないか。落ち着いて、これまでの訓練を思い出せば問題ない」

「はーい……」

 

 少々不服そうな表情をするものの、とりあえず納得する浜口であった。

 

「ほかに質問はあるか?」

「大丈夫かな~」

「私も大丈夫です」

「そうか。では出発の準備をしよう。君たちが最初に飛んで、最後に到着する予定だ」

 

 こうして梅香隊は出発のために、第7格納庫のエプロンへと出る。

 そこでは、整備長と整備士がフライト前の調整を行っていた。

 

「おう、おやっさん。機体の調子はどうだ?」

「万全に仕上げてあるわい」

「おやっさんたちも、荷物はまとめたか?」

「一応な。貴様が人工島の基地に移動するって聞いた時は、やっとこの仕事から解放されると思ったのに……。どこまでも貧乏神と疫病神が憑いて回ってくるとは……」

 

 そういって肩を落とす整備長のおやっさん。周りの整備士が慰めに回る。

 

「さっさと飛ぶぞ! エンジン回してくれ!」

 

 こうしてエンジンを始動し、滑走路へと移動する。その後、管制塔から離陸の許可を貰い、梅香隊が先行して離陸する。

 

『ただの遊覧飛行なら、緊張もしないだろうがな。今は戦時下だ、そうは言ってられない』

 

 中里がそんなことを言いながら、滑走路の端に移動するT-2。そして離陸の許可が出る。

 T-2はゆっくり加速し、そのまま離陸していった。

 10分ほど飛べば、先行している梅香隊に追いつく。

 

『よう、梅香隊の諸君。ちゃんと計画通りの飛行を行えているか?』

『計画通りですけど、今時この辺りを飛行している民間航空機なんていないですよ』

『正論だが、それは今が戦時だからだ。平時になったときに困る可能性があるぞ』

『確かにー!』

『その前に死んじゃってるかもしれないけどね~』

 

 相変わらず岡井の自虐ネタは笑えないレベルになってきている。

 とにかく、梅香隊とT-2は現在鹿島臨海工場地帯の上空を飛行していた。このまま南下していき、銚子市の上空を飛び越える。

 この辺りで、先導して案内していた加藤から浜口に代わる。

 

『えーと。ちょうど今、銚子市の上空を飛び越えて……。海岸線が西南西方向に伸びてるから、ひとまず南西方向に飛ぶ!』

 

 浜口の大雑把な性格が出て、しばらくは九十九里浜の沖合を飛ぶことになった。それでも十数分も飛べば、いすみ市の上空に到着するだろう。

 ここまで来ると、後から出発したU-4と第3飛行隊が、梅香隊の上を悠々と追い抜いていく。

 その辺りで浜口から岡井にバトンタッチだ。

 

『ここからは~、海岸線に沿って南下していって~。房総半島の最南端を越えれば、すぐ目の前に山部島が見えるはず~』

 

 岡井の先導するがままに、梅香隊は南西方向に進み続ける。

 やがて房総半島の最南端を通り過ぎ、そして伊豆大島とその手前にある黒い島が見えてくる。

 

『山部島が見えてきたよ~』

『ここまでは上出来だ。あとは山部島の管制塔から着陸の許可を貰うだけだな』

「もうその辺の整備も終わってるんですか?」

『馬鹿かお前。すでに駐留できるような環境になってるから第3飛行隊が向かったんだろ。もうちょっと思考してくれ』

「う、うす……」

 

 そのような罵倒を受けながらも、神崎は梅香隊が飛行している様子を撮影する。

 10分後、山部島管制塔の管制下に入り、着陸許可を貰う。

 加藤、浜口、岡井の順番に着陸していき、最後にT-2が着陸した。

 神崎は滑走路から島の様子を見る。地上の建物が何棟が建っており、電気も通っているように見受けられる。

 滑走路横のエプロンに駐機し、全員機体から降りる。

 

「んーっ。なかなかの長時間操縦で疲れたーっ」

 

 加藤が背伸びしながら格納庫の中に入る。

 

「とはいっても、1時間そこらの飛行だ。この程度でへばっていたら大変だぞ?」

 

 中里がそのように言う。

 

「さて、集まったな?」

 

 改めて中里が3人のことをぐるりと見る。

 

「現在の山部島の改造工事の進捗具合は、おおよそ9割と聞いている。ほぼ終わりに近いくらいだが、実際に設備を使ったり住んでみないと分からないことも多い。何か不便なことを感じたら、すぐに俺に言ってくれ。上に掛け合って改善できないか聞いてみる」

「分かりました」

「はーい!」

「うふふ~」

 

 そうして3人は、各々運んでもらった荷物を受け取って、新築のプレハブ宿舎に移動するのだった。

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