山部島での生活が始まった。宿舎に案内された神崎は、すぐにあるものを確認する。
「トイレは……、水洗式。手を洗う水道も通っている……」
小便器と、洋式便器が設置されているのを確認した。試しに水を流してみると、確かにちゃんと流れる。
「こんな環境でも、ちゃんと水は使えるんだなぁ……」
「余計なことしてるんじゃねぇぞ」
感心している神崎の後ろで、中里が般若の面のような顔をして立っていた。
「うわぁ! ビ、ビビらせないでくださいよ……」
「お前が一人で宿舎の設備を勝手に見て回ってるのが悪いんだろ」
そういって腕を組む中里。
「興味のあるお前のために、俺が特別に解説してやろう。この島での注意事項とかあるしな」
「はあ。それはありがたいですけど……」
そういう話は聞いておいて損はない。神崎は耳を傾ける。
「水道は今のところ2系統あり、飲用に適した上水道とそうでない雑用水道に分けられる。上水道はそのままの意味で、水として飲める水道だ。一方で雑用水道は、トイレや風呂、その他飲用に適さない場所に使われる」
「なんでわざわざそんな面倒な分け方になっているんですか?」
「真水が貴重だからだ。この島には真水が湧いているような場所はない。しかも周りは海水だらけ。そんな場所に人間が住むなら、真水を生成する装置が必要だ。この海水淡水化装置は、大型船舶で使われている装置をそのまま持ってきて設置した。だがそれでも限界はある。そこで、一般的に飲用に適さない場所に雑用水道を使い、手が触れる場所にある蛇口やシャワーなどに上水道を使用している」
「へぇ……。まるで島全体が大型船舶の様相を呈しているようですね」
「むしろそっちが本質だ。お前も前に『超巨大不沈空母』なんて言っていただろうが」
中里と神崎は、生活スペースとなる大部屋へと移動する。
「この建物の電気は、外にある可搬型のディーゼル発電機で発電している。プレハブ小屋1棟に1個備わっている状態だ。その他に山部島の土壌で発電する電気も別系統で使用している」
「土で発電した電気を使っているんですか……!?」
「土壌発電で作った電気は、主に淡水生成用と港湾設備用に振り分けられている。土壌は光が当たれば発電するから、その辺りは便利だな」
大部屋に入り、中里のベッドスペースの前に立つ。
「電気に関してはそうなっているから、割と不自由しない。そういうわけだから、電源も自由に取れるし、通信環境も整っている。電話回線もWi-fiも繋がっているから、ネット環境は悪くはないだろう」
「それはありがたいですね」
「ただ、艦のような環境になるから、通信速度は少し遅めと聞いたな」
「それでも、スマホが使えるようになるだけありがたいですよ」
「まぁな。話によれば、海上での無線封止はやるだけ無駄って言われているからな」
そういってスマホをチェックする中里。画面を見て、何かを思い出したようだ。
「しまった、もうこんな時間か……! 神崎、格納庫の前まで走るぞ!」
「えぇっ、急になんなんですか!」
神崎はよく分からないまま、中里の後ろを追いかける。
そして滑走路脇のエプロンへとやってきた。ちょうどそこに、U-4が駐機のためにエプロンへと入ってくる。
「さっきの連絡機……? 何か荷物か人でも輸送してきたんですか?」
「そうだ。今日からこの航空自衛隊山部島基地の司令となるお方だ」
U-4が駐機し、客室ドアが開く。そのままエアステアが展開され、中から人が出てくる。
降りてきたのは、意外な人物だった。
「あ、足立司令!?」
百里基地司令の足立空将補である。
「やぁ、中里中尉。お出迎え感謝するよ」
「いえ、これも大事なことですから。着任おめでとうございます」
「そういうところ、中里君は得意だよねぇ」
足立空将補はそんなことを言いながら、中里と共に管制塔横にある建物に入った。その建物には、司令室がある。
「中尉、これはどういうことですか?」
「神崎、お前この状況を見て分からないのか? 足立司令は、昨日の人事発令で百里基地司令から山部島基地の司令に着任されたんだよ」
「そ、そうなんですか……」
「まぁまぁ、中里君。あまり人を責めると、いつしか人格が崩壊する。本当ならやってほしくはないね」
そういって足立空将補は中里のことをなだめる。
「私ももう歳だから、こういう仕事は回ってこないと思ったんだがね。定年前に大きな仕事を任されたものだ」
「足立司令は今でも私の憧れです」
「そういって貰えてうれしいよ、中里君」
そんな話をしつつ、足立空将補は大層な椅子に座る。
「さて、明日辺りから訓練を行っていこうと思う。信濃計画第二段階が正式に発令されるまで少々時間が空くからね」
「まだ日米での共同作戦の立案中でもあるのでしょう。私としても、訓練の時間は欲しいところでした」
「それじゃあ、明日からもよろしく頼むよ」
「はっ」
そういって中里と神崎は司令室を出る。
「なんか、今までと変わらないメンバーですね」
「そうだな。ま、その分やりやすいだろうよ」
「それもそうですね」
「あ、そうだ。神崎、さっき梅香隊の飛行する様子の写真あるだろ。あれの投稿しておけよ」
「はい」
こうして山部島での生活が始まった。