影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第5話 辞令を受け取る

 4月25日、航空自衛隊百里基地。

 ここに一人の男性がやってきた。自衛官にしてはそこそこ伸びた髪。室内勤務特有の白い肌。そして典型的な塩顔。そんな男性だ。

 

「急な招集……。絶対悪いことが起きるな……」

 

 神崎空曹長。先日まで水戸の茨城地本にて広報官の仕事をしていた。だが、ここにきて突然の辞令が下り、こうして百里基地に赴いたというわけである。

 最小限の荷物だけを持ち、警備している自衛官に身分証と人事発令書を見せて、敷地をまたぐ。

 その先には、新任の准空尉が待っていた。

 

「お待ちしていました、神崎空曹長」

「お出迎え感謝します」

 

 ピシッと敬礼をする二人。

 

「基地司令がお待ちしていますので、どうぞこちらに」

 

 そういって業務車に乗せられ、基地司令のいる建物へと走る。

 とはいっても、ものの数分で到着する。荷物は業務車に置いて、基地司令の待つ司令官室へと向かう。

 扉の前に到着すると、准空尉がドアをノックする。

 

「足立司令、神崎空曹長をお連れしました」

「入っていいぞ」

「失礼します」

 

 准空尉が扉を開けて中に入り、続いて神崎が入る。神崎が入ったことを確認した准空尉は一礼して部屋を出た。

 白髪が目立ち始めた初老の男性、足立空将補は、タブレットを持ちながら神崎のことを見る。

 

「本日付けで茨城地本水戸募集案内所から百里基地に配属になりました、神崎裕也です」

 

 そういって神崎は再び敬礼する。

 

「急な人事発令にも関わらず、よく来てくれた」

 

 足立空将補はタブレットを置き、少し体を前のめりにさせる。

 

「早速本題に入ろう。すでに聞いていることだと思うが、君には先日我が国を強襲してきた国籍不明勢力に関する広報活動に従事してもらう。かなり危険な任務になると予想されているが、まぁ、なんとか頑張ってほしい」

「それは承知しています」

「そうか。先の強襲で、首相官邸の防衛対策本部も対応に追われているようでな。総理が防衛出動を決断したことも相まって、非常事態宣言を発令するように総理に助言したらしく、その通りになった。つまり、今は戦時下になってしまったということだ。いやはや、なんとも厳しい時代になったものだよ」

 

 そういって足立空将補は苦笑いする。

 しかし神崎は、少し難しい顔をしていた。自分の奥底にあるわだかまりを解消したいようだ。

 

「足立司令、発言の許可を求めます」

「お、おぉう、構わないが……」

「質問をさせていただきます。何故自分がこの任務に就くように命令されたのですか?」

「難しい質問だね」

 

 そういって足立空将補は本当に難しい顔をする。

 

「確かに、ここには地本の分駐所がある。ならばここの自衛官を使えばいいじゃないか、という意見はもっともだ。一応ここに推薦理由が書いてあるのだが、知りたいかい?」

「はい」

「では、掻い摘んで話をしよう」

 

 そういって足立空将補はタブレットに目を落とす。

 

「君はかつてパイロットになりたかったと書かれている。相違はないね?」

「はい」

「しかし、視力が良くないことによりパイロット候補から外された……」

「事実です」

「候補から外された時、君はなんて言ったか覚えているかい?」

「……『空を飛べないのなら、自分は生きている価値などありません』、でした」

「パイロットになりたがる候補生なら、一度は口にする常套句だ。その言葉通り、空を飛べるなら早期警戒機に乗ろうと努力したそうだが、結果は基地警備隊に配属され、後に地本へ。そして今に至る……」

 

 足立空将補はタブレットから視線を上げ、神崎のことを見る。

 

「今回の任務は、神崎君にとって渡りに舟じゃないのかね? 広報任務の一つには、前線近くまで連絡機に乗っての取材や撮影が含まれている。本当なら喜ぶところだろう。今の君は、どうしても空を飛びたくないと言ってるような気がするが……」

「……広報官として適任ではないと思います」

「初めてのことなら、誰だってそうさ。だが、今の君に拒否権はない。理由は分かるね?」

「緊急事態宣言のことでしょうか」

「そう。この緊急事態宣言に伴い、全ての自衛官が宣言中の退職を禁ぜられた。自衛隊の総力を以て、この事態を解決するためだ。神崎君も例外ではない」

「自衛隊に入隊したならば、服務の宣誓をさせられます。それを反故にするのは自衛官としての恥です」

「模範的な自衛官でなによりだ。とにもかくにも、君はこの任務を遂行せねばならない。我が国を守る一自衛官として」

 

 話が一区切りしたところで、扉がノックされる。先ほどの准空尉が入ってきた。

 

「司令。緊急の情報が入ってきました」

「聞こう」

「先ほど、国連安保理の緊急会合を開き、全ての国連加盟国が一致団結し、国籍不明勢力と戦うべきという意見で一致し、採択されました」

「良いニュースではないか」

「ですがその採決を取る直前、米国がポイントネモに出現した謎のドームに対して、大陸間弾道ミサイルによる核攻撃を実施しました」

「核攻撃……!」

 

 足立空将補が思わず立ち上がる。

 それを気にすることなく、准空尉は言葉を続けた。

 

「ペンタゴンからの公式報道では、『核は起動するも爆発せず』と発表されています」

「……どういうことだね?」

「市ヶ谷の見解では、核弾頭は確実に起動したものの爆発の影響は確認されなかった、とのことです」

「そうか……」

 

 足立空将補は苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「とにかく、今後の動向を注視しよう。では神崎君。今日はこのあたりにして、宿舎を案内してもらいなさい」

「はっ」

 

 神崎は司令官室を退室し、そのまま業務車で宿舎まで移動するのだった。

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