影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第51話 慣らし訓練

 8月11日。山部島全体の揺動も収まり、梅香隊の3人と神崎はすっきりとしていた。

 

「昨日はよく眠れたー……」

「さわやかな気分です」

「わふわふ~」

「いやぁ、人間は陸に生きる生き物ですわ……」

 

 のびのびしている梅香隊の隣で、神崎が大きく深呼吸する。

 

「なんだ、神崎。貴様も訓練に参加したいのか?」

「あっいやっ……、間に合ってます……」

 

 中里からの圧力に、神崎は思わず萎縮する。

 

「さて、今日は肩慣らしの訓練をするぞ。通常の飛行場と違ってここは海の上だからな、勝手が違う可能性もある。その辺りも含めて、慎重に行っていこう」

「はい」

「では、この場で簡単なブリーフィングを行う。今日の訓練は、肩慣らしとして海上自衛隊の館山航空基地までの往復飛行。そののち模擬空中格闘戦だ。機銃及び弾倉から実弾を抜いて、訓練用のカメラの電源を入れるのを忘れるな。現在戦時下ではあるが、民間人に被害が出るようなことがあれば、戦後にどのような報復を受けるか分からんからな」

 

 そうしてブリーフィングは終了し、訓練の準備が行われる。

 神崎はその様子を、なんとなく習慣で撮影していく。

 準備が終わると、梅香隊はエンジンを始動させて滑走路へと出ていった。そのまま梅香隊は離陸していき、進路を北東方向へと変えて飛んで行く。

 10分ほどすると、中里のスマホに電話がかかってくる。

 

「はい、中里です。お疲れ様です、佐々木さん。えぇ、はい、そうですか。まぁ、このくらいの時間なら及第点でしょうね。後はこちらに帰ってくるだけですな。はい、はい、ではまた。失礼します」

 

 そういって電話を切る。その話から察するに、梅香隊は無事に館山航空基地まで飛行できたのだろう。そしてそのまま戻ってくるらしい。

 そこからさらに10分ほど待つと、レシプロエンジン特有の音が響いてくる。梅香隊は無事に戻ってきた。

 すると、いつの間にかトランシーバーを手にしており、そのまま話しかける。

 

「あー、こちら中里。そのまま模擬空中格闘戦を開始せよ」

 

 その直後、3機はその場からブレイクし、三つ巴の格闘戦が始まった。

 梅香隊の機体にはガンカメラと、自機と相手機との位置と運動ベクトルを計算する演算機、それらを元に撃墜判定を行うネットワークシステムが後付けで搭載できるようになっている。この訓練用撃墜判定機で模擬空中格闘戦を行うというものである。

 まず優位に立ったのが、旋回性能ピカイチのゼロ戦に乗っている岡井であった。エンジン出力の調整と旋回角度の修正を駆使して、2機の射線上に乗らないようにしている。その一方で、浜口はほかの2機より強力なエンジン出力でガン逃げを図っていた。加藤はその中間のような飛び方をしており、おおよそ岡井の追撃を躱すように飛行する。

 結局のところ、加藤が浜口を撃墜したところで、岡井が加藤を撃墜し、終了となった。

 模擬戦闘が終了し、梅香隊は滑走路へと降りてくる。そして神崎と中里が待つエプロンへと駐機した。

 

「お疲れさん。3人ともいい感じの戦闘だったぞ」

「ありがとうございます」

「やったー!」

「うふふ~」

「さて、午前の訓練はこの辺りにしておこう。午後は事務室に集合するように。一旦解散」

 

 中里が解散の指示を出し、梅香隊の3人は各々の戦闘機の様子を確認しに戻る。そのような姿を、神崎は写真に収めるのであった。

 午後になり、事務室に集まる梅香隊の3人。

 

「集まったな。では今後の山部島の行動について説明する」

 

 少し空気が引き締まる。

 中里はホワイトボードの前に立って、説明を始めた。

 

「山部島の整備及び軍事的展開を主軸とした活用計画、通称信濃計画だが、早くも第二段階に突入しようとしている。いわゆる日米共同軍事作戦のことだ。昨日の深夜、その要綱が発表された。それによれば、最初の目標として、フィリピン海に存在する国籍不明勢力隷下の人工島、プロキシマ・ケンタウリの無力化若しくは撃沈するとしている。この作戦のために、アメリカが山部島と同じように拿捕した人工島を軍事基地化させ、現在小笠原島に向けて航行させているという。このアメリカの人工島、名前をカンバーランドというらしいが、それと山部島が、今回のプロキシマ・ケンタウリに割ける戦力だ」

 

 そういってホワイトボードに、必要な情報を書き込んでいく。

 

「カンバーランドにはF/A-18が10機、MQ-9リーパーが8機、B-21が2機配備されているとのこと。正直これだけあれば、プロキシマ・ケンタウリの破壊は容易だろうが、一応日米同盟の建前もあるからな。それと……」

 

 中里はホワイトボードから向き直って、梅香隊の方を見る。

 

「一応中国にも軍事支援要請を出している」

「えっ!?」

 

 声を出したのは神崎であった。

 

「それ、本当の話ですか……?」

「あぁ、外務省の知り合いに聞いた」

「……仮に要請を受理したとして、来ますかね……?」

「分からん」

 

 神崎は冷や汗が額を流れるのを感じた。

 

「と、こんな感じで、現在攻略作戦を立案中だ。何か質問は?」

「これ、私たちがいる必要ありませんよね?」

 

 加藤が手を上げて指摘する。

 

「あぁ、俺もそう思う。だが、万が一のこともあるからな。覚悟はしておいてくれ」

 

 そのように言われて、加藤は閉口する。

 

「ほかに質問がないのなら、今日は以上だ。解散」

 

 そうして解散になった。神崎は米中関係で少々気を揉んでいたが、それを考えるのは上の仕事だと割り切って、広報の仕事を行うのだった。

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