正午を回る頃には、目標であるプロキシマ・ケンタウリの滑走路は爆弾によるクレーターでボコボコになっていた。かなりの数の穴が開き、滑走路は使い物にならなくなっていた。
そしてB-21が出撃しようと、カンバーランドの滑走路へと誘導されていた時である。
MQ-9リーパーからの映像で、目標が自沈を開始していることが分かったのだ。島の端から、ボロボロと地面が波にさらわれていくように。あるいは浸食していくように。
その浸食は、やがて滑走路の真ん中からも発生する。島全体を縦横無尽に亀裂が走り、やがてそれぞれが静かに海底へと沈んでいく。
それから約2時間後。プロキシマ・ケンタウリが浮いていた座標には、最初から何もなかったかのような状態になっていた。いや厳密には、表面を覆っていた土のようなものや、地上施設の残骸がちらほらと浮いているだけだった。
これにより、第一次スパローリング作戦は成功に終わる。
『皆、よく頑張った。最初のスパローリング作戦は無事に遂行され、成功に終わった。民間飛行隊の諸君は、順次山部島基地に帰投せよ。残党狩りは空自の飛行隊に任せてくれ』
足立空将補からの通信だ。これを聞いた梅香隊の3人はホッと胸を撫で下ろす。
『なんとかなりましたね……』
『無事に終わってよかったー!』
『長丁場の任務お疲れさま~』
互いに苦労をねぎらう。
『ここまで長い作戦を遂行したのは初めてだったな。実にご苦労』
『おなかすいたなー』
『それもそうですけど……。作戦終了で緊張がゆるんだのか……』
加藤の音声からゴソゴソと服が擦れる音がする。
『あぁ、そういうこともある。これも経験だな』
「経験って……」
『あん? 神崎、年頃の乙女に何言わせようとしてるんだ?』
「そんなこと言ってないじゃないですか!?」
神崎がデリカシーのない発言をしたと思った中里が、神崎のことを叱責する。そうして結果的にとばっちりを受ける神崎であった。
数十分も移動すれば、山部島が見えてくる。すでに降りてきている民間飛行隊もいるようで、エプロンには何機かのレシプロ機が駐機していた。
梅香隊の3人も順番に滑走路へと降りる。そしてエプロンへと移動し、エンジンを停止させた。
神崎と中里も機体を駐機させて、コックピットから降りると、そこに足立空将補がやってくる。
「梅香隊の諸君。君たちの活躍は中里中尉から聞いた。エミュー隊の危機を救ってくれたそうじゃないか。おかげで犠牲を出さずに済んだ。改めて礼を言う」
「いえ、普通のことをしたまでです」
加藤が真面目な顔で返事をする。
「しかし、それは勇気のいることだ。勇気と無謀は違う。今回、君たちは無謀にも敵に囲まれたエミュー隊隊長を、勇気をもって助けた。それだけで君たちの行動は称賛に値する」
「えっへへ……」
「ありがとうございま~す」
浜口は頭に手をやりながら照れ、岡井は素直に感謝の言葉を述べる。
「さて、長丁場の作戦で疲れただろう。引き止めてすまなかった。今日はゆっくり休んでくれ」
「はい、それではっ」
そういって加藤は、サッと一礼して駆け足で執務室へと向かう。
足立空将補は一瞬ポカンとした表情をするが、すぐに状況を理解した。
「まぁ、やれと言われてすぐにできるようなものではないな」
「まったくです。私も最初は慣れませんでしたから」
足立空将補と中里が、思い出話をする。神崎にはそのような思い出がないため、ただ中里の隣に立っているしかなかった。
そんな中、ふと梅香隊の向こうに駐機している飛行隊が目に入る。先ほど話に出ていたエミュー隊だ。隊長をはじめ、全員が地面に座り込んでいる。特に隊長は、四つん這いになっており、大きく肩を揺らしながら吐き戻していた。
おそらくこの後、彼らにはPTSDが襲い掛かってくることだろう。そういう命の危険に曝されたことのない人間が、急にこのような強い刺激を受けてしまえば、それはもう人生におけるトラウマになるはずだ。
そういう意味では、民間人を即席の飛行隊の一員にするのは間違いだったかもしれない。
しかし、時すでに遅し。すでに運用されてしまっているものを変えるのは大変な労力と根回しが必要になる。現状を変えるのは困難を極めるだろう。
神崎は何も言わず、中里とともに事務室へと戻るのだった。
そして事務員の1士に画像の編集を任せ、神崎はSNSに投稿するための文章を考える。ある程度書きあがると、1士が編集した画像を渡してくるので、それを一つのファイルにまとめて、電子決裁で回す。
「中里中尉。SNS投稿用の決裁回したので確認お願いします」
「あいよ」
神崎は、今できる仕事が終わったので、最新ニュースでも確認しようとニュースサイトを閲覧する。
その時、真っ先に目に飛び込んできた速報が、事態の急変を感じさせた。
『国籍不明勢力と思われる航空機、イギリスとスペインに出現』