影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第57話 世界の協力

 ヨーロッパにおける国籍不明勢力の攻撃は、一晩にして世界の世論を大きく変えることになった。

 

『国籍不明勢力は、環太平洋だけでなく、世界中のどこにでも出現する可能性がある』

 

 その事実だけで、NATO軍をスパローリング作戦に参加させる十分な理由になったのだ。

 こうして主要な国が軍隊を派遣することが決まり、情報も多くを共有することになる。

 

「そういえば、影ってどこから来ているんですかね?」

「それに関しても情報共有が図られているところだ。一応機密性2情報があるが、見るか?」

「えぇ、一応……」

 

 神崎は中里から資料を受け取り、内容をかいつまんでいく。

 

『国籍不明勢力に関して、出現には現在も不明な部分があるが、太平洋ポイント・ネモに出現した巨大なドーム状の構造物が関係していると思われる。その証拠として、新たな不明な人工島が出現しているところを、OSINT有志によって確認されている。この人工島が、ドレーク海峡を通って大西洋に出現し、イギリスやスペインを襲ったと見られる。このドーム状の構造物を、以降は暗黒ドームと呼称する』

「あの暗黒ドーム、やはり影との関連があったのか……」

 

 資料を眺めながら、神崎は自分の推測と資料の内容をすり合わせていく。

 

『大西洋に出現した人工島が沈没したあと、環太平洋に散らばっていた人工島群は、暗黒ドームへと移動を開始した模様である。その道中で、人工島同士が接近すると島が変形・融合し、さらに巨大な島へと変化する様子が確認された。これにより、国籍不明勢力の戦力を統合し、より複雑なオペレーションが可能になることを示唆している』

「島と島が融合するのか……」

 

 資料に添付されている衛星画像を確認すると、島がアメーバか粘菌のようにグニャグニャと変形し、一つの島へと変化している様子が分かるだろう。滑走路も3000m級が4本ほどに増えており、基地としての機能をより強化しているように見える。

 

『この島を構成している土壌は発電能力を有しており、島で使われる電力へと変換している。またこの発電能力を有する物質は国籍不明勢力の機体にも使われていることが判明している。そしてその機体内部には、正体不明の生体物質が存在していることも明らかになった。DNA鑑定の結果、この生体物質は我々人間に限りなく近い生物であることが判明した。人工島の地下で見つかったアミノ酸とブドウ糖の存在を加味すれば、おそらくこの生体物質が生存するために必要だったと推測される』

「生体物質が機体の内部に……? それってつまり、あの機体は人間のようなものでコントロールされていたってことになりません?」

「おおむねその通りだろ。影の機体には人間の肉体や脳が埋め込まれていて、それを使って我々を攻撃していた」

「そ、そんなの、生命倫理に反しているじゃないですか」

「だからこそ、影の連中は我々地球文明とは異なる場所から来た、倫理観ガン無視の地球外生命体の可能性があるんだろ」

 

 中里の指摘は、資料の中でも結論の一つとして提示されていた。

 その上で、資料の後半ではスパローリング作戦の拡張計画が打ち出されていた。

 

『現在、日米が中心となって遂行しているスパローリング作戦を拡張し、この暗黒ドームに対する総攻撃作戦に切り替える案が出ている。人工島と暗黒ドームを破壊し、環太平洋及び大西洋地域に平穏をもたらす事が最優先事項となる』

「最優先事項……。できるんでしょうか?」

「まぁ、できなくはないだろうな。成功確率が低いだけで」

「成功確率が低いのは、立地の問題ですか?」

「あぁ。ポイント・ネモは、陸地から最も離れた場所に存在する。それはつまり、兵站が伸びに伸びまくることを意味している。誰かが軍隊を派遣しないと影の連中を撃破することはできないが、そんな絶海に軍隊を派遣したいと思う奴らはいない。例外はあるがな」

「例外……」

「それが超大国が持つ大陸間弾道ミサイルだ。前にアメリカが核攻撃を行っただろ? あれと同じことをすれば、暗黒ドームを破壊できる可能性はある」

「ですが、以前の攻撃では爆発がありませんでしたよね?」

「そこがネックな所だ。本当に核が起動しなかったのか、実は起動していたが何らかの原因によって爆発が阻止されたのか……。それは誰にも分からないが、もう一度やってみる価値はある。今度は暗黒ドームの周りに人工島が集結するわけだからな」

 

 そういって中里は椅子から立ち上がり、窓の外を見る。

 

「今後拡張された新しいスパローリング作戦が立案されるだろう。俺たちはそれに従うほかない」

 

 その中里の目は、どこか哀愁のようなものが漂っていた。

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