8月も終わり、9月に入った。
山部島は沖縄本島近くまで移動し、小休憩に入っていた。この時を見計らい、海上自衛隊が民間の船舶を借り上げた物資輸送船で、山部島に物資を輸送してもらっていた。
護岸整備を行っていたこともあり、大型の船舶も停泊できるようになったのは大きい。特に飛行機の燃料消費と、人員の食料消費は馬鹿にならないのだ。
「ナーちゃん先輩。いつものお薬が届いてますよ」
「ありがとね~」
「アマゾネスで注文してた化粧水が届いたー! これがないとダメなんだよねー!」
「私の荷物も届いてますね。本当に助かる……」
梅香隊の3人も、各々の荷物を受け取っている。
「よかったな、君たち。これでまた次の作戦も頑張ってくれ」
「はい」
「はーい!」
「は~い」
中里が神崎を使って荷物を運んだので、こうして対面している。神崎は慣れない肉体労働でへばっていた。
「ところで中尉。服薬や通信販売の配達先を、自衛隊の艦に適用するのってできたんでしたっけ……?」
「基本的にできないが、防衛省で預かって、海上自衛隊が代わりに配送している。なんら違法性はない」
「それありなんですか……?」
そんな事を言いつつも、彼女たちの笑顔を曇らせるのは何か違うことを感じる神崎である。
「さて、今後の話を軽くしよう。真面目な話だ」
その言葉を聞いて、3人はスッと姿勢を正す。
「今回の補給が終わり次第、山部島はポイント・ネモである南太平洋を目指す。そこには影と関係があると言われる全ての元凶、暗黒ドームが存在する。また、この暗黒ドームを目指して影の勢力下にある人工島が移動している。この人工島を破壊し、暗黒ドームを消失させる作戦が立案され、スパローリング・ネモ作戦と命名された。まぁ、やることは今までと特に変わらない。人口島を破壊する。それだけだ」
しかし中里は少し苦虫を噛み潰したような表情をする。
「しかし、少々いただけない部分が、この作戦に含まれている」
「少々いただけないこと、ですか?」
加藤が聞く。
「スパローリング・ネモ作戦の大まかな作戦は、アメリカのオハイオ級原子力潜水艦2隻による、計6発の核ミサイルによって始まる。正直日本の立場としては核攻撃には反対しなければならないのだが、実際有効であると判断されてしまい、こうして作戦に組み込まれている。暗黒ドームが出現した直後にアメリカが独自に大陸間弾道ミサイルで核攻撃したことも相まって、核攻撃を行うべきと支持する声も多数上がっていた。正直、これ以上核を気軽に利用する風潮は収まってほしいのだが、世界はそうではないのが現状だ」
中里がそのような話をして、少々空気がお通夜状態になる。日本人なら人生で一度は感じる、核兵器に対する複雑な気持ちがそこには流れていた。
「しかし、ここは割り切って考えてほしい。このスパローリング・ネモ作戦では、我々の出番はないとされている。我々の出番がなく、損害なしで敵を攻撃できるのなら、それに越したことはない。そのように考えてほしい」
中里はいつものような、淡々とした口調で話す。
「まぁ、作戦の概要としては以上だ。ここまでで何か質問は?」
「……アタシたちは、結局は核の脅威に勝てないってことですよね?」
浜口がいつものハイテンションではなく、不安そうに聞く。
「そうだな……。核は脅威であると同時に、便利な兵器でもある。その威力はどの兵器よりも強い。だからこそ、こうした時に使うのは理想的とも言えるな」
「中尉さんはそれでいいんですか~?」
岡井も聞いてくる。
「……日本人としてはよくない。だが軍人としては、これ以上ない核兵器を使用すべきタイミングと言える。割り切れと言われたら、そのようにするしかない」
中里の覚悟。それは苦悩にまみれ、核使用の狭間で揺れ動く日本人としての姿だった。
「……分かりました。中里中尉がそのように言うのであれば、私は従います」
加藤が悩んだ末に答えを出した。
「ミズキちゃん……」
岡井が心配そうに言う。
2人も考えた結果、彼女に同調することにした。
「分かりました。うちも従いま~す」
「アタシも従います!」
「そういって貰えて助かるよ」
中里は感謝を述べる。
「それでは、この後の日程を簡単にだが伝える。まず輸送船からの物資下ろしが終わった段階ですぐに山部島は南太平洋に向かうために移動を開始する。移動時間は丸2週間。山部島が予定海域に到着次第、スパローリング・モネ作戦は決行される。それまではのんびりしていてくれ」
「はい」
「分かりましたー!」
「了解で~す」
そして翌日。輸送船が離れると同時に、山部島は南太平洋に向けて移動を開始した。その道中には、アメリカの人工島カンバーランドも一緒だった。
人類と影の最後の戦いになるかもしれない現状に、神崎は勝手に脈拍を上げていたのだった。