影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第59話 あっけない最後

 9月15日。太平洋の荒波を越えて、山部島は南太平洋の絶海にいた。生物すらほとんどおらず、一番近い陸地もおよそ1000km先という僻地も僻地なのだ。

 そんな海域で、山部島とカンバーランドは並行して進んでいた。

 

「ここが南太平洋……。陸地から最も離れた場所……」

 

 事務室の入っている執務室の屋上から、加藤が広大な海を眺める。

 

「本当のポイント・ネモまでは、直線距離にして約150kmくらい離れているがな。それでも、陸地まではかなり遠いことになる」

 

 中里がスマホでGPSを確認しながら、そんなことを言う。

 

「でもさー、ちょっと風強くない?」

「陸地のある海岸線に比べて、この周辺には何もない。その影響で、海面近くでは強風が吹きやすいんだ」

 

 中里が解説する。今吹いている風は、砂埃が舞うくらいの強さである。現に山部島の土壌も、わずかだが風によって持っていかれている。

 

「スタビライザーが起動しているとはいえ、波も少し高いですね。離着陸の時に影響が出ないといいんですが……」

「そうだな。だが、この程度なら君たちの技量でなんとかなるはずだ」

 

 そんなことを言いつつ、中里は腕時計で時間を確認する。

 

「そろそろ時間だ。一応地下格納庫に入っておきなさい」

「は~い」

 

 岡井の間延びした返事で、一行は地下の格納庫に移動する。

 これから、スパローリング・ネモ作戦のフェーズ1である核攻撃が始まる。距離があるとはいえ核兵器を使用するので、当然のことながら放射線が出ることになるだろう。放射線は種類によって放射される速度が異なる。だが150km程度の距離なら、すぐに通り抜けることだろう。それに、地下格納庫は海水面より下にある。水を遮蔽物にすることで、放射線の影響はほとんどないはずだ。

 問題は放射性物質が残ることだが、ポイント・ネモ周辺には注意すべき生物の生息圏がほとんど存在しないため、実質影響はないと見られる。

 地下格納庫には、大勢のパイロットや整備士、事務員などの作業員が身を寄せていた。レーダー観測員以外はここに待機と命令されているのである。

 

「作戦開始の協定世界時ヒトサンマルマルまで、あと1分」

 

 中里が腕時計を見ながら、カウントダウンを開始する。

 

「5秒前、3、2、1、作戦開始」

 

 時間になった。ポイント・ネモから遥か北に2000kmほど離れた場所で待機していた潜航中のオハイオ級原子力潜水艦から、核弾頭搭載のトライデントⅡミサイルが計6発発射された。

 ミサイルは数分で低高度軌道に到達し、目標に向けた軌道修正が試みられる。その軌道修正が終われば弾頭は大気圏に再突入し、目標である暗黒ドームをその周辺の人工島群へと落下していく。

 発射からわずか十数分。複数の強力な閃光が水平線の向こうで起こる。その強力な閃光と電磁波によって、山部島に設置されたレーダーサイトは一時使用不能になった。

 その爆発の様子を、地下にいる人々は監視カメラの映像で確認する。

 

「こうして核爆発を見るのは初めてですね……」

「そうだな……」

 

 自衛官であるだけに、複雑な感情が湧きおこる神崎と中里。そして山部島で勤務する多数の自衛官も感じただろう。

 数分後。水平線の向こうに、小さくキノコ雲が浮き上がるのが見える。

 事は終わった。後は無人偵察機によって、現場がどうなっているのかの確認が行われるだろう。

 

「実にあっけない最後だったな」

「足立司令」

 

 神崎と中里の元に、足立空将補がやってくる。

 

「我が国として回避するべき存在である核兵器。しかし今回は、その核兵器によって世界に平和がもたらされた。なんとも皮肉なことだね」

「まったくです」

 

 そんな話をしていると、島内無線のスピーカーから音声が響き渡る。

 

『こちら山部島地上レーダーサイト! 現在南東方向から無数の航空機らしき物体が山部島に接近中!』

 

 その音声を聞いた自衛官たちは、一斉にざわめきだす。

 

「国籍不明勢力だよな?」

「一体どこから……」

「まさか核攻撃の直前に離陸したのか?」

「いやしかし、ポイント・ネモから来たとして、航続距離はたかが知れているはずだ」

「でもこのまま放置してたら、山部島が攻撃を食らうことになるぞ!」

 

 そんな言葉が飛び交う。

 

「落ち着け、そんなことにはならないはずだ」

 

 中里が周囲に落ち着くように言い聞かせていると、梅香隊の3人が突然走り出した。そのまま自分の機体に乗り込む。

 

「中里中尉! 出撃しても構いませんよね!?」

「はぁ!? 何言ってるんだ!」

「敵が来ているってことは、墜とさなきゃいけないんだよねー!」

「うちの死に場所が待ってる~」

「だからって、3人が行く必要はありませんよ!」

 

 神崎も思わず反論する。

 

「敵を確実に撃ち落とす。中里中尉ならそうしますよね!?」

 

 加藤に言われ、中里は言葉に詰まる。

 

「……そういわれちゃあ、なんも言えねぇな……」

 

 中里は頭をかき、しょうがないといった雰囲気であった。

 

「行ってこい。ただし、絶対に死ぬなよ」

「はい!」

「行ってきまーす!」

「死に場所は選べってことか~」

 

 おそらく最後の戦いが始まる。

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