影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第6話 バディがやってきた

 宿舎を案内され、割り当てられた部屋に入る。通常8人部屋として利用しているが、今回は特別に二人部屋として使わせてもらえることになった。

 

(ずいぶんと贅沢な待遇だ。それだけ危険な任務って意味でもあるのだろうけど……)

 

 そんなことを思いながら、神崎は持ってきた荷物の荷ほどきをする。大きい荷物ではないため、すぐに荷ほどきは終わった。

 本日の業務等はないため、神崎はベッドに横になる。そして、准空尉から聞かされた話を思い出す。

 

『明日は神崎空曹長のバディとなる方が着任する予定です。今後の任務は、その方と一緒に行ってください』

 

 それを思い出し、神崎は少し溜息が出る。

 

「空を飛べるのは嬉しいけど、パイロット課程を修了してない俺は座っているだけのお荷物だ。そんな俺に価値なんてあるのだろうか……」

 

 そんなことを呟いていると、だんだんと瞼が重くなっていった。

 

━━

 

 気が付くと、目の前には見たことのある風景が映し出されていた。かつてパイロット候補として航空学生になろうとしていた若かりし神崎が、当時の受験監督の自衛官と面接をしていた場面だ。

 

「神崎さんは視力が悪いようだね」

「はい。しかし、最近の募集要項では視力に関して改善が図られたはずです」

「そうだね。自衛官の採用人数を維持するための措置、みたいなものだ」

「ならば自分でも問題ないはずです」

「神崎さんの言うことは正しい。でも、正しいだけでは動かせないこともあるものだよ」

「……どういうことですか?」

「この場で言うことじゃないんだけど、神崎さんが航空学生になるのは難しいってことだね」

「それって、不採用ってことですか?」

「端的に言えばその通りです」

「……そんな」

 

 神崎は思わず椅子から立ち上がる。

 

「面接も終わってないのに、なんでそんなことが言えるんですか!?」

「落ち着いて。もちろん全員の面接が終わったわけじゃないから、決めつけるのは良くないだろう。でもね、視力が悪いっていうのは我々受験監督陣からしたら印象が悪い。我々もそんなことはしてはいけないと頭では分かっていても、回避せざるを得ない理由の一つなんだ」

「嘘だ……」

 

 そんなやり取りが、今の神崎の目の前で行われる。

 

「……駄目だ」

 

 今の神崎が呟く。そしてズンズンと進み、二人の間に割って入る。

 

「駄目だ駄目だ駄目だ……! こんなの出来レースでしかない! こんなのはあってはならない!」

 

 そういって拳を空中で振るう。その瞬間、空間にバリバリとヒビが入り、二人は拳を振るった衝撃で消し飛ぶ。

 部屋も破片と化して吹き飛び、そこには砂しかない広大な砂漠が広がる。

 

「俺は……。空に憧れたが、もう執着していないんだ……。だから……」

 

 その時、足元の砂がグラグラと揺れ、やがて神崎の体が吸い込まれていく。それはまさに、巨大なアリ地獄そのものであった。

 

「や、止めろ……!」

 

 神崎はもがくが、無情にも体はどんどんと落ちていく。

 

「うわぁぁぁ!」

 

━━

 

 体がビクンとなり、神崎は目を覚ます。どうやらいつの間にか眠っていたようで、ジャーキングにより起きたようだ。

 腕時計を見てみると18時を回っており、部屋は暗くなっていた。

 

「夢か……」

 

 寝起き直後で内容はよく覚えているが、すぐにその記憶は薄れていく。

 

「コンタクト外して寝るか……」

 

 そういって神崎はベッドから降りる。夕食は非常食用として用意していた小さなカップ麺を食べることにした。

 翌日。起床ラッパが鳴り響くと同時に目を覚ます。バババと準備を整え、朝の点呼を行い、朝食を食べる。

 そして自分の勤務場所である監理部へと向かっている途中だった。

 遠くからジェット機のエンジン音が聞こえてくる。どうやら上空を飛んでいるようだ。だんだんとこちらに接近してくる。

 

「こんな時間に発着する旅客機なんてあったかな……」

 

 時間を確認すると、朝の9時前だ。最近百里基地と共同運用している茨城空港は、近年プライベートジェットの受け入れが進んでいる。その航空機だろうと思いながら、空を見上げる。

 するとそこには、現在では見られないはずの航空機があった。

 

「T-2高等練習機……!?」

 

 T-2はそのまま上空で旋回し、滑走路に進入する。

 

「運用が終了しているはずのT-2がなんて百里に……!?」

 

 その時、放送がかかる。

 

『神崎裕也空曹長。今すぐエプロンへと来てください』

「はぁ? なんでだよ」

 

 そんなことをブツクサ言いながらも、神崎は急いでエプロンまで走るのだった。

 エプロンに入る時に靴の裏の小石を払い、格納庫の横を通ってエプロンに出る。

 ちょうどT-2が駐機しており、エンジンが止まった。そしてキャノピーが開き、中から操縦士が降りてくる。

 

「神崎空曹長、急に呼び出して申し訳ありません」

「准空尉」

「彼が来たので説明しますね」

 

 T-2のパイロットがこちらに来て、ヘルメットを外す。ナイスミドルにふさわしい、顎髭が整えられた短髪の男性だ。

 

「彼は中里中尉。今後神崎空曹長と共に空を飛ぶバディになります」

「ば、バディ?」

 

 神崎は驚いて中里のことを見る。

 

「おう、よろしくな」

 

 渋い顔をして、中里は手を上げた。

 神崎は少しだけ、嫌な予感を感じざるを得なかった。

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