地上へ向かうエレベーターに乗ったまま、整備士と共にエンジンの始動を行う梅香隊。地上に上がると、少しばかり肌寒い風が通り抜ける。
そのままエプロンで最終確認を行い、滑走路へと移動する。
『管制塔から梅香隊へ。現在こちらに向かっている未確認の飛行物体は、100機以上と見積もられている。第3飛行隊、第306飛行隊、その他民間飛行隊も出撃準備を行っているが、いつ離陸できるか分からない状態だ。もし本当に戦況が危うくなった時は、山部島近くにいるもがみ型護衛艦に助けを求めるのも一つの手である。無茶だけはしないでくれ』
『分かりました。お気遣い感謝します』
『さーて! 撃って撃って、墜としまくるぞー!』
『がんばろ~ね~』
そういって滑走路の端へ到着し、管制塔から離陸の許可が出る。
『梅香隊へ、離陸を許可する。生きて帰ってきてくれ』
『了解。梅香隊、出撃します』
スロットルレバーを全力で押し込み、エンジンが唸る。徐々に機体は加速し、颯爽と滑走路を離陸していく。
『それで~? ミズキちゃん、作戦とかあるの~?』
離陸してから岡井は加藤に聞く。
『最初に突出していたり、集団から外れていたりする機体を中心に狙っていきましょう。群から個を切り離して、その個を私たち3人で叩けば勝ちが見えてくるはずです』
『でも3機と100機じゃ分が悪いよー!』
『そうなると、海上自衛隊のお艦に助けを求めるって感じ~?』
『そんな感じです。敵は集団でやってきますから、もし戦況が危うくなったら躊躇せずに助けを呼びましょう』
『分かったー!』
『それじゃ、いきま~す』
そんな梅香隊が最初にしたことは、上昇することであった。戦略の一つに、より高い場所を陣取った方が攻撃も防御も有利に働きやすいというものがある。これはクラウゼヴィッツの戦争論にも書かれている事実だ。
特にジェット機と比べて速度も出力も劣っているレシプロ機にとっては、高高度に登ったり、より高い高度を維持するのは難しいものである。なのでまずは何もよりも高度を取る必要があるのだ。
そういうわけで、高度4000m以上に上がってきた。振り返れば、わずか10km先に影の集団がこちらに向かっているだろう。
『さて、ここから本番です。なるべく集団で固まって、敵を少しずつ墜として行きましょう』
『分かったー!』
『は~い』
敵は同じ高度で隊列を組んでいる。その端の方から、切り刻んでいくように攻撃を仕掛けていった。
最初に突撃隊長の浜口が、瞬間の火力で敵1機を墜とす。それで敵が、梅香隊のことを認識する前に加藤と岡井が複数機を墜とす。敵集団より上にいるため、高度差を利用した奇襲攻撃かつ圧倒的速度での接近離脱により、最初の10機程度は簡単に撃ち墜としていく。
『調子いいんじゃなーい!? このまま墜としていければ、100機なんて簡単だよー!』
『アンリちゃ~ん? いつまでもこっちが有利とは限らないよ~?』
岡井が忠告した直後、どこからともなく射撃される浜口。幸いにも弾丸は機体の後方へ流れていった。
『うわっ、危なっ! もー、どこから撃ってきたのー!?』
『それだけ敵も本気ってことですよ』
『ここからは一筋縄でいかないってことね~』
その岡井の言葉通り、次々と梅香隊に向かって射撃してくる敵機。正直回避するだけで集中力を持っていかれ、反撃の余裕すらなくなってきた。
『くぅぅぅ……!』
ぐるぐると旋回し続け、操縦桿を左右に頻繁に倒し続け、なんとか回避している状態である。平均高度も徐々に下がってきており、このままではいつか致命的な射撃を受けることになる。
『浜口先輩! ナーちゃん先輩! これ以上は危険です! 艦の方に行きましょう!』
『そうしたいのはやまやまなんだけどー! 敵が多すぎるー!』
『うちは目が回っちゃう~……』
3人とも疲労困憊状態に近い。先ほどから弾丸が機体をかすっており、小さな傷としてできている。
その時、加藤の頭上に敵機が現れる。確実に加藤の機体を撃ち抜く角度だ。
『しまっ──』
反射的に操縦桿を横に倒すが、間に合わない。加藤はキュッと目をつぶる。
その時、加藤を狙っていた敵機が爆散した。
『えっ!?』
『まだ死ぬんじゃねぇよ!』
そこに飛んできたのは、特徴的な機体。T-2高等練習機である。翼端と翼下のハードポイントにミサイルを搭載している。どうやら先ほどの敵機にミサイルを撃ったようで、右翼端にミサイルはなかった。
『君たちは未来ある若者なんだ! 無茶はもうちょっと歳を食ってからにしてくれ!』
「でも出撃の許可出したの中尉じゃないですか!」
『うるせぇ! そういうゴタゴタはあとにしてくれ』
T-2はそのまま固定機銃によって敵機を一度に数機ほど撃ち墜とす。
『中里さーん! 助けに来てくれたのー!?』
『まーそういうとこだ。それに俺だけじゃねぇ』
その直後、次々と複数の敵機が爆発する。その向こうからは、F-2戦闘機とF-15戦闘機が来ていた。
『高校生にすべてを任せるのは大人としての恥だ! 野郎ども、きっちりとケリをつけに行くぜ!』
『おう!』
そういって圧倒的速力と圧倒的火力投射能力で、敵機を屠っていく。
気が付けば敵機は半分以下になっていた。その時に民間飛行隊も合流する。
『梅香隊、遅くなった! これよりカソード隊が加わる!』
『ショット隊現着! 梅香隊に続け!』
こうして味方が増え、敵機を墜とす速度が上がる。
やがて海上にもがみ型護衛艦も現れ、SeaRAMや5インチ砲による射撃も行われた。
こうして、100機以上もの敵機を、すべて撃ち墜とすことに成功する。
『終わった……?』
『勝ったー……』
『疲れた~……』
戦闘時間にしておよそ1時間。その間、生死をさまようような操縦を行っていたこともあり、梅香隊の3人はヘトヘトであった。
『梅香隊の諸君、よくやったな』
そこに中里が通信を入れてくる。
『今度こそ、終わりのはずだ。島に戻ってたっぷり休んでくれ』
『そのつもりです……』
『もーダメー……』
『お布団入りた~い……』
そんな状態で、山部島の飛行隊は島に戻るのだった。