影の航空機━ノベライズ━   作:紫 和春

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第7話 お互いを確認した

 管制塔のすぐ横にある建物の中の庶務室。ここが主に神崎と中里が使う事務室となった。

 二人以外にも数人の事務官が駐留し、神崎たちが撮影してきた画像や映像の確認作業を行い、ネットへのアップロードも一部代行する。

 しかし基本的には神崎と中里が中心となって情報発信を行っていくのだ。

 

「というわけで、ここ『防対本専従航空広報室』の室長となる中里だ。よろしく」

 

 中里は数個ある事務机に足を放り投げた状態で座り、そのように挨拶する。

 

「し、室長なんですか?」

「この中では俺が一番階級が高いだろ? そういうことだ」

「そ、そうなんですか?」

 

 神崎は本日出勤している唯一の事務官に質問する。

 

「わ、分かんないです……。自分、予備自の1士なので……」

 

 神崎は思わず悪い言葉が出てきそうになった。その代わり、思いっきり天井を見上げた。

 

「そういうことらしいから、俺で決まりでいいよな?」

「……」

「異論がなければ決定だな」

 

 神崎は何も言い返せなかった。

 

「さて、ここからは自己紹介の時間だ。まずは俺から」

 

 そういって中里は椅子から立ち上がる。

 

「俺は中里圭、中尉。T-2のパイロットだ。経歴は聞くな。はい、何か質問」

「え、えと……」

 

 神崎は少し考え、おずおずと手を上げる。

 

「はい、神崎曹長」

「その、聞きたいことは色々とあるんですが……」

「要点だけ上げてくれ」

「はい。まずはどこでT-2を入手して整備したのか、というのと、元の所属はどこかという2点で……」

「そうだなぁ……」

 

 中里は顎に手をやって考える。そしてポツポツと話し始めた。

 

「まず俺は岐阜基地にいた。そこに置いてあったT-2最終号機をちょちょいと拝借して改良したんだが……。アレはすごいぞぉ。見た目はそんなに変わらないが、エンジンは最新のロイドアンドロールスのFJ2000ターボファンエンジンを搭載。レーダーシステムもフライ・バイ・ワイヤも一新しているし、ハードポイントも強化改良した。まさに生まれ変わったジェット機だ。言うなれば、T-2改ってところだ。ただ、改良をしすぎてオリジナルの部品が3割くらいしかなくなったがな」

 

 そのように話す中里は、真に楽しそうであった。

 

「さて、俺の話はここまででいいだろう。次は神崎、お前だ」

「は、はい。神崎裕也です。階級は曹長、昨日まで水戸の地本にいました」

「地本か。その階級だと広報官としていたんだな」

「えぇ、まぁ」

「そうか」

 

 中里はそれ以上は聞かなかった。

 

「さて、そこの予備自の事務官君の自己紹介は後で勝手にやってくれ。それから、神崎にはこれをプレゼントだ」

 

 そういって中里は床に置いてあった大きなバッグを持ち上げる。

 

「神崎、お前の耐Gスーツだ。ヘルメットもある。次のフライトまでに体に合うか確認しておけ」

「え? は、はい」

「それと、撮影用のカメラ。映像と写真が同時に撮影出来るデジカメだ。ちゃんと記録に残しておけるように充電しておけよ。最近はブイログ? なんてもんが流行ってるんだなぁ」

 

 色々と物を貰い、少々困惑している神崎。

 

「って、次のフライトっていつですか?」

 

 神崎は中里の発言の中にあった疑問点を聞く。

 

「次のフライトはいつって……。次にスクランブルのサイレンが鳴った時だろ。1分後に来るかもしれないから、スーツの確認は今すぐやれよ」

「は、はい……」

 

 中里の睨みに怖気づく神崎。耐GスーツがなければT-2には乗れない。それすなわち任務遂行の失敗である。それだけは避けたい一心で、神崎は急いでスーツの点検を行うのだった。

 結局その日の夕方まで、スーツとヘルメットの確認を行い、一日が終わってしまった。

 

「今日は平凡な一日だったな」

 

 中里はあくびをしながら体を伸ばしている。

 

(ずっと寝てたじゃんか……)

 

 パイロットスーツを片付けながら、神崎は心の中で悪態をつく。

 

(とりあえず確認は終わった……。ここでパイロット課程の教養が活きるとは思わなかった)

 

 自分の机の上にバッグとヘルメットを置き、一息つく。

 

「さて、そろそろ終業時間だな。そんじゃ、俺は先に上がるぜ」

 

 そういって中里が荷物を持って事務室を後にしようとした時だった。

 空襲警報にも似たサイレンが、基地中に響き渡る。

 

「ホットスクランブル……!」

 

 神崎がサイレンに少し驚いていると、中里に頭を思いっきり叩かれる。

 

「へ?」

「へ? じゃねぇよ。さっさと準備しろ。スクランブルだ」

 

 そういって中里は、自分の耐Gスーツとヘルメットが入ったバッグを掴む。

 その時、神崎は中里の言葉を思い出した。

 

『次にスクランブルのサイレンが鳴った時だ』

 

 つまり、これから空へと飛び上がるということだ。

 神崎は急いでスーツを引っ張り出して着替えを始める。

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