沈みゆく夕陽に照らされ、単機のT-2は千葉県上空を南下していく。
10分もかからずに戦闘空域に到着した。レーダーを確認してみると、IFFに登録されている第3飛行隊の航空機数機と、国籍不明機数十機が入り乱れているのが分かるだろう。
『もうすでにミサイルは撃ち切っているようだな』
中里がそのように推察する。レーダーでの動きを見て分かる通り、第3飛行隊各機は、国籍不明機の射程外からの攻撃ではなく、国籍不明機の後ろに回り込むような機動を描いているのが見てとれる。
神崎たちがここに到着する前に、ミサイルなどの誘導弾による攻撃は終えたようだ。
『神崎、カメラ用意しろ。影に接近する。タイミングを合わせて撮影しろ』
「か、影?」
『あ? あぁ、影は国籍不明勢力のコードネームのようなものだ。防対本がそう呼んでいるらしい』
「そうですか……」
『それより、撮影の準備は出来たのか?』
「はい。出来ました」
『そんじゃ、……敵のど真ん中を突っ切るぞ!』
そういって中里はフルスロットルで、影の中に突撃していく。
すると、外部からの通信が飛んでくる。
『機体番号99-1001! 無茶はよせ! 死にたいのか!?』
『こちら99-1001、コールサインは……ミドルだ。今決めた。こちらミドル、敵機の情報収集のために突撃する』
『馬鹿野郎! 今すぐ引き返して後方で活動していろ! 実戦で死者なん━━』
ブツッと通信が途切れる。
中里は、第3飛行隊からの警告を無視した挙句、一方的に通信を遮断するという、まさに破天荒な行動を取る。
「む、無茶苦茶な人だ……」
『俺のこと言ってるのか? そいつは光栄だ。俺は昔から血の気が騒いで仕方ないんだ!』
一番近くにいた敵機の横の、スレスレの所をものすごい速度で駆け抜けるT-2。
カメラを構えていたが、ジェット機の速度ではかなり早すぎて、肝心の映像はブレているだろう。
『どうだ!? 撮れたか!?』
ほぼ怒鳴る声で、中里は聞く。
「分かりません! 機体速度が速すぎて追い切れませんでした!」
『なんだよー、せっかく近づいたのによぉ。そんじゃ次の影に接近するぞ!』
話を聞いているのか聞いていないのか、とにかく敵機に接近しようとする中里。今度こそはちゃんと撮影しようと、神崎は目標を絞る。
『次は前方3キロ下方にいる機体だ!』
中里が目標を伝える。該当機体は2機だ。その片方に、神崎はカメラを向けることに決める。
3キロという距離は、超音速ジェット機にしてみれば目と鼻の先である。10秒もしないで目標の2機が横を過ぎ去る。
それに合わせて神崎はカメラの焦点を合わせ、カメラのアングルをパンさせる。
『どうだ? 今度こそちゃんと撮れたか?』
中里が聞く。
「撮れたと思いますが……。さすがに速度が速すぎます」
『文句の多いヤツだな……。ならランデブーすればなんとかなるだろ』
そういって中里は大きく旋回を始める。旋回していった方向には、敵機が密集している集団があった。ざっと20機くらいだろうか。
「え、ちょ、まさか敵機集団の中に突っ込むんですか!?」
『お前の注文を聞いた結果だろうがよ。自覚しろ。そして覚悟しろ』
「なんでヴィランみたいなこと言ってるんですか!」
そんな神崎の悲鳴にも似た発言は無視され、中里は操縦桿を倒し続ける。
スロットルレバーを戻し、主翼のフラップと機体後方下部のエアブレーキを展開して速度を落としつつ、浮力を確保する。
そうして敵集団の側面後方からゆっくりと接近するT-2。敵機の速度に比べればそれなりに速いが、今度は敵機の様子をじっくりと撮影することが出来た。
影は、機体全体がかなり黒い。それこそ機首のカウルから機尾の垂直尾翼まで。キャノピーも真っ黒に塗りつぶされており、搭乗員の存在は確認出来ない。
そして通常国籍マークが描かれている部分には白色の長方形が存在する。
その上で、その機体は大まかに第二次世界大戦機のレシプロ機の様相を呈している。
『ふーむ、概ね防対本に集まっている情報の通りだな』
中里も敵機の様子を見ているのか、そんな感想を残す。神崎は正直ハラハラしながら動画と静画の両方を撮影し続ける。
その時、T-2のシステムから警告音が鳴り響く。
『おっと、失速だ。そのまま離脱するぞ』
フラップとエアブレーキを収納し、スロットルレバーを前に押し込む。機首を下に落とし、速度を稼ぎつつその集団から離脱する。
しかし、影は簡単には逃してはくれない。すぐにT-2に対して機銃攻撃をしてくる。
「うぉぉぉ! 攻撃してきた!」
『戦中の攻撃なんて、ジェット機の前には無力だよ!』
グォォォ━━とアフターバーナーが火を噴き、海面に向かって落ちていく。
速度が時速500キロに達したところで、中里は操縦桿を引く。機体が小さくガタガタと震えながら、機首がだんだんと持ち上がってくる。
そうして簡単に影を引き離す。
『いやはや、意外と早い反撃だったな。思わず肝が座ったぜ』
「そういう時肝が冷えるもんじゃないんですか……」
『そんなツッコミしてねぇで、さっさと撮影を続けろ。もう第3飛行隊が攻撃し始めてるぞ』
「えっ」
T-2の機体が旋回を始めたところで、影の集団を映すためにカメラを向ける。そこには、機銃で影を連続で屠っている複数のF-2の姿があった。
物量の違いがあっても、さすがに速度差は簡単に埋められない。第3飛行隊が優位な態勢を維持したまま、次々と敵機を墜としていく。
そうして撮影すること5分。最後の敵機が墜ちた。
『今日の任務は以上だな。さっさと帰還するぞ。彼らが基地に到着する前に、俺らが着陸していねぇとな』
そういって中里はアフターバーナーを点火して基地に向かう。
とにかく中里の操縦に振り回された神崎は、少々やつれて基地に帰還するのだった。