「勇者パーティーに一人、何も仕事をしていないやつがいる!」 作:名前を考えるのが苦手な人
暖かい目で見てくれると嬉しいです。
今からおよそ1000年前。世界は魔王によって崩壊の一途を辿っていた。
まず初めに、獣人の国が滅亡した。人間よりも高い身体能力、そして圧倒的な武力を持った彼らは、魔族の扱う魔法によって呆気なく壊滅したのだ。
次に滅びを迎えるのは、当然人間だろう。一つ、そしてまた一つと国が滅びていくのを見て、人々が希望を失い始めた時、勇者が現れた。勇者は、その圧倒的な力と精霊によって造られた聖剣を手に、見事魔王を討ち倒したのだ。
そして今、世界は魔王の復活という危機に晒されている。
…それが、俺が転生したこの世界の大まかな歴史である。
「俺いらなくない?」
「またそれか…」
左手に持ったジョッキの氷がカラカラと音を立てる中、愚痴を言い始めた俺を、目の前のショタジジイが呆れ顔で見つめる。
またとは何だまたとは。俺は真剣に悩んでいるというのに!
「だって実際そうだろ。最近の戦闘見てるか?俺なんて後方で突っ立ってるだけだぞ?前衛のはずなのに」
「なら前に出れば良いじゃないか」
「出ても意味ないんだよ。勇者ちゃんの範囲攻撃で敵が全部死んでんだから」
「じゃあ諦めなよ」
「もうちょっと真剣に聞いてくれよ。100年間も関係が続いてる親友が悩んでるんだぞ?」
そう、俺が悩んでいるのは勇者パーティー内での俺の立場だ。俺は魔王を倒すために結成された勇者パーティーのメンバーなのだが…最近、勇者ちゃんが強すぎて俺の立場がない。
…一応言っておくが、俺が弱いんじゃない。勇者ちゃんが強すぎるのだ。
勇者のみが扱える聖剣による範囲攻撃や、アホみたいな量の魔力から繰り出されるバケモノ火力の魔法。あんなん使われたら俺みたいな凡人が勝てるわけないだろ!
「そもそも、キミだって何もしてないわけじゃないだろう?」
「いやほぼ何もしてないようなものだろ。俺の最近の仕事なんて野営の見張りか料理くらいしかないぞ、前衛なのに。
…はあ、せめて右腕が動いてくれればなあ。もうちょいちゃんと戦えるのに」
前に出れない前衛とかただのカスである。見張りなんて当番組めば俺がいなくてもできる。料理だって目の前のショタジジイが作ればいい。
代わりがいくらでもある役割しかできてないのは精神衛生上よろしくないのだ。俺の場合、前世が社畜だったのもあって、仕事がないと落ち着かない。
…なんでそんな呆れた顔で見てくるんだショタジジイ。
「別に仕事がないと死ぬって訳でもないんだから、気にしなくて良いと思うんだけど」
「正論は求めてないんだよ人外ショタジジイ」
「誰がジョタジジイだ。ボクにはメルゼっていう名前があるんだけど」
この状況で正論をぶつけてくるなんて。やはり人外は人の心がわからない…!
「はぁ…。勇者パーティー抜けたい…」
「あ」
「なんだ、なんかあったのか?」
ポツリと呟くと、メルゼが、『しまった』という顔で声を漏らす。それに困惑していると、肩に手が置かれた。
後ろを振り向くと、そこには笑顔の勇者ちゃん。
「お?勇者ちゃん。お前も飲むか?」
「……ボク知らなーい」
メルゼが何故か逃げるように席を離れる。その間も勇者ちゃんは黙ったままだ。
…なんか勇者ちゃん様子おかしくね?
「…ねえ、キョウカ。勇者パーティー辞めたいってホント?」
「えー…まあ、そうだなぁ。俺がいても何もできないし」
「…別に何もできなくて良いんだよ?それに、キョウカはいろんな事やってくれてるでしょ?」
…すっごく気を遣われている…!ごめん、別にそんな病んでるとかじゃないんだ。ただ酒の席でちょっとした愚痴を言ってただけなんだ。
こう…なんか、『あの上司ムカつくから殴りてえ』とか『仕事辞めて遊んで暮らしてえ』みたいな感じのノリだったんだ。
「あー…ごめんな、気を遣わせちゃって」
「そんな事ないよ!…それで、えっと…勇者パーティー辞めないよね…?」
「辞めないよ。そもそも、勇者パーティー辞めたら俺路頭に迷っちゃうしな!」
片腕が使えない時点でまともな仕事できなそうだし。
…もしかして、俺が考えるべきは旅が終わった後の事なんじゃないか…?
ヘデラと話すキョウカを遠くから見つめる。あのバカは彼女の感情に気づいてないんだろうか?
…気づいてる訳ないか。なにせ「俺は何もしてない」とか言い出すあのバカな事だし。ヘデラ…勇者に剣術を教えたのは自分であるという事実は、彼の記憶からすっかり消え去っているらしい。
それに、最近の戦闘でも普通に仕事してたし。確かに雑魚はヘデラが最速で蹴散らすせいで倒せてないけど、強敵との戦闘…例えば四天王だとか、そう言った戦いでは普通に役に立っている。
四天王の側近三人を一人で抑えることが仕事じゃないなら、逆に何が仕事判定になるんだろう?魔王の相手を一人でするとか?
そもそも片腕が使えない状態でこの旅に着いてこれてるのがおかしいのだ。
いくら彼が不老とはいえ、彼の体が通常の人間のそれであることは変わらない。それが勇者の旅に着いてきているなど、ボクも当事者じゃなかったら冗談だと思って笑い飛ばしていたくらいだ。
…まあ、そんな与太話みたいな事を大真面目にやらかしてくれるから、ボクは彼を勇者パーティーに引き入れたんだけどね。
さあ、次はどんな事をしてくれるんだろう。少しだけ楽しみだ。