メガゾーン23 中川真二「7G -最初の接触-」 作:tell M.G.
ガーランドのテストから二日目。
中川真二は、ほとんど眠れていなかった。
「……イヴ……」
あの声。あの映像。
頭から離れない。
――“人類が狙われている”
――“解除される”
現実とは思えない言葉。
だが、あの感覚だけは異様に生々しかった。
⸻
出社しても、周囲はいつもと変わらない。
誰もが普段通りに仕事をしている。
笑い声。
キーボードの音。
何気ない会話。
(……本当に、何も知らないのか……?)
真二の胸に、重たい疑念が沈む。
デスクに座り、ガーランドのデータを開く。
マニューバスレイブ。
思考伝達装置。
読み進めるほどに、それは“バイク”の枠を逸脱していた。
「……おかしいだろ……」
思わず漏れる言葉。
(……誰かに伝えないと……)
その考えは、もう揺らがなかった。
だが――
会社の人間は信用できない。
ならば、
外部。
「……矢作……」
矢作省吾。
かつての友人。
今は疎遠だが、少なくとも“こちら側”ではない。
「……あいつなら……」
しかし、直接連絡するわけにはいかない。
この件は、あまりにも危険だ。
もし誰かに監視されていたら――
「……間に人を挟むか……」
真二は静かに呟いた。
⸻
夕方。
真二は仕事を終えると街へ出た。
向かった先は、矢作省吾がアルバイトをしている店。
見慣れた看板。
ガラス越しに店内を覗く。
忙しそうに動く店員たち。
(……いるか……?)
扉を開ける。
「すみません」
近くの店員に声をかける。
「矢作って、今日いますか?」
「今は上がってますけど……知り合いですか?」
「ええ。ちょっと渡してほしいものがあって」
ポケットから、小さく折りたたんだ紙を取り出す。
一瞬だけ、指が止まる。
だが――
「これ、本人に渡してもらえますか」
店員はやや不思議そうな顔をしながらも受け取った。
「分かりました。一応、預かりますね」
「お願いします」
それだけ言い残し、真二は店を後にした。
⸻
紙に書かれているのは、短い一文。
「明日◯時、〇〇駐車場で待つ。モーターフレンドより」
名前はない。
だが、それでいい。
(……来るはずだ……)
確信にも似た思いが、胸の奥に灯る。
⸻
その頃。
夢叶重工・地下ブロック。
「……本日のログ、異常なしです」
オペレーターの声が静かに響く。
「そうか」
モニターを見つめる男は、短く応じた。
画面には、ガーランドのステータス。
――待機状態。異常なし。
「7G反応は?」
「検出されていません。初回テスト時の異常波形も確認できず」
「……そうか」
わずかに目を細める。
「適合したはずだが……」
低い呟き。
だが、データに異常はない。
すべては“正常”。
「引き続き監視を続けろ」
やがて――
業務終了。
照明が一部落とされ、人の気配が消えていく。
足音が遠ざかり、扉が閉まる。
そして、静寂。
⸻
夜。
夢叶重工。
人気の消えた通路を、真二は静かに歩いていた。
足音だけが、やけに響く。
(……本当に、やるのか……)
問いかける。
だが――
答えは、もう決まっていた。
「……行くしかない」
ガーランド保管区画。
セキュリティロックを解除。
重い扉が、ゆっくりと開く。
そこにある、
サンドベージュの機体――ガーランド。
まるで
最初から待っていたかのように。
「……頼むぞ……」
誰に向けた言葉でもない。
それでも、口に出していた。
ゴーグルを装着。
跨る。
キーをひねる。
――フォー……
低く、また甲高い起動音が、静寂を震わせる。
その瞬間、
迷いが、消えた。
ゆっくりと発進。
地下通路を抜ける。
外部搬出口。
夜の空気が流れ込む。
街の灯りが、遠くに見える。
そして
ガーランドは――
闇の中へと走り出した。