ゲヘナに棲まう龍 作:初心者先生
「ところでこれは実質入学初日ってことでいいのか?」
ゲヘナの校門とその向こうに広がる巨大な校舎を眺めて俺はそう呟いた。
キヴォトスにやってきて4日、制服に袖を通し、多少慣れてきたとはいえこれまでの人生で履くこともないと思っていたものに対する拭いきれない強烈な違和感を感じながらスカートを履き、適当に目についた必要そうなものをいくつかバッグの中に放り込んだ後ポケットに一昨日絡んできたスケバンから
(いやーにしても広いこと広いこと……ゲームとして眺めるのとはやっぱりまるで違うな、規模が違うわ)
校門をくぐり歩きながら感じるのは圧倒的広さという他ない、どこ見渡しても常に視界の中に校舎のどこかしらかがチラつくレベルとは思っていなかった。そんな呑気なことを考えながら歩いていると不意にある当たり前の事実に思い至る。
――――あれ、そういえば俺どこのクラスに行けばいいんだろう。
一年生のクラスなんだろうけどその中でもどこに行けばいいのかまではさっぱりだ……学生証は持ってるんだけどこれ、クラスまでは書いてなかったもんなぁ。
ここは少し怖いけど誰かに聞くしか方法はなさそうだな……よし、ちょうどいいところに生徒がいるしあの子に聞こう。いざファーストコンタクト……そういえば俺ここに来てから何気にマトモに会話したことあんまりないな、上手いこと話せると良いんだけど。
「悪い、そこの…あー、同級生?」
「あ"?何だよなんか文句でもヒッ!?」
「ひっ?」
「か、勘弁してください命だけは!!!!命だけはとらないでください!!!?!??」
「とらないが!!!??!」
何でこんな猛獣が何かみたいな扱い受けてるんだ俺は、そんな怖がられるようなことした覚えは……うん、ちょっぴりだけあるかも。具体的には肉体スペックの把握。あと目つきがちょっと悪いのかもしれない、別に切れ長吊り目なだけでそこまで怖がられるようなもんなのかなぁ。
「落ち着いて聞いてほしい、別に何か危害を加えようとしているわけじゃないんだ。で、話というのがだな」
「じゃ、じゃあブラックマーケットかどこかのペーパーカンパニーに売られる……??」
「おい待てやコラ」
俺のことなんだと思ってるんだ。
「ヒッ!?!?!や、やっぱり怖い〜〜〜〜!!!!」
「あっちょっ行かないで!?」
凄まじい速度で逃げられた。嘘ぉ。
ちょっと走れば追いつけなくはなさそうだけどあれだけ怯えてる子にさらに追い縋るのも憚られるので少し肩を落としてから移動再開、目的地はどこにあるのか全く不明の自クラスな訳だけどこれ本当に見つけられるのかなぁ……??
「無理!!!!」
あれから都合10人ほどに声をかけ全員から逃げられましたとさ。何なら銃弾叩き込まれたわ、超至近距離で全弾ノーガードで喰らっても痛がる様子もなくピンピンしてるもんだからバケモノ呼ばわりされて悲しかったです。いやまさかあそこまで拒絶されるとは全く思っていなかった、あとなんかみんな俺のこと怖がってるんだけどもしかしてかなり噂になってたりする?
「始業のチャイムはもう鳴っちゃって誰もいないし……どうしよ……」
これはもう諦めるしかないのか。いやいや流石にここでへこたれるようじゃこの学園都市じゃやっていけないだろう、あと数人に声をかけてそれでもダメならいっそのこと
「実力行使……」
はっ、今何を考えてたんだ今。キヴォトスに染まってるぞ。
いやにしても本当にどうしようか、最悪昼まで待って食堂に向かう子に混じって移動とかが1番現実的な気がしてきたぞ。陰キャすぎないか俺、ん?
ため息を吐きこれからどうしようかと考えたその時、鋭くなった感覚が周囲から集まってくる人の気配を察知した。
(なんかやたら数が多いな……それに統率が取れてる、何だろ、不良グループって感じはしないな)
真っ先に思い浮かんだのはここ数日にわたって潰してきたスケバン連中が徒党を組んで復讐、だけどスケバンにしては動きが妙だ。この学園で、統率の取れた動き。4、5人規模の話ではなく2、30人はいる……そんなの、思い当たる節は1つだけだ。
そして答えはすぐやってきた。
「動くな!!!!風紀委員会だ!!!!!」
「…………何もやった覚えがないんだがな?」
―――――ゲヘナ学園風紀委員会。
◇◇◇
「もう一度繰り返すが俺は何もやった覚えがない、人違いか何かじゃないのか?」
「話は拘束してから聞く!自分から出向くか私達に取り押さえられて連行されるかを選べ!!」
通常ゲヘナ学園風紀委員会はここまで強引に生徒を連行することはない。本来であるならばもう少し少人数であるし強制連行することもない、これはつまりルカの実力を警戒した為の措置である。
ここ2日間でルカが襲ったスケバングループは大小併せて6つ、さらにその中の1つは風紀委員会も手を焼くほどの大規模グループであり手をこまねいていた存在だった。………それをルカが単独で壊滅させるまでは。この時点でルカに対する風紀委員会の警戒度は跳ね上がり、今朝登校した段階で証言とかなり近しい人物を捕捉したことによりゲヘナ風紀委員会36名による個人に対する異例と呼んで差し支えのない
「一応確認しておくが、燐堂ルカで間違いないな?」
「……まぁ、一応」
「お前に先程も伝えた通り自分からついてくるか無理矢理ついてこさせられるかのどちらかを選んでもらう、どっちが良い?」
「驚くほど強引だな、ここの風紀委員会はそんな強権を持ち合わせていたのか?」
「普段振り翳すことはないが治安維持の為ならやむを得ない場合もある。それで……返答の方は?」
「考える時間も満足には貰えないのか……断らせてもらう、理由もなしに連行されるほどお人好しじゃないんでな」
一瞬の問答はあっさりとルカが拒絶の意を示したが為に終結を迎える。一瞬の静寂、何だ何だと授業中にも関わらず早々に意識を窓の外に外していた窓際の生徒達が見守る中で。
「そうか!!ならこちらも容赦はしない!!総員戦闘開始!!!」
戦闘が始まる。