メガゾーン23 二つのガーランド「交差」 作:tell M.G.
ガーランド開発計画に関わった者達、そしてMZ23を巡る戦いの裏側を描いた物語です。
中川真二によるガーランド奪取事件から始まり、PartⅠ〜PartⅡ終盤までの出来事へ繋がっていきます。
本編では描かれなかった兵士達、開発者達、そしてB.D.最終決戦へ至るまでの群像劇となります。
数日ぶりの静けさだった。
街の喧騒は変わらない。
だが、自分の中だけが妙に空虚だった。
——終わった。
そう思っていた。
あの戦い。
ガーランドシックスでの出撃。
生き残ったこと自体が、奇跡に近い。
「……」
榊原光一は、手元の缶を軽く揺らす。
中身はもう残っていない。
「セブンは来なかった、か……」
ぽつりと呟く。
本来なら、次があるはずだった。
新型——ガーランドセブン。
だが、それは現れなかった。
理由は分からない。
だが一つだけ、はっきりしていることがある。
「……お役御免、ってやつだな」
自嘲気味に笑う。
軍からは“休め”と言われた。
半ば強制的に。
英雄扱いでもなければ、称賛もない。
ただ——距離を置かれた。
それが現実だった。
ピリリ、と電子音が鳴る。
古い端末。
見慣れない識別コード。
光一は眉をひそめる。
「……なんだ?」
表示されたのは、短い文章だった。
——出頭命令。
場所と時刻だけが、無機質に並んでいる。
「は……?」
思わず声が漏れる。
休暇中の人間に出す内容じゃない。
だが、そのコード。
見覚えがある。
「……軍、か」
沈黙。
数秒。
やがて、深く息を吐く。
「……面倒くせぇな」
だが——無視する選択肢はない。
⸻
指定された場所は、表に出ていない施設だった。
地図にも載っていない。
厳重なチェック。
無言の兵士たち。
その奥へと通される。
「……相変わらずだな」
光一は小さく呟く。
こういう場所には、ろくな話がない。
通された部屋は、簡素だった。
机と椅子。
それだけ。
やがて、扉が開く。
入ってきたのは、見覚えのある男。
軍の技術士官。
シックスの時にも関わっていた人物だった。
「久しぶりだな、榊原」
「……あんたか」
光一は椅子にもたれたまま答える。
「で、なんの用だ?」
単刀直入だった。
男は一瞬だけ間を置く。
そして言う。
「新型のテストパイロットを探している」
「……は?」
予想外だった。
いや——予想外すぎた。
「冗談だろ」
思わず笑う。
「セブンはどうした」
男は答えない。
その沈黙が、逆に答えだった。
「……来てねぇのか」
「計画は変更された」
淡々とした口調。
「より上位の機体開発が進んでいる」
光一の表情が変わる。
わずかに。
「……上位?」
男は頷く。
そして、ゆっくりと告げる。
「コードネーム——“ゼロ”」
空気が変わる。
光一は黙る。
その言葉の意味を測るように。
「完成はしていない」
男は続ける。
「だが、動かせる段階には来ている」
「テスト段階ってことか」
「そうだ」
短い会話。
だが、その裏にあるものは重い。
光一は目を細める。
「で?」
核心に踏み込む。
「なんで俺だ」
男は一瞬、視線を外す。
そして——
「お前は、生還した」
「……」
「シックスでな」
光一は鼻で笑う。
「それだけか?」
男は首を振る。
「違う」
そして、はっきりと言い切る。
「“扱えた”からだ」
沈黙。
その一言は重かった。
ただ乗っただけではない。
使いこなした。
それを見ていた人間がいる。
「……」
光一は視線を落とす。
脳裏に蘇る。
あの感覚。
機体と一体になった瞬間。
「……厄介だな」
小さく呟く。
「そういう理由はよ」
断れない。
分かっている。
しばらくの沈黙の後——
光一は顔を上げる。
「条件がある」
男が眉を動かす。
「なんだ」
光一はゆっくりと言う。
「中途半端なもんには乗らねぇ」
その目は、本気だった。
「死ぬ気で作れ」
部屋の空気が張り詰める。
男は数秒、黙り——
そして頷いた。
「……了解した」
光一は立ち上がる。
「場所は?」
「案内する」
扉が開く。
その先は——さらに深い領域。
まだ誰も知らない場所。
まだ誰も知らない機体。
そして——
“ゼロ”へと続く道。
榊原光一は、一歩を踏み出した。
それが——
再び戦場へ戻る合図になるとも知らずに。