メガゾーン23 二つのガーランド「交差」 作:tell M.G.
重い隔壁が、ゆっくりと開いていく。
金属が擦れる低い音が、空間に響いた。
その奥——
照明に照らされ、静かに佇む機体。
「……これが」
榊原光一は、わずかに目を細めた。
そこにあったのは——“ゼロ”。
だが、その姿は記憶の中のそれとは明らかに違う。
「デカいな……」
思わず漏れる。
ガーランドシックスと比べても、二回りは大きい。
実際に大型化されているのは、一目で分かった。
全身を覆う重装甲。
無骨なまでに厚い外殻。
そして——
至る所に配置されたバーニア。
まるで「動くために作られた塊」のようだった。
肩部は大きく張り出し、威圧感を放つ。
頭部は装甲が削ぎ落とされ、内部フレームや機構が露出している。
未完成にも見えるその構造が、逆に異質さを際立たせていた。
「……重そうだな」
それが、光一の第一印象だった。
コクピットハッチが開く。
内部は従来のガーランド系を踏襲している。
だが、余計なものは削ぎ落とされていた。
「……乗れってことか」
呟き、光一は機体へと乗り込む。
シートに身体を預け、コンソールに手を置く。
「ゼロ、起動」
応答は、即座だった。
システムが一気に立ち上がる。
視界に情報が流れ込み、機体との同期が始まる。
「……」
違和感。
「軽い……?」
巨体に似合わない反応速度。
操作に対する追従性は異常なほど高い。
「シックスより……速い?」
「どうだ、榊原」
通信が入る。
「悪くない。むしろ扱いやすい」
そう答えた直後だった。
「——リミッターは未調整だ」
一瞬、思考が止まる。
「……未調整?」
「現在は出力制御を段階的に確認している。
完全なリミッター制御はまだだ」
「つまり——」
光一の声が低くなる。
「この状態で、ほぼノーリミットってことか」
その瞬間。
機体が“跳ねた”。
「っ——!」
出力が突発的に上昇する。
意図しないバーニア噴射。
機体が前方へ滑る。
「止まれ……!」
スロットルを戻す。
だが、反応が一拍遅れる。
その僅かな遅れが——致命的だった。
ドンッ——!
重い衝撃。
機体が姿勢を乱す。
「くそっ……!」
強引に姿勢を立て直す。
静止。
だが、内部の出力はまだ不安定に揺れている。
「今のは……何だ」
「出力のピークが制御しきれていない。
リミッターの調整段階だ」
「調整で済むレベルかよ……」
光一は吐き捨てる。
しばらく沈黙。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……なるほどな」
「何がだ?」
「扱いやすい理由だ」
コンソールを軽く叩く。
「“今は”抑えられてるだけだ」
視線を前に向ける。
「出力の山が来た瞬間に破綻する。
リミッターが追いついてない」
それはつまり——
「この機体、制御前提で作られてねぇな」
誰も答えない。
それが答えだった。
光一は小さく笑う。
「……やっぱりか」
そして、静かに言い切った。
「こいつは——まだ“完成してない力”だ」
後に、この機体は幾度もの制御調整を受けることになる。
出力を抑え、安定性を確保する試み。
だが——
抑えれば抑えるほど、本来の性能は失われていった。
「制御」と「性能」。
その両立は、最後まで開発陣を悩ませることになる。
そして、その試行錯誤の果てに辿り着いた一つの答え。
力を完全に封じるのではなく、
“扱える範囲で活かす”という選択。
それによって完成した機体は——
後に「ヴィルデザウ」と呼ばれる。
だが、それでもなお
この力は、誰にでも扱えるものではなかった。
過剰な出力。
過剰な応答性。
選ばれた者にしか扱えない機体。
それは、戦場においては“切り札”であると同時に——
運用の制約でもあった。
やがて、別の結論が導き出される。
この力を、より扱いやすく
より現実的な戦力として運用するために。
コクピットの中で、光一は呟いた。
「……面白ぇじゃねぇか」
その目は、危険な機体を前にしてなお——
僅かに楽しんでいた。